Halloween.
セトちゃんセトちゃん、と普段より元気にはしゃぐ子供が二人。
いつもならこの時間はナースたちと遊んでる時間で、俺は俺でこれからマルコと戦闘訓練があるんだが...二人にはそれは関係ないらしい。にこにこと愛想を振り撒いて手を差し伸べてる。何だ、その手。
「トリトリ!」
「.........鳥?」
「シンちがう!トリアトリだよ!」
.........何だソレ。鳥、遊び?
まあ、確かに俺は今からマルコと訓練だから鳥遊びに見えるかもしれねェが死に物狂いの遊びだから勧めないぞ。
「あー...また後にしてくれないか?俺は今からマルコと、」
「じゃあセトちゃんにいたずらするー」
「は?」
「おかしくれないといたずらするのー」
.........意味不明だ。お菓子はサッチ担当だから俺は持ってないことくらい知ってるはずなんだが。
エーイと足に纏わりつく二人、当然だが動き辛い。引き摺って歩くことは出来るがこれは解決に繋がりそうもない。
とりあえずマルコは待たせてしまうが話をした方が良さそうだと判断した(訓練の邪魔されても困るし)。
「シン、エア。どういうことか説明しろ」
「えー?」
「俺は今から鳥遊びじゃなくてマルコと訓練がある。お菓子はサッチが持ってる。ちゃんと知ってるよな?」
「うん!でもおかしくれないといたずらするの」
「何故?」
「トリアトリだから!」
.........ますます分からない。
俺の言うことは理解しているのは分かるが、俺が彼らの言うことを理解出来ない。
とりあえず"トリアトリ"とやらでお菓子をやらねばいけなくて、拒否するといたずらをする...ということらしいが何だソレ。
お菓子コールを始めた二人にただただ立ち尽くす。
ヤバイ、このままだと本格的にマルコがキレる。冷静な表情を向けられたままボコボコにされかねないんだが...
「おーいセトー」
しめた、この声はエースだ。
「まだ部屋にいんのかァ?マルコの機嫌が...おわっ、」
ノックも無しにいきなり扉は開けられたが今日は許す。
「シン、エア。俺の代わりにエースからお菓子を貰え。俺は後から準備するから、な?」
「「えー?」」
「イイ子だからそうしてくれ」
「「.........はーい」」
扉を開けてすぐの場所で子供たちに絡まれていたのに驚いたエースに、更に追い打ちをかけてこの奇妙な難題を振り掛けておく。
これで少しは時間稼ぎになるだろう。早いとこマルコの所に行かないと。で、サッチからお菓子を――...
「「エースちゃん!トリアトリ!」」
「おー。ほら、お菓子。これでイタズラすんなよー」
「!?」
全く難題じゃなかった!?
「「ありがとー」」
「向こうでナースたちも準備してたぞ。行って来いよ」
「「はーい!」」
思わず立ち止まってしまった俺の横を子供たちが先に走り抜けてく。
例の呪文を唱えながら走る二人に俺はただただ疑問しかない。これは...この船の遊びか何かか?
「おーい。そろそろ行かねェとマズいぞー」
「あ、ああ...」
「おれも呼ばれてっから一緒に行こう」
と、エースに促されて空返事して一緒に歩き出した。マルコは怒らせたくねえけど何か釈然としない。
結局何だったんだ?とエースに確認したらニカッと笑って説明してくれた。
「"トリック" オア "トリート"。おれもよく分かんねェけど"お菓子"か"イタズラ"か選べるイベント?らしい」
「.........何だソレ」
「さァな。後でマルコに聞けば?」
が、解決しない。また納得出来ず消化出来なかった。
"お菓子"か"イタズラ"か選べるイベントってこの船での決まりなのか一般的にそんな日なのか、そもそもどんな選択肢だ、と頭の中でグルグルする。子供向けっちゃ子供向けなんだが...そういうのは前以って言ってくれないとおれは対応出来ないんだが。
「"トリック" オア "トリート"」
とりあえず訓練終わってからマルコに聞こうと決めた頃、不意にエースが例の言葉をおれに向けて言い放った。随分とイイ笑顔でさらりと。
さっきも言ったがおれはお菓子の持ち合わせがない。あいつらにも後で準備しとくと言ったばかり。
「.........お前、さっきの会話聞いてたか?」
「お菓子くれねェとイタズラでちゅうとかするぞー」
「.........」
お菓子くれなきゃイタズラするよ?
「悪い。子供たちに捕まってた」
「エースはどうした。迎えに行かなかったか?」
「さあ。目の前にやって来た変質者はフルボッコしたが」
「.........まァいい、始めよう (アイツ、何かしたんだな) 」
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