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車を走らせること数十分。目的地である「適当な植物園」に到着した。
結構大きな植物園のようだが、当然、俺はこんな場所など来たことはなくただほんやりと建物を眺めていた。だが、彼女の方はこの植物園を知っていたようで今までのオドオドさから一転。少し嬉しそうな表情を浮かべていることに気付く。

「此処で良かったか?」
「は、はい!こ、此処に来たのは初めてで、嬉しい、です」
「そうか。そりゃ良かったな」

聞くまでも無かったが一応確認してみれば、ドモりながらもはっきりとした言葉が返って来て俺的には満足だった。園芸部→植物好き→植物を沢山見ても問題ない→植物園。やっぱりこの流れは間違ってなかったらしい。
ようやくデートらしくなって来たんじゃねえの?なんて思わずにはいられない。この俺が、そんなことを思うなんざ不思議だが。

「行くぞ」
「は、はい!」

ボケッと建物だけ見ていたところで何も面白いものはない。この中に入ればもっと感動もあるはず。そしたら、今度はもっと嬉しそうな顔をするだろうか。楽しそうに笑ってくれるだろうか。
大体、俺様が傍に居て馬鹿みたく笑ってうぜえのは山ほど居たってのに、怯えてガチガチになってる方がどうかしてる。それだけで狂う調子。それだけで馬鹿みたいに俺が悩む。気を遣わせやがって、とは思うが、嫌な気分ではない。

建物に近づけばそこは建物自体が太陽の光を取り込みやすくしている温室で、内部中心が庭になっている構造のようだ。まあ、温度調節はされているだろうが暑さは免れないといったところだろうか。出来れば汗だくで見たくはないんだが。
入場料もそこそこな価格でポケットから財布を取り出して二人分の支払いをしようかと思えば、急に引っ張られたのは、服の裾?

「何だ?」
「あ、あの、私の分、です」

.........金?
こじんまりとした手に握られていたのは一人分の入場料金。寸分違わず掌に乗っけられた状態。

「別に、俺が払う」
「い、いえ、こういうのは、出来れば...」
「出来れば、だろ?仕舞っとけ」
「でも...っ」

こういう時は「有難う」とか言って素直に相手に払わせりゃいいだけのことだろうに。
彼女は俺がその金を受け取るまでずっと手を伸ばしておくつもりなんだろうか?微妙に指先を震わせたまま。律儀と言うべきなのか慣れてないと思うべきなのか、彼女とその金と交互に見つめたが埒が明きそうな気配はない。

「分かった。ここは割り勘にしといてやる」
「あ、有難う、御座います」
「次からは財布は出すなよ?」
「え?そ、それはっ」
「それが俺様のルールだ。従っとけ」

この俺が女に金出させるような真似するはずがないことくらい俺を知るヤツは分かってるはず。だが、彼女は知らない。だからそうするのは分かるが俺の中でそれは曲げられないルールだ。従ってもらおうか?
と、説明したいのだが言ったところで理解すんのかが分からないな。何せ彼女は俺を知らないのだから。

「えっと...」
「.........言い方を変えよう」
「はい?」
「俺がそうしたいんだ。お前に余計な金を出させたくない」

騙されたにしてもデートなんだから、と言えば彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
この様子だとあれか、男とデートなんざしたことないってことなのか?共学校に居ながらそういうのも珍しいっちゃ珍しいのな。言うほど美人...ではねえかもしれねえけど、決して可愛くないわけじゃない。むしろ、どちらかと言えば…ソレ、なのに。
まあ、その辺の反応は置いといて。此処でボーッとしてても金払った意味が無くなっちまう。

「行くぞ」

俯いてしまった彼女の頭にポンッと手を置いて、それに反応するかのように上を見た彼女はまだ赤い顔をしてた。
どうしたらいいのか分からない風のその様子に笑いたくもなったが、決してそれは彼女を馬鹿にしたくて起きた衝動なんかじゃない。

「印象に残る初デートにしてやるよ」
「えっ、」

単純に可愛いと思ったんだ。あまりにも俺の周りとは掛け離れた存在に。こんな女が居るんだな、と思えばあながち女も捨てたもんじゃねえ。黄色い声を挙げるだけしか脳がないわけじゃねえんだって思えた。
戸惑う彼女の意思はさておいて、そっと彼女の手に触れれば...まだ震えてた。だが、気付いたところで無視して手を握って歩く。ぼんやり、おっとりした女だ。目を離せば植物と同化して分からなくなっちまう可能性だってあるだろう。何処ぞのガキじゃあるまいし、館内放送で迷子のアナウンスなんざされちまっても困る。迎えに行くのは俺なわけだし。

「け、景吾さんっ」
「結構広いみてえだから迷子になられちゃ困るからな」
「なっ、迷子になんか、ならないです」
「分かんねえだろ?お前、蒲公英の種みてえだから」

彼女に合わせた例えが効果覿面だったのか、彼女は何とも言えない表情でまた俯いたがどうやら手は握ってて構わないらしかった。俺のから比べたら遥かにちっこい手、握り返されることは無いがそれでも構わない代わりに俺が少し強く握る。
ふわり、風に煽られるがままに飛んでく蒲公英の種...まさに彼女にピッタリな表現だ。まだ彼女をよく知らないがおそらく普段もこんなカンジなんだろう。
周囲に流されるがままで居て、大人しく歯向かうことも無くどんどん自分の意思とは裏腹に流れていくだけの生活してんだろ?

「.........たんぽぽの、たね」
「ふわふわしてお前らしいんじゃね?」
「そっか。そんな風に人には見えるんだね」

他人は分からねえけど少なくとも俺にはそう見える、そう言えば彼女は不思議そうに、だが納得したかのように「そっか」と呟く。
もしかしたら何か気に障ったのかもしれねえが怒るわけでもなく悲しむわけでもない表情。だから心には引っ掛かったが何も言わずに手を引いた。


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