馬鹿は死んでも治らない
結局、あいつらはサッチの様子見に行くことになって何故かおれもついてくことになった。
馬鹿がブッ飛ばされて脳震盪起こしてジョズに運ばれて...今までだったら誰も見舞うことはねェ。逆に復活した時に爆笑で快気祝いするくらいだ。情けない情けない、と馬鹿にしながら。そう、いつかのジョズ・ビスタのように。
「大丈夫ですか?サッチ隊長」
「あ、うん、大丈夫大丈夫。ただちょーっと油断してさ」
油断...油断ねェ。ハナからすんなっつーの。
大体、あいつが連れ帰った「白兵」だってことくらい知ってるだろ。見た目がああでも一国の護衛隊長務めてたヤツだぞ。能力者ならともかく、生身が油断したまま勝てるようなものじゃねェ。
「.........ただ弱いだけのくせに。な、エース」
「そう言うなよ。聞こえる」
「はい、聞こえてるよそこ!!」
そう、一瞬の油断で下剋上されるんだ。少なくともそこに一例あるじゃねェか。
未だ雑用みたいなことしかしてねェけど戦闘で先陣切って暴れるヤツが。少なくとも実力ではサッチより上だと下っ端には見做されてる。それこそ本当に総入れ替え戦でもしたら...隊長になりかねない布石がすぐ傍に。
「本当にごめんなさい。傷は...」
「ないない!大丈夫だ」
「.........とか言いながらデカいタンコブあんだろ?」
「それはあるけどもね!てか、お前、全然援護してねェし!」
「船とギャラリーは守った。アンタは範囲外」
「鬼!鬼がいますよ!!」
.........真剣に悩む。本当に一度決め直す必要ってあるかもねい。
「本当に、養生して下さいね。頭は大事です」
「あー...大丈夫!最初っから空っぽだ!」
「てめェに言われたくねェぞエース!」
と、おれが悩む間もこの子供染みたトークが繰り広げられてる。
四皇"白ひげ"のクルーはいつからこんなに若々しくなっちまったかねい。ここだけ見りゃ完全に小生意気なルーキー(サッチはオッサンだが)の団体だ。粋がっておっ死ぬだけの団体にしか見えねェ、"白ひげ"のクルーなのに。冗談抜きで本隊の編成を見直すかねい。
「はァ...」
「?どうかされましたかマルコ隊長」
小首を傾げてこっちを見るエリスに今までに存在しない可愛らしさを覚える。
この船にゃオンナは少なくとも複数人存在はしてる。ただその中にこのテの存在はいないと言っても過言じゃねェ。ナースたちはおっかねェし、戦闘員・セトはこうだし、孫である子供たちは無邪気で可愛くはあるがエリスはまた違う。多分、強くなきゃ普通の女の子なんだろうよい。その辺の町にいる、ごくごく普通のオンナ。なんたって護衛隊長なんかになっちまったのかは謎だよい。
そう考えると何となく可哀想でまた溜め息が出ちまった。
「え?また溜め息...」
「あー...気にすんなエリス。勝手に悩んで禿げるタイプなんだ」
「誰が禿げるタイプだよい!」
「マルコ。ついでに血圧も勝手に上げるタイプだから気を付けて」
ポンッとエリスの肩を叩いて諭すセト。つーか、おれはどんなタイプだよい!
「分かりました。気を付けます」
「真面目に捉えるな!!」
「ああ、マルコ隊長!血圧上がりますよ!!」
「誰の所為だよい!!」
この船、圧倒的に突っ込みが少ねェのかい!!
エースもサッチも見てるだけとかどういう......あァ、この会話萌えしてたわけかい。このやり取りに混じりたいような傍観して見てたいような...で、おれを勝手にやっかむのは止めてくれ。おれは何もしちゃねェし悪くもねェ。
「.........おれはもう戻るよい」
あとはルーキー(サッチはオッサンだが)だけで遊んでくれい。そんな思いで医務室を後にした。
その後、サッチは数時間後には復活。
当然だが"新参者に惨敗した"と仲間から馬鹿にされることなったわけだが...締まりねェ顔を晒してやがったから殴った。横にはエリスがいて、未だに奴を心配してたとしてもとりあえず殴った。
「痛いわ!」
「あァ悪ィ。エリスに負けた分際でへらへらしてたもんだからムカついて殴った、わけじゃねェよい」
「ええ?それ否定!?」
「ひ、酷いですよマルコ隊長!」
大丈夫ですか?と駆け寄るエリスにデレデレするサッチ...今すぐ滅してくれていいよい。
ウチのクルーには珍しく心も態度も口調も優しいエリスにおれはある意味、恐怖を覚える。これがいつ他のヤツ(主にナースたち)に感化されて豹変するか...そうなった時のギャップにデレデレしてる連中が耐えられんのか、とか考える。
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