ただ、それだけのこと
終戦後、私は何故か新世界に配置されたG-5支部01部隊への異動を命じられた。
あの件を以って少将の地位を辞することを口にするつもりだったのに...その言葉を元帥は口にさせてくれなかった。ただ「キミはもう少し海軍に留まるべきだ」とだけ言われて...私は頷くことも首を横に振ることも出来なかった。
G-5と言えば、本部の命令を聞かない連中しかいない、海賊を無慈悲に扱う無法者集団で誰も彼らの上に立つのを拒むと有名だ。
確かG-5は基地長であるヴェルゴ中将以外は准将以下の人間しか居ない。そんなところに「少将」として派遣される、それはつまり部隊の頭に立てということ...に等しい。無法者集団を私に束ねろ?そんなの無理難題にも程がある。
「.........はあ」
ヒナじゃないけど、迷惑だしうんざりだ。
「よォ、辛気臭ェツラしてんな」
「.........スモーカーさん。あ、たしぎさんも」
ぼちぼち歩いて廊下でバッタリした二人は確かに私みたいに辛気臭い顔はしてなかった。
「お久しぶりです!ベレッタ少将」
「珍しいわね。こんなところで二人に会うなんて」
「はい。実はスモーカーさんの異動願いが受理されましてそれと共に私たちの昇進が決まったんです」
キラキラ輝いた目、凄く高価な宝石のようだ。
まるで子供みたいにも見えるけど真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに伸びた彼女を少しだけ羨ましく思う。それだけ上司が良かったのか、その真っ直ぐが折れることなく大きくなって私の前に現れたことにまた少しホッとした。
「そうなの。それは二人ともおめでとう」
「で、おめェは何してんだ?」
「私は...単に異動を命じられたところ。新世界へ入ることになったわ」
それに引き替え私はなんてザマだろう。
結局は残留、自分の意思もキッパリと言えなくなるくらい年を取ってしまったんだろうか。頷くことも首を横に振ることも出来ず...
「G-5支部、01部隊への異動、だろ?受けたのか?」
「断れなかった」
「そうか。それはめでたい」
めでたい...全然だ。ちっともめでたくない。
統制取れぬ地帯に送られて指揮能力が低すぎて部隊が壊滅することの何処がめでたいのか分かったものじゃない。もし、私が彼らみたいな荒くれ者共を統制出来ると信じているのであればそれは上の過信としか言いようがなく期待に添えることも出来ないというもの。
それでもまあ...辞めさせられるきっかけになる可能性は高いけど、殉職する気はこちらとしてはサラサラない。溜め息が出る。
「.........別に、めでたくは、」
「おれァG-5支部中将になった。01部隊だ。つまり...おめェの上司になる」
「.........え?」
「これからよろしくお願いします!ベレッタ少将。今度、お手合わせお願いしますね!」
スモーカーさんが嘘を吐くとは思ってはいないけど...目の前で頭を下げてキラキラしてるたしぎさんを見てソレがホントウだと知る。
上司、たった今異動の話を聞いて来たっていうのにそんな話は聞いてない。ただただ異動とだけしか...
「たしぎ、おれはコイツに用がある。席を外せ」
「あ、ハイ!では失礼します!」
キラキラ、キラキラが去ってく。
「.........どういうことですか、コレ」
「おめェが異動を断らなかった。ただそれだけのことだ」
そのキラキラが見えなくなった頃、私は彼にそう呟いてただただ事実を返された。
そうだ、私は異動を断らなかった。ただ、それだけのことで彼もまたそこに異動になっただけの話だ。何の仕掛けもない。
「無理強いするつもりはねェ。上がおれで不服ならば別部隊での上席がある。頭、やるか?」
「.........それは、嫌だわ」
あの日、周囲がうるさすぎて聞こえなかったはずの言葉が降りて来る。
「だったら大人しくおれの下に就け。おれが責任を取る」
「スモーカーさん...」
「お前もたしぎ同様、己の正義を貫け。それでいいんだ」
私の中の正義...
「さて、どうするんだ?返答せよベレッタ少将」
「.........はい」
命懸けで全うしたかった正義が貫けるのであれば...本当は何処だって良かった。こんなとこでなくても。
だけど...こんなとこにもまだ絶望も失望もしない大きな器があるのであれば、私はまだ此処に居てもいいのかもしれない。
「つつしんでスモーカー中将の御旗の下、正義を貫かせて頂きます」
これが彼にする初めての敬礼。同期なのに...変なカンジだ。
でも不思議と違和感はない。初めから私なんかよりも上だもの、それにも異論はない。初めて本当に敬意を払うことが出来た気がした。
「よし。なら。一個人として返答せよ」
はい、と敬礼を止めて彼を見た。それでもまだ上官の顔、だから私も姿勢は崩せない。だけど、
「下って来た暁にはおれと"一部下"との仲とか疑えねェくらい傍に置くつもりで苦労も厭わない」
「.........あ、」
「既成事実からの関係から始めても構わねェくらい迫るつもりだ。それも問題ねェか?」
それは、あの日の言葉。あの日の告白。
「そ、れは......」
「限界はとっくの昔に越えてる。前もそう言ったはずだ」
「で、ですが、あれは...」
誰も何も聞いていない、騒がしい雑踏でしたはずの会話。宙に浮いて、始まることも終わることもないはずの、会話。
「覚悟するんだなベレッタ少将」
.........ああ、あの人は本当に私を捕らえる気でいる。
此、毒牙 「超絶頭突き式新企画」に参戦!
こちらは"悪質サイトのサイト名をお題として使用"するエコ企画?です。で、本タイトルは悪質サイトである「眠れぬ夜にとけたのは」内にある架空の作品タイトルを使用しています。こちらは本当にタイトルだけしかないので上記企画の下、利用させて頂きました。有難う御座いました。
※現在地味に行っている企画の前に書いたものです。
私も「携帯ユーザーを狙った悪質サイトについて」なんてサイトを運営しています。
因みに、こちらの企画を押すに当たって当方も"お題に使えそうなサイトのピックアップと結局存在しない作品タイトルを抽出したリスト"を作成しており、今回はそこからも使用しています。興味を持たれた方がいらっしゃいましたら「此、毒牙」発 「超絶頭突き式新企画」と「携帯ユーザーを狙った悪質サイトについて」内の「余談ですが...」をご確認下さいませ。
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