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あの日から、私は全てから解放された気がした。
ただ、何の未練があるのか知らないけど未だに何度も言い寄って来るアイツを見て、色んなものにげんなりしながら過ごす日々。もう揺らぐことはなくて、逆に溜め息を吐いて交わすことさえ出来る自分は、少し進化したんだと思っている。


「.........ゆい!」
「え、あ...祐希?」
「もう...居ても立ってもいられなくて来ちゃったよ!」

校門の前に他校生が立ってるなーとは思ったけど、それがまさか自分の親友が立ってたなんて思わなかった。さすがに中には入って来れなかったみたいだけど、メールくらいくれれば待ち合わせしたのに。

「わざわざ来てくれたんだ祐希!」
「そうだよーゆいが解放されたから嬉しくて!」

近づいた途端、ぎゅうぎゅうに抱き締められて私も同じくらい抱き締めて...耳元で小さく謝った。
「祐希の言葉、今まで受け入れなくてごめん」と。そしたら「本当だよ」とあっさり笑って返されて私も一緒に笑った。
本当に今更だけどようやく気付いて受けることが出来て良かった。聞く耳を持たなかった私は、何処かへ消えていった。沢山謝って、それ以上に「有難う」と告げたなら祐希は同じくらい「いいんだよ」と言ってくれた。

「ね、今からケーキバイキング行こうよ!」
「え?ちょっと待って、私を太らす気?」
「違う違う。実はさー私、好きな人が出来たんだけど――...」

祐希曰く、片想いの彼は後輩で甘いものには目がないらしく、連日のようにケーキバイキングに足を向けてるとか。けど一人で行くとかちょっと無理で...と話す。ついでに「ケーキを頬張る姿はハムスターみたいで可愛い」とか「あの可愛さなら餌付けしたい」とか...何とも不可解なことも言ってる。今までそんな話をされたことがなくて、彼女の手を握り締めて、

「よし、行こう!私は何も出来ないけど行こう!」

大きく頷いた。今度はこっちが応援する番だ。

「うんうん。一人で行きにくくて困ってたんだよ」
「でも太ったら祐希の所為にする!」

何も出来ないけど、力になれることなら何でもしたいと思った。
今まで支えてくれた親友は何も言わずに私の話ばかり聞いてくれた。時には怒りながら、泣きそうになりながら。私のために色々な言葉を掛けてくれたのに...私はずっと分かってた風で何も分からずにいた。

次は祐希のために何かをしてあげよう、なんておこがましいことかもしれない。だけど、出来る範囲で頑張りたいんだ。

祐希に案内されたお店の一角に男女問わず学生がいた。
その中でも一人、かなりの勢いでケーキを食べてて...で、物凄く嬉しそうな顔をしてる子がいて...この子だと瞬時に分かった。確かに餌を頬張るハムスターみたいだけど、その食っぷりは...ハムスターの方が可愛いと思われますが。

「ね!いるでしょ?可愛いハムちゃん」
「はは...甘党なハムちゃんね」
「.........あれ、何か違う人紛れてる」
「あ、制服違う人いるね」

愛しのハムスターの向かいに違う制服の人がいる。
何か話してるみたいだけど......あ、何かハムちゃんの表情が崩れた。てか、拗ねたような...そんな表情を祐希も見たらしく何か身悶えてて...正直怖いです。よっぽど好きなんだね、うん。

「よし、何気に行くよゆい!」
「了解っす!」

意気込み激しく、ガンガン前に進んでいく祐希の後を追ってく私。
その意気込みに気付いてか「あ、祐希さん」なんてハムちゃんが声を掛けてくれて...あ、祐希がちょっとだけ身悶えそうなの堪えてる。ちょっと面白い。

そんな状況でハムちゃんの相方が振り返らないわけがなくて...その人に驚いた。驚かないわけがなかった。私も、その人も。

「.........ゆい、ちゃん」
「ふ、不二くん...」

「え?ゆいの知り合い?」と祐希。「ん?兄貴の知り合いなのか?」とハムちゃん。
お互いに顔を見合わせてとりあえず驚いたままの状態。硬直して...それ以上言葉も出ないくらい驚いてて。

「ごめん、裕太。僕は帰るよ」
「あ、ああ」
「それから...祐希さん?」

急に名前を呼ばれて驚く祐希と、急に手を取られて驚く私。

「ゆいちゃん借りてくから...裕太をよろしく」

何もかも構わずに、彼は私の手を引いて店の外へと出て行こうとする。
誰も状況が把握出来ないまま、とりあえず祐希に「ごめん。後で連絡する」とだけ告げて不二くんの後ろ、引かれるまま歩いた。

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