恋が芽吹く
桜が見事に咲く島だったのは覚えている。
停泊する予定もなかった島で欠けた物資をちょいと詰めて去る予定だった地で見つけたのが彼女。不健康な顔色、片手には本、身に付けられたのは白衣...すぐに医者だと気付けたはずなのに彼女が何者であるかを知りたかったことを思い出す。
奇妙な感覚を覚えた日。
ちらりともこっちを見ない彼女は桜の木の真下で読書中で、その横の道を俺らは闊歩してて...おれだけが彼女に見惚れていたんだと思う。気付けば皆、背中が遠くに見えたから。
「お嬢さん」
声を掛けてようやくこっちを見た彼女は不健康な顔色とは裏腹に強い目をしていた。
「何か?」
「.........」
こんな年して何バカみてェにときめいて、攫っちまおうとか考えちまったんだろう。
何度か頭を振って改めようとした。彼女のことを何も知らねェとか彼女の今の生活がナントカとか...けど結果、おれは彼女をあの桜の下から攫っちまった。改めるも改めねェもなくただただ自分の為にあの桜から連れ出した。誰も咎めはしなかったが、おれの独断で彼女を船に乗せたんだ。
春、桜の季節だった。いつもは出不精の私が外に出た日。
庭の桜が満開を迎え、花びらが風に舞い始めたのを見て何だか外に出たくなった。そんな日に暢気な海賊団・赤髪のシャンクスに出会った。
「海へ出るぞ今すぐだ!」
「.........ハイ?」
「この世界はでっけェ、きっと面白いもんが沢山ある!」
湧いてるんだ、と思った。
悪名ではあっても知名度も金も何もかもを兼ね備えてるのに頭湧いてるとか可哀想に、と心で手を合わせたのを今でも覚えてる。その仲間にも同情した。
けど、彼は少年のように生き生きとして何もかもが楽しいと目が語っていた。
片腕は失い、顔には傷、他にも見受けられるところには沢山の戦闘の痕を抱えているのに...それでも楽しそうに言った。
「一緒に行こう!えっと...」
まだ私の名も知らない彼が伸ばした手。私は自分の名を告げながら取ったことを...後悔してない。
title by シュガーロマンス
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