あいつが...彼女の宝物
"風花のセト"を捜すより白ひげ海賊団を捜す方が楽だった。
白ひげはこの広い海を堂々と闊歩しているわけで、隠れて生きていた"風花のセト"より断然目立つ。世界最強の男が居る海賊団...その昔はやり合った事もあったのが懐かしい。その割には船長同士が仲良くて...二人だけの時間をよく過ごしてたっけな。
「お頭、監視船が気付きやしたぜ」
「そうかァ...交戦準備」
大きな海賊団...いわゆる四皇には大抵監視船が付いてる事が多い。
それを捲いてだらだら過ごしていてもまた監視は付く。おれらの監視船はすでに捲いて、今居るのは...白ひげ海賊団の監視船、つまり海軍だ。これが意味するのは、"風花のセト"が近い、という事。
「お嬢さんは待機。船長室に居てくれ」
「.........はい」
「なァに。すぐ終わる」
頭を撫で、船内へ入るよう促す。
心配そうな表情というよりは申し訳なさそうな表情。真っ直ぐ、何も無く航海していればこんな事にもならなかったのに...とでも思っているんだろう。あながち間違いじゃねェが、それじゃおれが困る。
お嬢さんを安全な場所へ避難させて...向こうが仕掛けて来たから派手にやれと指示した。但し、遊んでいる時間は無い。すでにそちらに寄ると伝えた白ひげたちが待ってる。生憎、誰かを待たせるのは趣味じゃねェ。早いとこ済ませるよう、改めて指示した。
「待たせたなお嬢さん」
大した階級も持たない海兵は例え軍艦でやって来ても相手にならない。
ましてやただの監視船...早々にカタは付いた。だからお嬢さんを迎えに行ったわけだが...相変わらず浮かない顔をしたままだった。
「シャンクスさん...」
「そんな顔すんな。おれたちは大丈夫」
「.........ごめんなさい」
「問題は海軍じゃねェ。白ひげだ。もう見えてる」
窓の外、手招きして見せたのは...白ひげの船。
お嬢さんの勘が当たっているならば"風花のセト"は何も知らずあの場に居るだろう。
「ようやく会えるぞ」
甲板に居るかどうかは危ういが、そこはおれが事情をマルコにでも話せばいい。
お嬢さんの頭を撫でて「行こう」と促せば、少し不安を抱えたままおれの後に付いて来た。
こちらの信号に対して、向こうからの返事は無いとベンは言った。
それもまァよくある事で仕方なく小舟を一隻用意させた。向こうへ向かうのは当然、おれとお嬢さん。大勢に見送られて船を出した。
白ひげの船が近付けば近付くほど...お嬢さんは不安になったらしく、おれのシャツを強く握り始めていた。それはもう無意識に。出来れば気を落ち着かせてやりたかったが...おれも不安だった。一人ならまだしもお嬢さんと一緒で...何か起きれば白ひげとの戦争すら始まると思ってるからだ。
優先順位は全てお嬢さんだ。
彼女に何かあれば...おれは戦争も厭わない。
「よし!着いた!ちょっとだけ此処で待っててくれ。落ち着いたら呼ぶから」
梯子がある。ということは信号を受けた証拠。
但し、向こうに戦意があるか無いかは分からない。少なくとも...何かしらの敵意は感じなくもない。
お嬢さんは覇気使いでは無いらしい。
向こうに当てられて倒れられても困る。本来の目的が果たせなければ意味は無い。だから、今は此処に残ってもらった。
甲板には相変わらずの隊長たちと一部の部下、そして...白ひげが居た。
一応、酒は用意してたから一番近くに居たマルコに渡した。それでも消えぬ殺気...でも用件があるのはおれじゃない。そして、会いたかったのは...新人でありながら甲板に残っていた"風花のセト"だ。他は、ただのギャラリーになる。
「オーイ、上がって来れるかァ?」
誰もが興味深く眺める。出来れば...あんま見て欲しくねェがそうも言えない。
懸命に登って来たお嬢さんが降り立った。当然、誰もが疑問に思ったんだろう。殺気が一気に弱まって...白ひげですら滅多に見れないツラしやがった。
「......失礼、します」
律儀にお辞儀をしたお嬢さんの目に"風花のセト"が映った。
その瞬間の何とも言えない表情になるもんだから...年甲斐もなく嫉妬した。本当に会いたかったんだと分かるくらいの表情、それを向けられた"風花のセト"に嫉妬した。だが、
「何も言うな!今、此処で――...っ」
悲鳴にも似た叫び。それはまるで...お嬢さんのようだった。
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