パンプキンパイをどうぞ。
「オーナー!今度はパンプキンパイを作りましょう!!」
と、ベレッタが満面の笑みで言い出したのはつい先日のこと。誰に何を吹き込まれたのは知らねェがまた何かやらかすつもりらしい。
「急に何だァ?」
「今度カボチャ祭りみたいな日があるんですよね!」
「.........カボチャ"祭り"?」
「カボチャを食べよう!みたいな」
フロア一面に沈黙が訪れた。
おれもジジイも話を盗み聞きしてたクソコックたちもそれが何のことであるかすぐに気付いた。だが、それは"カボチャ祭り"でも"カボチャを食べよう"なんてモンじゃない。まァ、カボチャを使うってのは間違いじゃねェが。
「そりゃおめェ...ハロウィンのことか?」
「.........何ですかソレ」
「あァ、おめェの言う"カボチャ祭り"のことだ。とはいってもアレだ。"カボチャを食べよう"って祭りじゃねェが」
じゃあ何祭り?と首を傾げるベレッタにジジイは説明を始めた。
前から思っちゃいたがジジイはベレッタに甘い。"おれの娘だから"とか言い出したんだがそこはさておき。
食器割った時、おれらは回し蹴りが待っているわけだがアイツには「怪我がなけりゃいい」で終わる。体調を崩した時、回復したおれらには踵落としが待っているわけだがアイツには「コレでも食え」とお粥を持ってく。なんだそりゃ。
今も今で真剣に聞くベレッタにハロウィンについて話しているんだが...あっさり"収穫感謝祭"だと言やァいいのに。
馬鹿みてェに色んな事を教えるジジイに此処に居る全員が呆れてることに気付いちゃねェのか。長いこと此処に居るがこんなに甘いジジイとか見たことがねェ。もしかしたら...ソッチの趣味じゃねェかと疑わしくなる。
「.........と、いうわけだ」
「ふーん...でもカボチャ祭りですね!楽しそう!」
「あのなァ...」
「31日はパンプキンパイ作りましょう!ね!」
.........作るのは向こうでハラハラしてる極道コンビとおれなんだが。
「あァ...もういい、勝手にしろ」
「やったー!」
有難う、とジジイに抱きつくベレッタ。何だかんだで慈しんで頭を撫でるジジイ。
結局、こうなるのか...と溜め息を吐くおれらを余所にウキウキしながらベレッタはいつぞやの如くポケットから考案書を提出。ジジイがそれを確認して小さな声でアレコレ指導、彼女が更にメモを取り終えたところで、
「おーいチビナスー!」
おれに、丸投げてきやがった。これも、いつぞやと同じだ。
「店に出せるか出せねェか検討するから試作品作って来い」
「へいへい。お前も手伝えよトマト」
ジジイから考案書を受け取って眺めながら厨房へ、その横にはひよこみてェなベレッタが嬉しそうについて来る。カボチャ祭り、カボチャ祭りと随分楽しそうに。そういうイベント事が女は好きだってのは知っちゃいたが...カボチャ祭りには色気を感じねェな。
ベレッタと厨房に入れば色々勘づいてるクソ野郎共がニヤニヤしてる。
色恋沙汰で仲良く此処に来たんならどんなにニヤつかれても構わねェ。無視するだけだ。だがな、そんなんじゃねェから怒りが込み上げる。また振り回されてんだぞコッチは、と。ヤツらを蹴回したいのは山々だが、特に気にした様子もなく材料のカボチャを持ち出して来たベレッタに何か悟ったらしく静かに一人、また一人と厨房から去っていった。
「美味しいの作ろうね」
「あのなァ、作んのはおれだぞ?」
「じゃあ、美味しいの作ってね」
楽しそうに、嬉しそうに笑う。こっちの苦労も知らず無邪気なもんだ。
「うまく出来たら報酬もらうからな」
「報酬?私まだ店に借金あるんだけど」
「そんなんじゃねェよ、馬鹿だなお前」
金なんぞ貰っても何の足しにもならねェよバーカ。
嫌いじゃないにしても...いつまでもコドモコドモされてたじゃ敵わねェ。分かれよ。もっと、距離を縮めたい男が此処にいることを。
「報酬は一晩、おれの傍に居ること」
と耳打ちすればいくらガキくせェベレッタでも意図が分かったらしく顔をトマト色にして大袈裟に一歩下がった。その態度はその態度で気に入らねェところだが小さな声で「了解」と呟いたから...まァ許してやろうか。
「おら、さっさと作り始めるぞ」
「う、うん」
パンプキンパイをどうぞ。
「オーナーから許可降りたよ!」
「そうか。なら報酬受け取るからおれの部屋に来いよ」
「.........う、うん」
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