ONE PIECE [SHORT] | ナノ
ゆらゆら、揺れる

「おれもそろそろ家庭を持つかねい」

向かいで食事するマルコが何の脈絡もなく真面目にそう呟いたから飲み掛けていたスープを変な気管に流し込んでしまった。

「.........驚くことだったかい?」
「ごほっ、いや、ちょっと、げふっ、油断、した」
「油断って、」

いやいやいや、その単語の使い方は間違ってないよ。本当に油断してたから驚いたんだもの。
私よりかなり前にこの船に乗ってるマルコは参謀的な存在でパパ一筋、そこらでモテはしてもそういうことを考えるような人ではなかった。と、いうよりパパ自身が「嫁でも攫って来い」と笑った時ですら「攫う気はない」冷静に答えてたくらい興味はないものと思ってた。

「急にどうしたの。爆笑を通り過ぎて驚愕したわよ」
「いやねい、買い出しに町に降りた時にそう思っただけだよい」
「素敵な人でも見つかった?」
「.........微笑ましい親子を見た」

ああ成程...って、しっくりこないけど何となく言いたいことは分からないでもない。
私たちは家族でパパ一人、兄弟姉妹がえげつない人数だという大所帯ではあるんだけど血で言えば誰一人として繋がってない。まあ、中には元から親子だったり兄弟だったりする人もいるんだけどさ。それでも一部、少なくとも私もマルコも血の繋がりがある人はいない。

「おれもそこそこ年だからねい。ふと子供を見れば自分と相手、足して割る2した子供はどんなんだろうって思うわけだ」
「意外」

そんなこと思うこともそうだけど、マルコに特定の誰かがいること自体を初めて知った。

「そうかい?」
「ええ。でもまあ、こういうのもなんだけど...相手が男でない限り、足して割る2した子供は作ることは可能だし悪くないと思うわよ」
「おれはノーマルだし相手はオンナだよい」
「なら大丈夫ね。がんば!マルコ」
「.........全然興味ないみたいだねい」

そこは敢えて否定も肯定もしないね。私はまだ家庭を持ちたいなんてフツーのこと考えてないもの。
今で精一杯、今が精一杯で誰かを守るだけの力がまだない。そんな状況下で相手に頼るだけなら相手なんかいない方がいい。まあ、もしその考えを凌駕出来るくらいの人に出会えたら話は別だけど今の現状では難しそう。

「別に興味ないわけじゃないよ。応援はしてる」
「応援じゃなく協力してくれると助かるんだけどねい」

協力、かあ。
どっかの町で「あの子攫って来い」とか「あの子の気持ちを催眠術でどうにかしろ」とか「いっそ明日までに結婚出来るよう段取りしろ」とか無理難題言わないなら協力してもいいかな。あ、因みにこの無理難題はサッチが言い出したことなんだけどさ。

「どうだいベレッタ」
「協力かあ...内容によってはしなくもない」
「なら決まりだねい」
「何が?」
「おれの子供、産んでくれよい」

向かいで食事を終えたマルコが何の脈絡もなく真面目にそう切り出したから、再度口にしていたパンを変な気管に流し込んでしまった。

「.........驚くことだったかい?」
「ごほっ、いや、げふっ、油断、した」
「またかい」

さっきはスープだったから何とか出来たものの今度はパンだったもんだから慌てて水を飲んで回避した。

「な、ごふっ、何で、私が、」
「足して割る2した子供はどんなんだろうって思ったから」
「いやいや、さらりと何言ってんの。馬鹿なの」
「いいや、真面目に考えてる」

私とマルコ、足して割る2した子供?え、何ソレ。
その子ってちょっとだけ戦闘力の高い子供になるかもしれないけど、そもそもなんでそんな脈絡もなくそれを考える。

「可愛いと思うんだけどねい」
「いやー...それ以前に何の話してるのか分からないわ」
「おれとベレッタの子供の話」
「いやいや、だから何故そんな話になる」
「おれがそろそろ家庭を持ちたくなったからだよい」
「それで何故私!?」
「おれらを足して割る2した子供は可愛いと思うから」

.........話、噛み合ってる?
論議したい最大の内容は、何故私がマルコの子供を産まねばならないのかって話。他も産める子も産みたい子もいるだろうに何故私かと。

「要は...私と家庭を作りたいって話?」
「そういう話をしてなかったかい?」
「黙れ、次の質問。私とマルコ、いつそんな話をする仲になった?」
「最初から仲間だろ?」
「一介の仲間に突拍子もなく子供産めとか言うのはどの口か!!」

と、パンの入ってた空のバスケットを思いっきりマルコに投げ付けた!......けど無意味で無残にもマルコをすり抜けて後ろに居たビスタにヒット。少し挙動不審になってるビスタを...とりあえず無視してまたマルコを見れば、何故かきょとんとした顔で私を見てる。いやいや、その顔をしたいのは私の方だよ私。

「.........お前、オンナだよなァ」
「当たり前でしょ!この体は天然もの!」
「だったら産めるだろ?」
「だから何故私がマルコの子を産まねばいかんのかと!」
「ベレッタとの子供が欲しいなァっておれが思ったからだよい」
「私の意思は無視ですか!?」
「え?お前欲しくねェのかい?」
「いつ私が子供を欲しがった!?今はその兆しもないわ!」
「おれが子供欲しいっていうのは兆しになってねェのか?」
「ならないよ!!」

つい勢い余って返答の度にドンドンとテーブルを叩いていたらしくハッと気付いた時には周囲に人が集まっていた。
好奇心の目やら同情の目、怪訝そうな目やら色々と注目が集まっているのは流石に居た堪れない。どうしよう逃げる?という選択肢が浮かぶ私。でも、そんな中でも特に気にした様子もなく平然としてるマルコには敵ながら脱帽した。

「.........あのさァ」

ふと、静まり返った中でのほほーんとしたハルタの声が響いた。

「二人って付き合ってんの?」

.........そこだ!!

「いや、ぜんぜ、」
「プロポーズが今済んだとこだよい」
「はああ?何言ってんの!馬鹿なの!何、子供産んでくれがプロポーズなの!?付き合ってもないのに!?」

あ、やっぱり、みたいなハルタの表情見てみなさいよ。これが普通の反応ですがな。
付き合ってるわけでもなく恋人でもない人に子供産んでくれのプロポーズがあるか!私は今までマルコをそんな目で見たことなかったよ!

「それはマルコが先走りすぎだね」
「え?おれが悪いのかい?」

そーだそーだ、マルコが悪い。

「うん。マルコが悪い。だってまずは既成事実を作るのが先でしょ」
「はいいい?」
「そう言えばそうだねい」
「はあああ?」

にこっと笑うハルタの目の奥は、遊び心というか悪戯心というか...悪魔そのものが宿ってる。

「事実もないのに子供は出来ないよ。ね、ベレッタ」
「待って何か違う何か違う!」
「何も違わないよォ。だからさっさとお部屋に行っちゃいなさい」
「え、何ソレ、ちょっと、」

席を立って全力でハルタに抗議しようと思ったら後ろから急に担がれた、マルコに、米俵のように。

「ぎゃっ、」
「ちゃーんと説明するんだよ、カラダでね」
「ハルタ!!!」

ひらひら手を振るハルタを睨みながらバタバタするけど私を落っことす様子もなく歩くマルコ。見たことのない視野で人々が揺れてる。

「ようやく攫う気になったんだ。大人しく攫われるんだねい」

ゆらゆら揺れる中、何故かマルコが嬉しそうにそう笑った。

ストン、と落ちる

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