あなたを...ようやく見つけた
赤髪海賊団が白ひげ海賊団に会うのは難しくは無い、とシャンクスさんは笑った。
何故難しくないのかは分からない。だけど私を乗せてしまったが為に海域を逆走することになった挙句、途中で海軍に見つかって交戦開始という惨事を招いた。誰も文句は言わなかったけど、私は酷く後悔していた。私さえ居なければこんな面倒なことにはならなかったはずだ。
いつだって他人を巻き込むだけの自分は、なんて役立たずな人間なんだろう。
戦闘で怪我をしては困る、とシャンクスさんに言われて船長室で膝を抱えているだけの自分は何も成長していない。戦闘に不向きだったことは分かってる。足手まといになることも分かってるけど...自分が情けない。
響く音が、どんどん小さくなって気付けば消えた。
それと同時にシャンクスさんが私のところへとやって来た。
「待たせたなお嬢さん」
「シャンクスさん...」
「そんな顔すんな。おれたちは大丈夫」
「.........ごめんなさい」
「問題は海軍じゃねェ。白ひげだ。もう見えてる」
つかつかと窓に向かうシャンクスさんが「ほら」と指差した先には噂に聞くクジラのような形の船。海賊旗は...白ひげのもの。
「ようやく会えるぞ」
嬉しそうにシャンクスさんは笑って私の頭を撫でた。
ある一定の距離で船を停め、小さな船が降ろされた。乗り込むのはシャンクスさんと私。
副船長さんが言った。「一応信号は送ったが返事は無い。全員で乗り込むと厄介だから二人で行け」と。彼の吐いた紫煙が空に呑まれてく。皆、笑って「気を付けて行けよ」と声を掛けてくれて、私は全力で頭を下げた。「ごめんなさい」と「有難う」と告げて船に乗り込んだ。
空島の風貝がいくつも搭載された船はどんどん彼女が居るであろう場所へと進んでいく。
近付けば近付くほど怖くなっていく。彼女が此処に居るのは間違いない。これで会えると分かっているから、怖い。
私を見て彼女は何を思うだろうか。
何を考えてどんなことを言うのだろうか。そもそも私に話すことなどあるのだろうか。私に、もう会いたくないと思っているのだろうか。分からない。だけど私は、会いたい。
「よし!着いた!ちょっとだけ此処で待っててくれ。落ち着いたら呼ぶから」
シャンクスさんが楽しそうに笑ってそう言った。
歓迎するつもりはないと思うけど迎える準備だけはされていて、船の端に縄梯子が垂らされている。それをひょいひょい登っていくシャンクスさんを見つめ、無意味にも願う。それは彼女が居ますように、ではない。シャンクスさんに何も起こらないように、と願う。
馬鹿なのかと思う。そんな願いをするくらいなら、と心で自分が嘲笑う。
巻き込んだのは私で、全てが私の所為。
私がいつもまでも甘ったれてる所為でこんなことになったんだろ、と笑う。何かあった時のオトシマエはどうするんだ?と自分が笑う。その時は......私の命一つで許して欲しい、と脳内の自分が告げた。
「オーイ、上がって来れるかァ?」
間もなくしてシャンクスさんの声が聞こえた。私は慌てて縄梯子に足を掛けた。
怖い。怖くない。本当は?怖いくせに。何が怖いの?
沢山の自問自答の言葉が脳内を巡る。それでも体は上へ上へと進んでいく。全てがバラバラに作用していく。
「......失礼、します」
登り切った先に広がっているのは、とても広い甲板。
沢山の人、沢山の男...恐怖で強く拳を握った。それでも私はシャンクスさんの元へと歩いた。
そして、彼女を見つけた。
「お久しぶり、です。ようやく、会えたね」
自分の声がカラカラで、緊張で喉が渇いてた。
彼女は大人になっていた。背がまた少し伸びてるみたいだし、また体を鍛えたんだと思う。少し硬化してるように見えた。その表情は呆然から驚愕へ......そうね。彼女は思い出したくないことを思い出している。
全ては私のエゴだ。それでも彼女に会いたかった。
シャンクスさんが何か話していて私も合わせて返事をしてるようだけど、その会話は脳内に入っていない。自分が何と返事しているかも分からない。ただ、分かっていることは彼女が私を見ていないことだけ...今まさに船内へ戻ろうとしてる事実だけ...
「何も言うな!今、此処で――...っ」
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