あの日あの時、確かに消えてしまいたいことが起きた。それは消えない事実。
それでも今、私は生きていて、生きているからこそ...もう一度会いたいし、真意を知りたい。私は、嫌われてないよねって、聞きたい。
私の所為で起きた、私の所為で彼女に消えない傷が出来てしまった、何も知らず残酷な言葉を投げ付けた、そんな私を嫌わないで、なんて虫が良すぎるけど...それが私の中でどんどん大きくなっている。
「わ、私、嫌われてない、かな、...」
私の傍から消えた彼女。本当はどんな気持ちで去っていったのか。
やりたいことが全て終わったら、帰って来て欲しいと誰もが告げたけど返事はなかった。ただ小さく笑ってた。
「.........おれが、」
シャンクスさんが指先で涙を拭ってくれる。暖かな手。
「おれが"風花のセト"なら、お前を嫌うことはない」
小さく笑う。まるで、彼女のように。
それがまた痛くて嬉しくて懐かしくて、色んな感情がごちゃまぜになって私は泣いた。もう何年も泣いてないのに、泣いてた。
なんて迷惑な客人だろうか。それでもシャンクスさんは私の頭を優しく撫でてくれる。何も言わずに、そっと。だから余計に泣けた。
何が悲しいとかそんなんじゃない。ただただ感情が抑えられなくて涙になる。ずっと止められていた栓が抜けたかのように。
しばらくすると小さなノック音がして誰かが部屋に入って来た。
「お頭、情報を...って、また泣かせたのか?」
「ち、違います、こ、これは、」
歪んだ視界に映ったのは、煙草を咥えた副船長さんだった。
私をちらりと見て、顔色一つ変えずにシャンクスさんを見た。副船長さんとシャンクスさん、交互に顔を見て...シャンクスさんが苦笑している。
「まァいい。"セト"についての報告だ」
「早いな。続けてれ」
私も顔をごしごし袖で拭いて改めて副船長さんを見た。すると、一つ頷いて走り書きと思われる紙の内容を彼は淡々と読み上げた。
インペルダウンに収容された男、ウォーターセブンで雑貨店を営む老父、空島にいる男...と、"セト"と呼ばれる人物の居場所が明らかになる。
何処からその情報を入手してるんだろう、と首を傾げれば、それを汲んでか「長く生きてりゃ色々とある」と言われてしまった。
その色々ってところが少し怖いけど少なくとも悪いことではないと思いたい。
「大した量だな」
「あァ。それと...少し前まで一匹狼の賞金稼ぎもいたらしいんだが、」
「だが?」
「若かった所為か性別が不明。今は消息不明。どうも能力者らしい」
―― 能力者の賞金稼ぎ。
「.........何の、ですか?」
「分からない」
賞金稼ぎは賞金首しか目が無いから情報は得にくい、とのこと。
それもそうだ。敵対した相手は必ず換金されるのであれば、その相手から話を聞くことは出来ない。
彼女である可能性が一番高い情報なのに...消息も絶っているなんて。
「これが最後なんだが...白ひげの新人が能力者で"セト"らしい」
「白ひげ?で、何の能力者だ?」
「さァな。ただ不思議な力で大の男複数人をぶっ飛ばす少年らしい」
赤い髪と白い...ひげ。
「.........その人です」
いつか見たビジョンは赤と白。
赤は赤髪海賊団のシャンクスさん、白は...白ひげ海賊団の船長。不思議な力で大の男を吹き飛ばす、なんて彼女にしか出来ない。
「間違いありません。それが"セト"です」
でもどうして?どうして海賊なんかになったの?
初めて彼女のことが分からなくなった。
彼女は海賊が大嫌いだった。自分の家族を殺し、村の皆を殺した海賊が...死ぬほど嫌いだった。
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