ONE PIECE [SHORT] | ナノ
春の雪

「まだ飲んでんのか?」
「ベレッタ」
「もうお前以外潰れちまったぞ」

首を回しながらベレッタが歩いて来たかと思えばドカッとおれの横に座り込んで煙草を咥えた。
妙に静かになったなとは感じていたが周りを見渡すとさっきまで騒いでた連中はもう何処にも転がってなくて甲板にはおれとベレッタの二人しかいない。彼女が火を付ける音が静まり返った空間にただ響く。

「運んだのか?」
「ああ、どうにかな。てか、起きてたんなら手伝えよ」
「今気付いた」
「神業だな、目を開けたまま寝んのは」

盛大に溜め息を吐いて煙草を吸い始める彼女の左手にはおれと同じくジョッキ。ナミもそこそこの酒豪だが彼女もまた負けていない。ほんの数時間前だろうか、彼女たちが飲み比べを始めたのには気づいていたが、ナミの姿がないことからどうやら勝者はベレッタらしい。顔色一つ変えずに飲み続けているとはザルにも程がある。

「あーあ、サンジも寝ちまったしアテがない」
「お前が作ってくりゃあるだろ」
「残念。私、料理出来ない」

転がった酒瓶で中身のあるものを探し当てて自分に注いで「お前もまだ飲むのか?」と聞かれて断った。最後の最後、介抱されんのが自分になるのは何となく嫌だと思ったからだったがその意図に気付かない彼女は「付き合い悪いな」と呟いた。
ドラムで散々暴れて、此処でも散々騒いで、挙句仲間の介抱をして...疲れを知らないタフな体は何で出来てるのか。

「ベレッタ」
「何だ?」

ついでに言えば寒さには強いとか何とかでこの極寒の中、コートも羽織らず外に居るってのも不思議でならねェ。

「見てて寒いぞお前」
「.........そうかあ?」
「どっかイカれてんじゃねェのか?」
「は?アンタほどイカれちゃないよ」

愛想もクソもない。それなりに心配してやってるつもりだがそれもまた彼女には伝わらず。グイグイ酒を飲んでは合間に煙草を吸う。
正直、もっとこう女らしさみたいなのを身に付けるべきじゃねェのか。と考えるのは偏見かもしれねェが、それなりに...勿体ないと思う。あのクソコックがビビよりも、下手したらナミよりも過剰に反応するってのはそういうことだと踏んでいるが当の本人は自覚が無い。
例え、おれの口からそう言ったとしても「は?何言ってんだお前」とか言うだろう。だからおれは敢えて何も言わねェ。言うつもりもねェ。

「あー...でも少し冷えて来たかもな」

そりゃそうだろ。極寒の夜にビールとか体は冷える一方に決まってる。

「そうだろうがバカ。さっさとコートか何か、」

着て来るか大人しく寝ちまうかしろよ、と言葉は続く予定だった。少なくともついさっきまで。

「.........おいっ」
「お、バッチリ」
「.........お前なァ」
「別に死ぬほど重くはねェだろ?暖取らせろよ」

暖どころか座椅子かおれは。
ベレッタが「どっこいしょ」と腰を動かした場所はおれの足の間、若干の隙間にピタリとはまってそのままダラーっと身を投げ出した。背もたれにされて重いか重くないかと言われたら死ぬほどではないが動きづらくなったのには間違いない。つーか、どうなんだこの体勢。

「あーあったけえ。それでいて楽。で、ビールに夜桜、最高だな」

と、特に気にした様子もなくおれにもたれ掛かって寛ぐベレッタには遠慮という文字はない。
冷えた背がじわじわとおれの体温を奪ってくのがコート越しだってのに分かる。これが「少し冷えた」レベルだって言うんならマジでイカれてる。

「あー...幸せ」
「.........バカじゃねェのか」
「それ以上バカバカ言ったらビールぶっかけるぞ」

上目遣いに振り返った彼女の顔は異様に近い。
これだけの至近距離まで来て初めて分かったのは彼女が睡魔と戦っているということ。バカが眠いのを我慢しておれに気遣って此処に残っているということ。別に...放置してくれて構わねェのに。

体が温かくなって来たからか少しずつ目が閉じかけて来ているベレッタ。その目が閉じた頃、行き場のなかった手を彼女に回した。


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