ONE PIECE [SHORT] | ナノ
懐かしい思い出に浸って

馬鹿な部下のゲスびた声が響く。

「大佐ちゃーん頑張れー」
「真剣な顔もカワイイぜ大佐ちゃーん」

G-5の施設内、昔交わした約束を果たすべくベレッタとたしぎが剣を交えていた。
真剣な顔で苦戦しているたしぎと...久しぶりに見た昔と何一つ変わらぬ様子のベレッタとでは差が歴然としていた。二人とも努力で剣を磨いたに違いねェが、あいつは剣の師に唯一認められていたオンナだった。

「少将ちゃんも笑顔がカワイイー」
「怪我だけはしないでくれよー」

向かう相手に余裕を与えない、なのに自分は見せる余裕の表情...それはどれだけの連中を苛立たせたことか。
腕の一本でも斬り落としてやろうかと感情が乱暴になった瞬間にはあいつの勝ちが見えたも同然、自らの乱雑な動きが敗北を与える。そこを見抜くのがテであり、それに合わせた動きが必要不可欠と踏んであいつは常にトレーニングを積んだ。体が悲鳴を上げようとも心は折れなかった。

あいつは「オンナでは」を「オンナでも」と言わせた。

「くっ、」
「同じ程度の力なはずなのに、と思ってますね」
「.........はい」
「そう、同じくらいです。でも何が決定的に違うかを考えて」

見せる余裕、先を読む力、んなもんはたしぎにも見えてるだろう。ただ、決定的に違うのは、

「あっ!」

加減の技。力任せで戦っても勝てないならばいっそ力など捨ててしまえという柔の剣。
もっと合理的な方法で...と以前、話を聞いたことがあったが小難しい理論で忘れちまった。
結果、真っ直ぐ力を以って斬り込んで来たたしぎの剣があっさりと壁に刺さった。鍔を峰で打ち払ったようだ。たしぎの手を、傷つけぬように。

「今のままでは命がいくつあっても足りませんね」
「.........っ」
「自分を守れない軍人には他人は守れない」

おれらに剣を教えた師の...最後の教え。
配属発表される前日、おれらが確実にバラバラになってしまうと分かって微妙な雰囲気の中、告げられた言葉だ。

「勝ちたいではなくまず自分を守ることを考えなさい。勝つのは二の次です」
「.........そんなのでは、」
「男性に力劣る私たちはまず命を投げ出さないことが大事です。投げ出した時、たしぎさんの周囲の男性が気を取られます。それが大穴になる」
「.........でも、」
「よく考えて意識改革をしましょう。焦っても意味はありません」

剣を仕舞う。よく見りゃアレは昔使っていたものと同じ...練習用だ。おそらくたしぎも気付いているだろう。
昔からそうだ。どんなことがあってもアイツはその練習用でしか訓練を行わない。例え相手がそれなりのものを持っていたとしても...自分を曲げなかった。
それによってどれほどの人間が敵意を持ったか。どれほどの人間に尊敬の念を抱かせたか。

「今は気休めにしか聞こえないかもしれませんが、たしぎさんは強いです」
「.........それでも、」
「ええ。負ける時は負ける。だから焦らずに積むことです」

少将は、名ばかりの者も多い。だが、コイツは本物だ。だが曲がらない。
だからこそ...辛い思いもあったことを察していた。随分と昔から......そう、その名がグランドラインを越えた辺境地にまで届いた頃から。

「少将ちゃーん、おれらにも剣を教えて下さーい」
「.........スモーカーさんにお願いします。私はたしぎさん一筋ですから」

彼女が折れてしまうことを恐れていた。だが同時に願っていた自分が恨めしい。
本当は分かっていたんだ。いつかコイツが海軍の在り方に嫌気がさしてしまうことを、辞める選択肢を選んでしまうことを。

「たしぎ、お前は今日は休め。ベレッタは希望通りコイツらに一太刀浴びせろ。怪我させても構わん。補充員はいくらでもいる」
「.........了解しました」

彼女は、真っ直ぐすぎた。優しすぎた。海軍に居るべき人間ではなかった。

「え?マジで?おれら冗談、で......」
「私は冗談を好みません。それに......中将命令です」
「解散!!解散しましょう!!そ、掃除しておきますから!!」
「.........今後は冗談でも教えは乞わないで下さいね」

だか、彼女ほどの人間を...海軍は放っておかなかった。だから、少将になっちまったんだ。

辺境地に届いた彼女の昇格はおれにとっては絶望的なものだった。
ただでさえ遠い存在に思われていたものが一気に遠くへと向かったように思えた。素直に喜ぶことが出来なかった。
その位置にまで登り詰めるとまずグランドラインを外れることは無くなる。降格しない限りは本部の傍に配属されることとなる。つまり、ヒナのように簡単に呼ぶことも出来ないということ。勿論、おれより地位が上の時点で呼び出すなんぞ無理な話だが。

「スモーカーさん」
「.........あァ、御苦労」
「この後はどうしましょう。予定がなければ私も休みますが」

だが、今は違う。彼女の地位はそのままにおれが彼女を越した。もう、遠くの存在ではない。

「いけず言うな。おれに付き合え」
「.........了解しました」
「言っとくが、おれは手加減など出来ない」
「心得ています。昔から...そうでしょう?」

此処に配属されたのは別におれがどうこうしたわけじゃなく偶然だった。
世界が荒れ始めている、だからこそ戦力を此方側に集めた結果、彼女はこの地へと配属された。上からの命令だ。

「その昔はおれの十手を折りやがったなァ。次はおれがその練習用を叩き折ってやろう」
「.........愛着あるものなんで勘弁して下さい」

ただ、その偶然もおれからすりゃただのラッキーだ。

「心配するな。お前は傷付けない」
「ならば私自身がこのコを守りましょう」

今も昔も同じ、冷たくも強い目をしている。これだけ時が経っても変わっていない。
その目がいつもおれを惹きつけた。何を映していたのか、強さ以外の何を求めていたのか、全く読ませなかった目。

「.........冗談だ」
「え?それはどれに対して...ですか?」
「お前とは戦わねェ。昔勝てなかったのを思い出す......トラウマってやつだ」
「ご冗談を」

それをおれに向けられた日には、おれはきっと昔のおれに戻ってしまうだろう。
いつもその他大勢と同じだったおれ。良くて引き分けにしか出来なかったおれになんぞ戻りたくはない。

「付き合うならメシに付き合え」
「夕飯...ですか?」
「あァ。奢ってやろう」
「.........ならお供しましょう」

折角近付いたのだから戻るわけにはいかねェ。おれは進み続けると決めたのだから。





懐かしい思い出に浸って



「お前、その格好で行くつもりか?色気ねェな」
「.........色気なんて、いらないでしょう?」
「まァな。そのままで十分ソソられる」
「.........た、たしぎさんも誘ってきます!」
「はァ?おいちょっと待ちやがれ!」



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