「サッチ隊長、よろしくお願いします!」
「お、おう...」
「元・護衛隊隊長、白兵のエリス参ります!」
剣を構えるサッチに律儀にお辞儀をしたエリス、顔を上げたと同時に目つきが変わった。
そして、例のデカブツを抱えて走り出したわけだが...それが異様に、速い。決して軽い身ではないはずだが人より速く、すぐにサッチを射程範囲内に収めた。長物だからな、少し近づいただけですぐに範囲内だ。
デカすぎる得物を思いっきり振り回す。予想以上に速いがその動きが捕らえられないわけではなく避けるサッチ。だが、それだけの得物だからか風圧が強い。楕円に移動した風がサッチを捕らえたらしい。斬られちゃいねェものの、
「っ、」
見事に甲板の端へとブッ飛ばされた。
こうなることを想定していたセトが流れ弾のように押し寄せて来る風の波を冷静に相殺させてる。但し、サッチは無視だが。
これが...彼女が律儀に挨拶して数分後の出来事だった。
振り乱れた髪を適当に掻き上げたエリスの傍にはもうセトが並ぶ。
ブッ飛ばしたサッチがまさかの打ちどころが悪くて脳震盪、で、ダウンとかありがちすぎて全く面白くねェ。と、隊長たちもそそくさと退場してく。アレもたまには骨のあるヤツらと戦わせなきゃ腐っちまうねい。隊長総入れ替え戦か何かするべきなんだろうか。
「大丈夫ですかね...サッチ隊長」
「ああ...殺しても死なねえタイプだから気にしなくていいと思う」
「多分、私を傷つけまいとしてくれたんでしょうに」
.........いいや違うと思うよい。ほれ、セトもそんな顔してる。
随分とマイペースなのは分かった。それから戦闘時のギャップの激しさも。噂は伊達じゃなかったねい。
「お前、はっえーのな動き」
「国中をずっと逃げ回ってましたから...」
「なるほどなァ、逃げ足はえーのは便利だよな」
.........噛み合ってない気がすんのはおれの気の所為か?
何にせよ、これで若手の曲者戦闘員が三人に増えたわけだが...何だろう安定感が少ない気がする。
発火で船を沈めるエースと爆風で船を沈めるセト、二人組ませたら爆炎で周囲までブッ飛ばす(確認済み)。これにエリスが混じったら...どんだけ破壊するんだろうか。出来れば船は残してもらいたいんだが。
「ああ!サッチ隊長の様子を見に行かないと!」
「放置で良くね?」
「ダメですよエース隊長!」
「俺も放置でいいと思う」
「セトさんまで!酷いです!!」
何だかんだでエースも仲良くなれるんじゃねェか。若いってのはいいねい。
「マルコ隊長はどう思われますか!?」
「え?」
ぼんやりと若い連中を眺めてりゃ話を振られて驚く。
あァ...サッチな。隊長としての威厳も丸潰れしてるワケだし、おれとしても放置が好ましいと思うんだがねい。けどまだ入りたての新人は誰一人として顔色を変えてねェことにも気付かずにオロオロして、何となく...何となくだがマトモな人間だと安心した。
BACK
[ 戻る / 付箋 ]