Christmas day.
「サッチ隊長!突入の準備が出来ました!」
「よーしオーケー。ではマルコくん!突入の合図を!」
「.........夜中なのにテイション高い連中だねい」
一歩間違えれば殺られるってことを思い出せ、とマルコは溜め息を吐いた。
今もまだ騒がしい甲板、クルーの大半はクリスマスとかこつけて酒を飲み肴をつまみはしゃいでいる。そのイベントが何なのかもよく分からないままだがその辺はどうだっていい。今日も酒が美味いと大騒ぎだ。そんな宴会の場を抜け出したマルコ以下2名は、その一時間前まで一緒に居たセトの部屋の前、それなりに小声だが大はしゃぎしている。
「てか、ガキはともかくアイツは寝てんだろうねい」
普通だったらこんな夜中に仲間の部屋を訪問することはない。
部屋は個人のプライベート空間で侵害するものではないと誰もが思っているから立ち寄ることは少ない。それはセトの部屋も同じ。ただあるとすれば...敵襲の所為でやむなく起こさなくてはいけない時(大抵勝手に起きて来るが)くらいだ。と言いたいところが...
「寝てる!多分!」
「いつもの倍は船大工たちが飲ませてたから大丈夫だろ」
「.........不安だよい」
この部屋に限り、ナースたちの奇襲やエースの暴走が含まれる。よって、セトの警戒心は人一倍強いだろうとマルコは踏んでいた。
けたたましい叫び声の所為で奇襲と勘違いした連中が何人いるか分からないが、ただ、慌てて部屋を飛び出してみれば形相を変えたセトが敵意を剥き出しに風を纏う姿を見て「またか」となる。出来れば安眠を損ねないで欲しい、とも思う。それが日常。
「とりあえずサッサと終わらせて戻るよい」
マルコが出したゴーサイン。喜々として部屋へと侵入するエースとサッチ。
今回の目的は奇襲でも暴走でも何でもない。ただプレゼントを置いて帰るだけの仕事。つまりサンタの仕事だ。
(寝息3つ確認!爆睡してると思われます!)
(了解。絶っっ対起こすなよい)
殺られるから、と。
(つーか、よく考えたら初めて入ったわ)
(ん?おれはしょっちゅう来てる)
(その度に殺され掛けてんのにエースは懲りねェよなァ)
(アレは愛情表現だ)
(世間話は後にしとけよい!!)
言い出しサンタは他でもない、船長の白ひげだった。
強く逞しくでも健気な"娘"と、素直で可愛らしい"孫"を大黒柱である白ひげは溺愛して楽しそうに話を持ち掛けた。本来なら自分がサンタをやりたかったようだがあの巨体、色々と難しいと判断して隊長たちにプレゼントをこっそり置いて来るよう命じた。
(お、プレゼント入れの靴下発見!)
まあ誰が置いて来るかで一悶着あったわけだがさておき。
オヤジ殿の命を全うするため色々と仕組んだ数日間はそれなりに大変だった。クルーからナースから船大工まで、とにかく色んな連中を巻き込んでの一大イベントは最終的に彼らの手に委ねられてる。そこに責任を感じてるのはマルコだけだというのが残念だが。
(えーっと、確か青がエアで緑がシンだったよなァサッチ)
(そうそう。"エアはマルコ色がいい!"って言ってた。アレ聞いた時は吹いた吹いた)
(うっせえよい!)
彼らが見ているのはナースたちが子供たちに吹き込んだクリスマスにプレゼントが入る魔法の靴下。この靴下を見てサンタさんがプレゼントを入れてくれるのよ、と話して子供たちに手渡した。それがきちんと"3つ"飾られてる。青がエア、緑がシン、赤がセト。子供たちの手前、苦笑しながら受け取ったセトにプレゼントあるといいね、と笑ったナースたち。セトの返事は乾いたものだった。
(.........ん?もう何か入ってる)
青の靴下に触れたエースが気付く。先客サンタがすでに中にプレゼントを入れていたらしい。
(セトだねい。赤には何も入ってねェし)
エースの横で赤の靴下に触れたマルコがそう言った。
青と緑、子供たちの靴下の中にプレゼントが入ってて赤の靴下、セトのところには何もない。それが何よりの証拠で少しだけマルコとサッチは笑った。朝起きて、子供たちが疑問に思った時、どういう言い訳をするつもりだったんだろうか、と。
すでに先客のある靴下の中にプレゼントを入れ、先客のない靴下にもプレゼントを入れた。これでサンタとしての仕事は終わり。
(アイツ...ほんと女子供にだけ優しいのな)
("だけ"で悪かったな)
ウンウン頷く中、しれっと混じった異質な声。
(セト、お、お前っ、)
(シッ。二人が起きる。ガッカリさせたくない)
ベッドに横たわったまま、自分で腕枕をして彼らを見ていたのは部屋主のセト。
(.........やっぱ起こしちまったねい)
(多いからな、こういうの。最近はすぐ気付く)
普段であれば侵入者に気付いたらすぐに戦闘準備もしくは逃走準備をするところだが、今日の侵入者は随分と異色でセトは一部始終を確認して声を掛けた。あることを伝えるために。サンタとしてやって来た侵入者にどうしても頼みたいことがあって。
(似非サンタのマルコに頼みがあるんだが)
(一言多いよい)
(テーブルの上に箱と手紙がある。それをオヤジまで持ってって欲しい)
(.........オヤジに?)
(本物のサンタはオヤジだろ?)
ちゃんと知ってた。でも黙ってた。
(やって来たサンタさんに渡すために二人が準備したものだ。届けて欲しい)
(.........了解)
(それと...皆にも有難うって伝えてくれ。協力してくれたんだよな)
黙ってたのは子供たちと一緒にセト自身にも喜んで欲しかったことに気付いてたから。だから何も言わなかったし、気付かないフリもした。
(なァ、今からまた上で騒ごうぜ)
(いや、俺はこのまま寝る。いつ二人が起きるか分からねえから)
(そうか...よし、おれも一緒に寝る!)
(.........悪いがコレも持って帰ってくれ)
((了解))
サンタは真夜中忍び寄る
マルコたちに引き摺られるようにしてエースは部屋を後にした。
後ろ髪引かれる邪な想いはなくもなかったが彼は満足だった。彼もまたどさくさに紛れて本来の目的は果たしていた。
青の靴下の中にプレゼントは2つ、緑にも2つ、赤にも...2つ。1つはオヤジ殿から、1つはエースから。それをまだエース以外の誰も知らない。
訪れた静寂、セトは子供たちに寄り添って眠りに就いた。
翌朝、きっと驚くだろう。靴下の中身。それにプラスして部屋の外に置かれた膨大な数のプレゼントにも...
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