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Necessary

結果として、おれは間に合わなかった。
完全に手遅れではあったが、間に合ったところで続く言葉はもう決まっていて...もう一度、別れの言葉を告げられて今度はすんなりと受け入れられた。

「最後まで...有難う」

お互い笑顔で別れた。罵り合わずに「有難う」と言って別れた。

あァ、自分に素直なのが一番なんだって、あの落ち着きないパワフルなJKに気付かされた。ただ、彼女が言った通り...もう二度と会えないJKで感謝の言葉も言えないままだが。

数年であっても若いってのは柔軟なもんでキッパリと言われる言葉にこっちがハラハラした。次は何を言われるんだろう、どんなキツい言葉を浴びせるつもりだろうか、と。怒らねェ気ではいたがキレないとは言ってなかった手前、本当にハラハラしたが結果として...怒ることはなかった。

彼女はおかしなことは言わなかったから。



「おーいマルコー」

同級生は先月皆、卒業していったと思っていた。
おれもまた修了証明書は受け取ったが、それは部屋の隅に転がしたまま、またこの門をくぐっているが...コイツはどうも違う。

「.........何だ?留年」
「うわ、キッツ。てか、お前今更進路変更で再入学だって?」
「あァ。また一からだよい」

確かに、社会に出るのがまた遠のくわ金が掛かるわで大変だが後悔はしてない。
やりたいことが変わった。ならばその道にまた舵を取らねばならなかっただけの話で当たり前のことだ。

「一緒に卒業出来るといいねいサッチ」
「なっ、一緒なわけあるか!!!」

それもこれも...あの不思議な出来事の所為であり、お陰だった。

「そういや、お前内定決まってたんじゃなかったか?」
「あァ...辞退したよい」
「.........勿体ねェなァ」

勿体ないことはない。
それはもはや昔やりたかったことで今やりたいことではなくなったから。


二度目の始まりは大して心躍るようなことはなく、周囲とは違った温度で過ぎてく感覚がしている。
案内板を眺めることもしない。学食のメニューをガン見することもない。キョロキョロ周囲を見渡すこともない。ただ、強いて言うならばこれから同級生となるだろう学友でも覚える努力でもしようか、くらいだ。今のおれには全部同じ顔に見えるしなァ。

そんなことを考えてる最中も傍らにいるサッチは合コン合コンとうるさい。
その辺にいる高校生上がりと何ら変わりはない。これじゃ本気で一緒に卒業してしまいそうな勢いで。

「.........」
「マルコ?」

まだ幼い顔立ちの新入生、真新しいスーツ。
大学5年目とは違う雰囲気の存在の中に見つけた、見覚えのある顔。
違うかもしれない。だがそうかもしれないと近づいて...ゆっくりと思い出すあの顔。

「オイ、そこのJK上がり」
「へ?」

何だその似合わねェ化粧。何だその覚束ない足取り。

「.........マルコ、さん?」

だが声は変わらない。間抜けな表情もまた、変わってない。

「まさか...こんな場所で再会するとは思わなかったよい」
「うわ...お久しぶりですね!」

忘れていたらどうしようかなんざ考えることもなく声を掛けちまったが、どうやら彼女も覚えていたようで今になって安心した。

「偶然...って、あれ?......留年!?」
「再入学だ。専攻変えたからねい」
「あ、成程...じゃあまた1年生から?」
「あァ」
「凄い!同級生だ」

相変わらず、若い。
が、若いってのは未熟なだけじゃねェ。強いもんだとまた思う。

「えっと、専攻とかはさておき。これから同級生としてよろしくお願いしますね先輩」
「.........同級生なら先輩って呼ぶんじゃねェ」
「年齢は超先輩〜」
「うっせェよい」

遠くでサッチが何か言って背を向けるのが見えた。
彼女もまた誰かに手を振られて...おれらだけがこの場に残された。

「ベレッタ」

あの日はもうすぐ木葉が舞うだろう季節だった。今は何処からか桜の花びらが舞っている。
数年経った。だけどおれの中の時間はまだ遅くないと言っている。

「あの時は助かった。有難う」
「.........どうしたんですか急に」
「速いも遅いもねェらしいから言っとこうと思った」
「.........覚えてたんですね」

あの日の出来事は付箋紙が付いたまま、今も思い出せる。

「あァ。JKの分際で説教」
「説教!?そんなことしてないですよ!」
「いいや、したねい」
「してないです!何を根拠に!!」

.........相変わらず、パワフルなもんだ。

「まァいい。そういやお前、校内は見て回ったか?」
「話題変更!?えっと、迷子になるんでまだですけど」
「なら先輩が案内してやるよい」
「マジですか!ついでに学食奢ってくれたりとかしますか!?」
「.........本当に安上がりで助かるよい」
「へ?」

間抜けな顔で間抜けな返事をされて思わず笑う。
あの日の気晴らしに付き合ってもらった礼はコンビニのお菓子。あの日の説教の礼は学食。どこまでも安くて助かる。が、コイツにはそれが合うのかもしれねェ。

「はぐれるよい。ちゃんとついて来いJK」
「もうJKは卒業しましたよ超先輩!!」
「マルコでいい。先輩はつけんな」
「ならベレッタに替えて下さいねマルコさん!」

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