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.........何で。
私、何も言わずに、何も言えずに心に留めておいただけ、なのに。

「彼女はね、君を理解するために此処に居ただけ。他には何もないよ」
「何?」
「しかも、罪悪感に苛まれながら居たんだよ。ずっとね」

どうして気付かれたんだろう。何で、全てを見透かしたかのように言葉にしてくんだろう。私が言いたかった言葉、言えずにいた言葉、全部、全てを...どんどん不二くんが口にしていく。

「それに引き換え...君はどう?見つかってバツの悪い顔して――...」
「不二くん!」
「.........ゆいちゃん」
「もう、いい」

本当は気付いていたんだよ。理解出来ないことも、彼がのらりくらりと全てを交わし続けていたことも。

「.........ねえ」

単に私はキープくらいの感覚で存在していて、都合の良い時に使えるだけのモノだってことも。分かっていて...そのままにしておいた私で、苦しみの種を撒き続けていたのも私で、全てが、私のしたこと。

「私、理解出来なかったよ」
「.........」
「だから、もう、解放する」

他でもない自分を。
今まで「有難う」と「さよなら」を告げたら...彼は何か嫌味を吐いて来て、本当に気づいた。
最初から別に、何も感情無く私は貴方の傍に置かれていた、という事実――...


彼らが大声で何かを言い捨てて姿を消した後、私はただ泣いた。
その間に不二くんは何も言わずに背中を撫でていて...縋ることも出来ずにただ一人泣き続けた。

「.........僕も、君と同じ想いをしたクチ」

しばらくする頃、不二くんは私にハンカチを握らせてポツリポツリと話し始めた。
静かな声で...相変わらず私を宥めるかのように背を撫でながら。だけどその声は小さく、消え入りそうだった。

「テニスばっかりでね。ロクに何もしてあげられなかった。でも...彼女は何も言わなくてね。電話で話すことの方が多くて何度も彼女に聞いたよ。ごめんね。寂しがらせて。大丈夫かい?って。彼女は"大丈夫よ"と頷いてた。でも、どんどん彼女の心は離れてったことに僕は気付かなかったんだ」

自然に出ていた彼の動き、それはやっぱり大事な子がいて...彼女のためだったんだって気付かされた。
そうだよね。じゃないと歩道側に寄せたりもしなければ、歩調を合わせたりも、自然に庇うことも出来ない。

「気付いた時は手遅れ。彼女の隣は別の人だよ。しかも...ずっと彼女は嘘を吐き続けていたんだ。僕を待ってる、てね。
最後の最後まで吐いた嘘......嫌いになったわけじゃない、だって。嫌いじゃないって言葉...要は好きでもないってこと。じゃあ隣に居た人は?って」

同じような傷口、同じような痛み。決して同じではないけど似たものを抱えて、出会ったんだ、ね。

「気晴らしに此処に来て...…まさか同じような光景を目の当たりにするとは、ね」
「ふ、じ、くん...」
「僕が彼にぶつけた言葉の半分は僕が彼女に言えなかった言葉だよ」

涙で滲んでいたけど懸命に見た不二くんは...私と同じくらい目を潤ませていた。
お互いに受けたものを、出来た傷を舐め合うしか出来ないことは分かってて、それでも...抱き締めずにはいられなかった。庇うように、守り合うように、ただ抱き締めて涙を流すしか、出来なかった。

「も...泣かないよ、に...しよ」
「.........そうだね」

笑って、彼の頬に手を伸ばして涙を拭えば...彼も笑って、私の頬に唇を寄せた。

「涙の味、忘れないようにするよ」
「.........じゃ、私も」

少しだけ背伸びをして唇を寄せて...涙を拭う。何とも言えない切ない味がして、また、泣いた。泣き止むまで泣いて、泣き止むまで抱き締めて、癒えないと分かっていた傷をお互いに舐め合ってた。



―――PM 4:45


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