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いつかの話。

「ほな今日は俺が話したるわ」

またもわざとカーテン引いて電気を落とした部室の中。隙間から差し込む光が妙な空気を誘う。
響く蝉の声を聴くだけで暑苦しいのに相反してガンガンに冷えた室内は余計に妙な空気を醸し出していた。
流石に二度目ともなるとそういう話になることくらい分かる。分かるから私と岳ちゃんは仲良くお互いの腕を掴みあっていた。無意識に。

「俺の実家、大阪にあんねんけどこっち来る前に家建ててん」

そんな中でフツーに話してるのは忍足。
ふーん、新築のお家かあ。ウチなんか相変わらず借家(マンション)で母がそろそろ戸建が欲しいわーなんて父を脅してる。しがないサラリーマンを苛めるなって話なんだけどそれはさておき。部室の空気は重いけど普通に世間話みたいなカンジで話を進める忍足に少しだけホッしていた。

「ほんま戸建はええわ。マンションと違てこう、色々...」
「続けろ眼鏡」
「.........まあ、ともかく新生活のスタートや。皆浮かれたわ。けど両親はめっちゃ運悪かった」
「祟りでもあったか?」
「阿呆。そんなんやないわ宍戸。フツーに学会の仕事入って出張になった。しかも一週間」
「そういや医者だったな、侑士の両親」
「せやねん。可哀想に新築の家やのうてホテル生活にいきなし変わるとかなあ」

まあ...確かに残念だとは思うけど今後ずっと住むわけだから別にいいんじゃないかと思う。
という突っ込みは隣の岳ちゃんと宍戸がしたから私は敢えてしないけども。

「あ、因みに姉貴は影で大喜びやったわ」
「何で?」
「彼氏んとこお泊り出来る〜てな」
「.........あっそ」
「そうなったら俺一人留守番やん?それはそれでラッキーやさかい、その一週間みっちり友達と遊びたい放題したんやけどな」

.........どうでもいいや。その件。
てか、リーマンの父もよく出張とか行くことがあって、何か知らないけど便乗する母がいたりするけど...その鬼の居ぬ間に何ちゃらはやったことないなあ。一時間おきに着信鳴るわ刺客(隣のおばちゃん)が来たりするからなんだけどさ。忍足んとこはそういうのは無かったらしい。

「で、その遊びたい放題してた時のことや」

あああああ、何か忍足がニヤニヤしてる。

「遊びたい放題言うても買い出し行ったりメシ作ったり風呂の用意したり...軽くキャンプ感覚で遊んどったわけやん」
「知らねえよ」
「.........遊んどったんや。そこの突っ込みはええて」

うん、ほんとにその突っ込みはいらないよ跡部。
宍戸の時と比べてやたら態度が冷たいよ跡部。多分、ニヤニヤ顔が癇に障ってるんだろうけど話が進まないよ。

「で、当然やけど皆が皆一緒におったわけやあれへん」
「分担してたんですね」
「せや。俺が風呂掃除しとる間に皆にメシ作っててもろたりしてたんや」
「.........いるよな、そういうヤツ」
「掃除終わったら手伝うたわ!イチイチ話脱線させんよって」

えっと...スルーすればいいじゃんとちょっとだけ思いましたが?とは言わず。

「まあ、メシの準備も出来たし、おらへんヤツを呼びに何人かが出てって、俺も一応風呂のボタン押しに一旦リビングを離れたんや」
「ボタン押し?」
「風呂沸かしのボタンや。押し忘れてんのを思い出したんや」
「馬鹿だな」
「.........で!俺が戻る頃には大体皆集まってて、最後の一人が来てようやくメシやー言うんにめっちゃ驚いた顔しとったんや」

その最後の人...「くさっ!おい何焼いたんだよ!!」とか思ってる程度だったらいいのに。
多分、昨日の流れとかからすれば違うよね。うん、皆、そんなボケみたいなものは望んでいないみたいだし。私はそれを望んでるけど。

「そいつが"侑士、いつの間に来たんや?"って言うねん」
「.........」
「いつの間にも何も風呂場とリビングの往復や。そない距離は無いねん」

.........いや、アトベッキンガムくらいの広さなら距離はあるはず。そこまでの広さがあるか何かは知らないけど...まあいいや。

「そいつが"さっき、向こうの和室におったやん"って...けど俺は和室とか行ってへんねん」
「.........見間違いだろ」
「そう思うて皆にも確認したんや。和室ん中に入ったかーって」
「で?」
「誰もそこの廊下は通っても中には入ってへんて言うんや」

ぎゃああああ!また幽霊!幽霊かよ!!
昨日から怖くって至る場所の電気を付けっぱなしで歌いながら廊下とか通ってるオカンに怒られてるのに!またそうなるじゃんゴラア!!

「ほんでその"居た人"ちゅうのが俺と似た背格好でグレーのパーカー着てたって言うんやけど」
「グレーのパーカーは居なかった、と」
「せや。俺は元よりメンバーにもその服装はおれへんかってん」

いっやあああああ!マジ勘弁!マジ勘弁してくされえ!!

「要は見間違いか何かだろ?」
「って、俺も誰かが言うてくれるんかなー思うててんけど、何や空気がおかしくってなあ」
「.........」
「実はメンバーの半分以上が"そういや俺も和室で侑士を見た"って言うんや」


.........


「ぎゃああああああ!!!」
「がおおおおおおお!!!」
「っ!うっせえぞ!この馬鹿コンビが!!」
「だって跡部!それ幽霊!それまた幽霊じゃん!!」
「ゆ、幽霊とは限らねえよ!馬鹿!」
「馬鹿はお前らだ!!」

「まあ落ち着いてーや」とか忍足が言うけど落ち着けるか!怖いじゃん!何がいたんだよ家!!
御払いだ!その家はちゃんと御払いとかしてもらえって話だ!怖い、怖すぎるよ未確認生物とか家で飼うな!!

「でもま、この後は見ることはなかってんけど、たまたまおかんと姉貴にこの話をする機会があってなあ」
「.........御払い、した、とか?」
「"座敷童や"って。姉貴も見たことあるし、おかんは火事になりそな場所教えてもろた言うてた」

夏って何でこんな話をしたがるんだろうね。冬はほぼゼロなのにね。
ちょっとした休憩、ちょっとした話で始まった怪談。またも私と岳ちゃんは「がおおおおおおお!!!」と叫びながら仲良く外目掛けて走り出しました。

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