ふにゃっと笑う、君が好き
ルフィみたく危なっかしいが可愛い弟...じゃない。マルコたちみたく仲間で家族...には違いねェけど何か違う。
全く関係のない赤の他人とかの感覚でもなければ死ぬほど嫌いとかねェ、むしろ仲間だし家族だし弟だし好きし...これが堂々巡りした。
結果、答えは至ってシンプル。ただ、好きだ。どうしようもなく、好きだ。
ただただ好きなんだ、と自覚すれば冗談じゃなく欲しいという気持ちが湧いてくる。それがどういう感情なのか、どうしたいのか...おれの中で定まらないのに欲しいと思う。もっと、もっと、あいつを。
「.........今すぐ背から離れろエース」
「もうちょい、」
「これが二度目の警告だ。次は遠くに飛ばすぞ」
セトは...相変わらずだった。
子供たちと遊び、姐さんたちから逃げ回り、時折サッチを苛めて、与えられた仕事と雑務をこなす。表情も前と何ら変わりなくて感情もあまり見せない。必要以上の何かを詮索することもなければ自分のことも話さない。ただ、問われたことには返事をする、そんなカンジ。
「.........あと1分でいい」
「.........分かった。その1分で拳を温めとく」
だけど少し変わったことと言えば...
パリパリした空気が和らいだこと。今にもシュッと消えてしまいそうな、儚い空気が薄れつつあること。まだ時々...見てる方が痛くなるような顔してる時もあるがその度に誰かがセトの空気を変えに行く。空気を変えに行くと言ってもただ声を掛けるだけで特別なことはない。だけどその時にフッと見せる表情...おれは、その表情が好きだ。ふにゃっと歪むような...柔らかくなるような一瞬だけの表情が、好きだ。
地味にカウントダウンするセトは横から見るがいつもの表情。
カウントダウンしてるから口元が揺れる。瞬きしてるから目元が揺れる。それを横から見て、何故か落ち着かない気持ちになるのはおれがセトを好きだからだと思う。他のヤツにはなーんも感じねェから。
「時間だ。背から離れろエース」
「へーい」
ペリッとシールのように離れればセトはまた本日二度目の掃除を続ける。やっぱり、いつも通りだ。
「なァセト」
「何だ?」
「んー...あ、特に用はねェ」
「.........だったら呼ぶな」
甲板に置かれた樽の上から声を掛ければ必ず返事はくれる。
「なァセトー」
「どうせ用はねえんだろ?」
「とりあえず用を作る努力をしてるとこだ」
「馬鹿だろお前」
何とでも言え、と言えば少しだけ振り返ってバーカと言われた。
あいつはいつもと同じ。いつもと変わらない。おれはいつもと違う。どんどんどんどん変化してく。
おれが何度好きだと言っても変わらない。どれだけ好きかを伝えても変わらない。結構、本気で言ってんのに分かってねェ。
「セトー」
「.........んだよ、用件出来たのか?」
「好きだぞ」
「.........またか」
「弟でも兄弟でも家族でもなくマジで愛してるぞ」
「あー...はいはい」
雑な返事をしながらまた少しだけ振り返った。
そこでふにゃっと歪むような...柔らかくなるような一瞬だけの表情を、おれは見たんだ。
ふにゃっと笑う、君が好き
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