ONE PIECE [SHORT] | ナノ
それはひどく単純な、

何度も何度も、戦闘を重ねれば分かることだ。どんな性格だとかどんな人柄だとか。
どうせ相容れぬ者同士だから...言葉ではなく剣で、銃で、時にはその素手で、おれたちはずっと語り合ってきたのだと少なくともおれは思ってる。まァ相手がそう思ってるかは皆目検討もつかねェが。

「お頭、またアイツだ」
「あァ、懲りねェなァ」
「どうする?とは言ってもどうせアイツが単独で乗り込んで来るだけだろうが」

ベックマンが煙草をふかしながら笑った。
一隻の船、乗ってんのは海軍の皆さん。数打ちゃ当たるの戦法か何か知らんが馬鹿みてェに砲撃して来る。で、指揮を執ってるのはそれなりの地位に就いてるお嬢さん。なかなか好戦的で弱くはねェんだが...言ってもお嬢さんには変わりない。

「言わなくても分かってんだろ?」
「..........了解。ヤソップ」
「あいよ。おーい、交戦準備だ。お頭がお嬢さんと一戦交えたがってるぞー!くれぐれも邪魔するなァ」

可愛らしい顔しときながら随分と勿体ない。そう思うのはおれだけか?

徐々に寄せて来る船から見えるのは船首に立つお嬢さん。ぶっちゃけこういった軍ってのは頭叩きゃ散らばっちまうもんだが、その頭があのお嬢さんだからなァ。叩かずして引いてもらうってのもなかなか難しいんだよ。

「よォ、お嬢さん。元気そうだなァ」
「赤髪のシャンクス。今日こそは討ち取らせて頂きます」

船尾から挨拶しても返って来る言葉はいつもコレだ。たまには「シャンクスも元気そうですね」くらい言っても良さそうだが。
そんな冗談も通じねェ堅物ってのもまたおれは嫌いじゃないらしい。

「元気で威勢がいいのも悪くないが、そう日を空けずに来ると治る傷も痕になっちまうぞ」
「戯言は結構。傷など気にするものではありません」
「いやいや、おれは心配してんだぞ?年頃のお嬢さんに怪我負わせんのも気が引けるんだよなァ」
「馬鹿にしないで下さい!」

不似合いな二本の剣を携えてその場から踏み切り、単独でこちらに乗り移って来たお嬢さんはいつも思うがイイ度胸をしてる。
クルーにはお嬢さんに手出ししねェよう言ってるが、お嬢さんはどうも彼らごと潰したいらしくこちらの指示とかお構いなしに剣を振るう。でもまァ経験の差だよな。お嬢さんに仕留められたクルーは一人として存在しないとか。

「いい加減、諦めたらどうだ?勝ち目はねェぞ」
「勝機の有無を貴方に決められたくありません!」

とは言ってもな、それでも歴然としてんだよ。剣を握って間も無いお嬢さんとおれとでは......とも言えず。
随分と目の敵にされているが、おれが海賊でお嬢さんが海軍だからって理由だけってのが何か寂しいもんだ。おれとしてはもっとこう...ロマン溢れる展開があっても良いと思うんだが。

「んー...色々と難儀なもんだ。なァお嬢さん」

全力で切り掛かって来るお嬢さんを見据え、溜め息混じりに笑えば彼女の表情が歪む。

「......海軍本部大佐、ベレッタ...その首を、今日こそ!」
「あーあー...本当に勿体ねェなァ」

真っ直ぐな太刀筋。真っ直ぐなお嬢さんの性格が見える。そういう真っ直ぐなヤツは軍なんざに居ない方がイイんだが聞く耳持たねェよな。
あの場所には...そういうヤツは居ない方がいい。何もかも悟った上で、分かった上で居た方がいい。
なーんて、俗が心配したところで意味ないか。

「おれの首、かァ...他のモンならやるんだがなァ」
「でしたら大人しく命を頂けますか?」
「ハハ。そりゃ無理だ。命は惜しい」

ガチガチと合わさる剣の音、妙に近くなったお嬢さんの表情には余裕はねェ。
おれがニッと笑えば唇を噛む。何か言えば全力でキレる。可愛い顔は決してしちゃくれねェが不思議とソレが嫌じゃねェ。

やっぱ、難儀なもんだよお嬢さん。

「では、何を頂けるんです?」
「そうだなァ...おれの愛とかどーだ?」
「.........」

目をカッと見開いてこっちがビックリしちまうくらいの力で剣を振り払ったお嬢さんは随分とまァ可愛くねェ殺意を剥き出しにしてくれた。
どうやらこの言葉もお気に召さなかったらしい。やっぱそこらの姉ちゃんと違って冗談も通じやしねェ。今のは完全に「仕方ないから貰ってあげなくもないわよ」とか言い返すどころだったんだがなァ。お堅いんだよな、海軍の姉ちゃんってのは。

「おーおーすっげェ殺意」
「.........」
「可愛い顔が台無しだ。ここは笑っとけ」

ニッとおれが笑えばお嬢さんは冷たい眼差しをこっちに向けて固く口を閉じた。と、思えばスーッと表情を無にして、

「.........ッ」

ふわり、微笑んだ。
とんでもねェ握力で体握り潰されるかと思うほどの衝撃。びっくりしすぎてうっかり剣を落としちまうところだった。

「赤髪のシャンクス...」
「お、おう」

ヤバイ、動揺が隠せてねェ。
笑えって言ったのはおれだが今すぐいつも顔に戻ってもらわねェと一歩も動けねェ、かも。

「あー...」

前言撤回してもいいか?と聞く前にガッツリ剣を振り回して来るお嬢さんに一歩も二歩も引くカタチ。さすがにこの光景には周囲も笑いながら見てる。で、何をどうしてそうなのか、いつもは険しい表情をしたままのお嬢さんも微笑んだまま。これはこれで物騒だし異様だ。

「ちょっ、まっ、」
「オイオイ押されてんぞお頭ァ」
「うっせえ!」

ヤンヤヤンヤと周囲がうるさい中でもお嬢さんは特に表情を変えず剣を振り回して来る。可愛いんだか恐ろしいんだか分からねェが、どうしたもんか剣を受けるくらいしか出来ねェ。これがさっきのおれが考えてたロマン溢れる展開ってんならこっちも撤回する。つーか、無言で微笑んでこっちに向かって来る分にはいいんだが剣は振り回して欲しくねェなオイ。

「勝ち目、ありそうですね」
「嬉しそうに言ってんじゃねェよお嬢さん!」
「知りませんでした。実は女性に弱いなんて」
「あー...いや、何か、違うんだが、なァ」

今の言い方だと女性全般に弱い、みてェなカンジだがそこは敢えて否定するぞ。それなりに手加減はするかもしれねェけど手傷を負わせたこともあるし、ポーンと海に捨てたこともある。二度と邪魔しねェように船を沈めてボート置いてったこともあるから弱いわけじゃねェ。

ただ、そうだとしたら...お嬢さんだけだ。

微笑みから嬉しそうな顔に変化してくお嬢さんに更に力が抜けてく感覚が自分でも分かる。
こりゃ、ヤバイ。完全に立て直しに時間が掛かるパターンでこっちから何か仕掛けようにも頭が回んねェ。

「べ、ベン!」
「どうしたお頭」
「ちょっと代われ!」
「はァ?」
「悪ィがお嬢さんを向こうさんに返して来い!」

笑いながら高見の見物をしてたベンに声を掛けたが周囲の笑いが止まらないだけでベンが一向に動く気配がない。
その間にもお嬢さんは嬉しそうに剣を振り回して仕留める気満々で挑んで来る。しかも「逃げる気ですか?」「卑怯ですよ」と叫んで来る。つーか、卑怯もクソもあるか!ある意味、今のお嬢さんの方が卑怯だ!

「おいベン!」
「惨敗じゃねェか、お頭」
「うっせェ!うっかり切られちまう前に返して来い!」
「.........了解」

見物してたベンが甲板に降りた途端におれとお嬢さんの剣をマストの方へと蹴り上げた。さすがにコレにはおれもお嬢さんも驚いたが、間もなくベンが「失礼」と告げてお嬢さんを担いで海へと放り投げて事態に収拾がついた。何やってんだか、と呟きそうなベンに頭が上がらねェ。

「お頭ー浮輪投げときますよー」
「.........あァ、そーしてくれ」

気の利くクルーによってお嬢さんに浮輪が渡され、向こうの軍艦が接近する前にちゃちゃっと船を出す。
ウチのに見送られて海でぷかぷかしてるだろうお嬢さんが何か叫んじゃいるが、こっちは船の音で何を言ってるかは聞こえはしない。多分、数日中にまた顔を出して再戦する気なんだろう。

「情けねェなお頭」
「.........うっせェよ」
「次はねェぞ。自分でどうにかするんだな」

次...確実にある次、また同じ手で来られた日にはどうにも出来んという自信だけあるなァ。
何やってんだかなおれ。いっそ挑めねェように腕でも切り落とすか、なんて思っちゃいねェし、仕方ないから捕まってやるか、なんて発想もねェ。だったらどうするか、その先も全く浮かばんが間違いなくお嬢さんはまた乗り込んで来るだろう。

やっぱ、難儀なもんだよお嬢さん。
おれとしては傷付けるのも捕まるのもしたくねェが、このままお嬢さんが会いに来なくなるのは嫌なんだ。顔を見なくなるのは寂しいしな。声だって聞きたい。けどおれは海賊で辞めるつもりもねェし、お嬢さんは海軍で辞めるつもりもねェだろう。つーか、おれが海賊辞めたところで付いたフダが無くなるわけじゃねェしなァ。と、いうよりもお嬢さんが海軍辞めたらおれを追う理由もなくなるからそれも困る。

「次、どうすっかなァ...」

思考はぐるぐるするも堂々巡りってやつだ。
そんなおれを見てベンが深い溜め息を吐いて「難儀なこった」と呟く。全くその通りだ。

「おーい、お頭がヘタレになってんぞー」
「どうしようもねェくらいのヘタレっぷりだぞ」

ゲラゲラ笑うクルーたちを一蹴しつつ、おれはただ悩んだ。


>女海軍VSシャンクス。とのことで出来ました。
10周年記念、さえらさんに捧げます。少しリクエストに沿わなかったかもしれませんがお許し下さいませ。有難う御座いました。
title by 悪魔とワルツを

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