ルールなんて何処にもない
翌日、手を組んだエースとサッチの指示でエリスは四番隊へと移動となった。
移動になったからといってセトと接触しない...というわけではなく今も二人並んで何かを話してる。昨日と全く同じ光景が広がってるが、その辺はどうなんだいサッチ。敢えて言わなかったが、やっぱり部隊を変えても意味なかったねい。
「なァ、マルコ...おれは間違ってたのか!?」
「読み違ってただけだよい」
あっさり切り返せば落胆するサッチにわざわざ手を差し伸べることはしねェ。離れ離れにしたとこで二人の絆は固かったので色々無駄だった、完了、と終わってくれればおれとしてはそれでいい。が、
「ならデータ分析し直す!エースくんカモン!!」
.........阿呆な。
データ分析とか日頃してもないようなことが馬鹿二人に出来るかい。とは言ってやんねェが。
おれが冷静に見て、あの二人が一緒に居ることに何ら問題はない。
仲が悪いより仲が良い方が好ましいわけで乱闘になんねェならそれがベストだ。ましてや、この船には女は少ねェ。女ってのは同性で仲良くおしゃべりすんのが好きなんだろ?ナースたちがイイ例だ。あいつらは本当に噂話が......いや、そこはいい。
今までそれをすることがなかった...いや、出来なかったセトにとってエリスという存在は重要になってくるんじゃねェかとおれは思う。少しでも男気が半減してくれるとサッチもヘコまずに済むし、おれとしても将来を心配しないで済む ("弟"改め"妹"だからなァ) 。
まァ、むさ苦しい護衛隊に居たエリスにとっても年の近いアイツと仲良くしたい気持ちはあるんだろう。だったら邪魔すんのは良くねェよなァ。
.........そこが見えねェ馬鹿二人には心底呆れるよい。
「なァサッチ...あいつら引き剥がすために仕事させんの良くねェか?」
「バーカ。仕事たって掃除・片付けくらいしかねェだろ」
「だよなァ。今、陸遠いし何もねェ」
「それにあいつらのことだ。一緒に...って言い出すぞ」
「意味ねェじゃん!」
「そうだ、無意味だ」
あァ、お前らの会議も無意味だ。筒抜けだし。
引き剥がすだけが目的なら、おれだったらセトを見張り台に置いてエリスを子守にする。何か言われても「セトは視力がいいから見張りを、エリスは子供に懐かれてるから」とか適当なことを吐く。まァ、何も言いやしねェだろうけどねい。
これで一時的にではあるが離れるだろうが...どうせお前らは色を発した連中だからソレだけじゃダメなんだろ。だったら、
「エースがセトを...は無理でもサッチがエリスを引っ張り出せば離れるんじゃねェかい?」
「!?」
「おれは無理なのか!あれはおれの嫁だぞ!?」
「黙れエース」
.........結局、おれは口を挟んじまうのか。
「エリスの腕を知るのはセトだけだ。手合わせしてもらえよサッチ」
モビー号の甲板、隊長を含むギャラリー多数、ナースもスタンバイ。
おれが言い出したとは言え、妙に大事になっちまってんのは気の所為だろうか。セトん時より酷い。
「真剣にやれよサッチー」
「手加減してうっかり殺されんなよー」
「!?縁起でもねェこと言うなよ!!」
「エリスちゃーん、殺さない程度に潰せよ」
「はーい。頑張りますねー」
「!!」
やる前からサッチ<エリスが確定してるらしい。サッチ...隊長なのに可哀想になァ。
普段はヘタレだがアレでも幾多の海賊潰して来たんだがねい...それすら幻想になっちまってるらしい。普段、目立たねェから。
「船とギャラリーは何とかするから思いっきり殺さない程度にやっていいからなー」
「了解です、セトさん」
「!?思いっきりと殺さない程度は共存しねェ単語!!」
ワーワー喚くサッチを目の前に彼女が取り出したのは例の得物。その細腕には到底似合いもしねェ得物は何処かオヤジの持つ物と似てる。そういう意味で威圧感を感じるのか...それとも彼女が手にしているから恐ろしく感じるのか。
とは言っても相手は槍に近いものだ。最初の一手を無事に交わせたら相手の懐に入り込むのは容易いはず。デカいし長い代物だけに扱いが難しく準備も掛かるはず...それくらいサッチにも見えてる、だろう。多分。
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