皆、もう遠い昔すぎて忘れちまったかもしれねェが、あのナースたちだって最初は一般的な女だった。
嵐が怖い、雷が怖い、怒られるのが怖い...ってなカンジの男が好む女だった。だがどうだろう今の姿は。怖いものなしで唯一怖がるとしたら...自分が年1で老いることだ。最初は見ることのあったスッピンなんぞもうここ何年も見てねェよい。
「おいエリス」
「何でしょう」
きょとんとした顔はガチでサッチ好み。
「セトが倉庫整理してるから手伝って来い」
「了解しました」
素直な返事も揺れるポニーテイルもまたサッチ好み。
倉庫整理へと向かう彼女の背中を鼻の下を伸ばしたまま眺めるサッチをもう一回殴ってみる。勿論、それは負けた分際でへらへらしてたもんだからムカついて殴った、わけじゃねェ。
「イイ年こいたオッサンが現を抜かすんしゃねェよい」
「なっ、現を抜かしてるんじゃねェ。恋だ恋」
「それの何処が現を抜かしてねェになるんだよい!!」
花畑かお前の脳内は!と言えば花畑になれたら幸せだとのたまいやがったから更に殴った。
「どうせ付き合うことも出来ねェんだ。もう夢は見るなよい!」
「え、おれ、あの子と、付き合えねェ、の?」
「無理だろうよい!馬鹿ヘタレ!」
人差し指を突き付けて宣言してやれば随分とまァショックを受けたらしくサッチは項垂れた。
コイツはいつもそうだ。戦闘に関しちゃ申し分ないが基本はヘタレだ。行動力は無くもないんだが何をやらかしてるのかナンパは惨敗続き、丘へ降りればそれなりの店に捕まってボッタくられる。で、時折、その恋とやらをしたとしても何も言うことが出来ずに終わっていく。その姿をもう何年と言わず見て来たおれが断言してやっていい。このままじゃヘタレすぎて付き合うことはない。
「大体なァ、現状で何の変化があるっていうんだい」
物陰からコッソリ彼女を見て悶えて、特に面白くもない話題を振って逃げられて、同性であるセトに常に嫉妬して、それでどうしろと。
「エースみたくストーカーになれとは言わねェけどお前もうちょっと、」
「分かった!!」
項垂れていた頭をバッと上げたかと思うとおもむろにおれの肩を掴むサッチ。名案でも浮かんだのか、やたらと目が輝いている。
「緊急会議だマルコ!!」
「.........はァ?」
「緊急会議を執り行う!!」
とか叫びながらサッチは物凄い勢いでおれを掴んだまま走り出す。
目指すはどうやら船内、合間にエースを見つけて「招集!」と叫んだからエースも付いて来た。何とも言えない光景に擦れ違うクルーが首を傾げているが誰も止めちゃくれねェ。それぐらいサッチは真剣な顔をしてるんだろう。だがおれの腕は放せ。
「で、何の騒ぎだマルコ」
「.........緊急会議だとよい」
盛大に溜め息を吐くおれとは裏腹にエースの目もまた輝いている。普段なら嫌がるはずなのに主催がサッチともなると面白そうに感じるのだろう。
「招集!招集!」
「イェーイ!」
.........誰でもいい。この馬鹿共を止めて欲しいと本気で思った。
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