色付く世界
「討伐は終わったか?」
「はい。向かって来る敵は...もういませんよ」
転がる海賊共、一ヶ所にまとめられた武器、それを見つめる彼女。
出掛けて行く時はそれなりの人数で今はたった一人...周囲を見渡すがヤツらの気配は何処にもない。
「たしぎはどうした?」
「運良く逃げた賊を追ってます。部下も一緒に行ってしまいました」
程度の低い賊を全員で追い掛ける必要があるか。
「.........あの馬鹿共め」
「コレの回収は近くの基地に手配済です。じき到着するでしょう」
そう言って方向転換した彼女の背中には正義の文字。つい数週間前、矛盾を感じて捨て去ろうとしていた二文字が変わらず掲げられている。
「G-5の居心地はどうだ?」
「それなりに。決して楽ではありませんが」
「それは重畳」
「あと彼女の存在に助けられてます」
たしぎか。勤務内は当たり前だが、空いた時間にも随分と仲良く行動し談笑しているのを見掛ける。
あいつもずっと男所帯でぽつんとしていたヤツだ。階級関係なく同性が仲間に入って来たのが嬉しいのだろう。よく笑うようになった。
「スモーカーさんの背中を見て育っただけありますね。何処か似ています」
「おれはあんなにトロくねェ」
「確かに。あ、来たようですね」
救援を依頼した海兵たちが遠方に見えた。そちらに向かって歩き始めた彼女がスッとおれの横をすり抜けた瞬間、懐かしい感覚がした。
訓練所に居た頃、彼女は強くなることだけを考えて周囲は全くと言っていいほど見えていなかった。誰が自分を見ていても構わない、誰がどんなことを囁いていたとしても構わない、誰が自分をどう想っていても構わない...そういう連中を視野に入れることなく真っ直ぐに歩いた。おれもまた、それをただ見るだけだった。
「スモーカーさん」
「.........何だ?」
「逃げた賊を追いましょうか」
少将としての顔。この顔も嫌いじゃねェが。
「.........いや、たしぎに任せる」
「了解しました」
きっと、今から見せる表情の方が嫌いじゃねェ。
「おれはァ今からお前を口説きに掛かる」
「え?」
「たしぎにばかり時間を裂いてんじゃねェよ」
title by シュガーロマンス
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