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私は理解したくて此処にやって来て利用出来るなら誰でも良かった。
誰でも良いと思いながらも全く知らない、何も知らない、私を知らない人を利用しようと思った。そうすれば次は無くて、今回限りで全てが終わって...得るものを得て終わっていくことが出来るから。
だけど彼を利用するにはあまりにも優しい人で、募りゆくは罪悪感しかない――...


公園は本当に心地良くて、昼を回っても私たちは動くことなくそこに居た。
近場のコンビニで適当にお弁当なんかを買って、池の傍に設置されたベンチに腰掛けてピクニックみたいだった。会話も増えて、色々な話をして、私は決して退屈なんかじゃなかったけど、不二くんは分からない。ずっと微笑んでくれていたから。優しく穏やかに笑っていたから。逆に心が掴みにくい人だと思った。

「不二くんって心が掴めない人だね」
「んー...よく言われる」
「私は...こうしてて心地良いけど、不二くんはどんな気持ちでいるんだろうって思う」

笑っていることは悪いことじゃない。怒っているよりは笑ってくれた方がいい。だけど不二くんの笑顔は何となく...笑顔の裏を詮索されたくないみたい。笑って何かを誤魔化して、まるで私がいつもやっていることみたいに――...

「.........ゴミ、片付けて来るよ。待ってて」


やっぱり、だ。


どうやら触れられたくなかった、みたい。

彼はベンチから立ち上がって一つにまとめたゴミを片手に背を向けて歩き出していた。
何処か寂しそうに揺れる背中。やっぱり目が離せなくて無意識なのか意識的なのかその姿を追った。さらさらの髪が悲しそうに揺れてる。そんな風に見えて、また痛くなる胸。何でだろう...どうしてだろう。

ぼんやりと眺めた池には誰が放流したのか、金魚みたいなのが数匹、ぐるぐると円を描いていた。
ずっと同じ場所をくるくると回ってる。目が回らないのだろうかというくらい回っていて、その足を止めることはない。回ってばかりで疲れないのかな?私ならきっと疲れるのに。同じことを繰り返すなんて、きっと疲れる。


「.........ゆい?」


ああ、やっぱり同じことを繰り返すのは疲れるね。
皆同時に呆けた顔してお互いに硬直状態に入って、もう何度こんなことをしたのか分からない。ナチュラルに組まれた腕を眺めていたら慌てて引き離してたけど、もうそんな無意味なことしても同じことだよ。

「お前、こんなとこで何――...」
「.........遊んでたの。で、そっちは何してたの?」
「お、俺は、」

同じ言い訳を繰り返すのも飽きたたろうに。聞いてる方だって飽きるんだよ。
だけど...私も私で今までと同じ。何も言えない自分。聞こえて来ない相手の必死な言い訳を聞いてるフリ、理解してるフリ。

「そう」
「つーか、俺もメールとかしとけば――...」

相手の言い訳が不意に途切れて、隣の女の子が驚いた顔で私ではないものを凝視してた。
ポンッて肩を叩かれた時にビクッと体が震えた。振り返るのも何故か怖くて...目の前の二人と同じく私までも硬直する。

「悪趣味だねゆいちゃんって」
「.........誰?」
「気付いてはいたけど...まさかベタに遭遇出来るとは、ね」
「不二くん...」
「大丈夫。ゆいちゃんの味方だよ」

味方だと言われて初めて振り返った。
そこで見たのは...笑っているけど笑っていない不二くんの顔。何だろう、この状況。何か言いたげにしている彼と、少し唇を噛む女の子と...私の背を押している不二くんと。
何、何をどうすればいいんだろう。何をしたら...何を言えばこの場はそれで済むんだろう。私は一体どうしたら――...

「.........ハッ、お前二股掛けてたのか?」
「な...っ」
「上出来じゃねえか、お前にしちゃ美形捕まえてさ」
「.........っ」


二股、違う。それ以上を掛けていたのは少なくとも私じゃなくて貴方。
ねえ、同じことを何度もやって来たのは貴方で、私は貴方を模写しただけのこと。それが気に入らないの?だったら同じことをされて来た私は?私が怒ったら貴方は何て言った?「アイツは友達だ」って何度も言ったよね。

――今の貴方の姿は...いつもの私を映してる。心に隠された私の姿を、映してる。


「自分だって同じことしてるのに棚に上げるつもり?」


.........不二、くん?


「部外者は黙ってろよ」
「お断り。君こそ黙って聞いてくれない?」
「黙れよ!」
「君の"今の"気持ち...何度もゆいちゃんにさせてるって自覚、あるかい?」

もう、さっきまでの笑顔は消えてしまっていた。
見開かれた目、静かに響く不二くんの声。後ろに居たはずなのに前に出て、私を前方から庇おうとしてくれてる彼。思わず、洋服の裾を掴んだ。

「ふ、不二くんっ」
「君もハッキリ言うといいよ。むしろ縁を切るといい」
「不二くん!」
「あまりにも勿体無い。それに...彼を理解する必要はない」


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