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このゲームを紹介してくれたのは小学時代の親友だった。
今は別々の学校に行っても大切で大事な子で、沢山の悩みを聞いて聞いてもらって...切れることの無い縁を持ってる子。その子、祐希はいつも的確にアドバイスをくれてた。

「アンタを悲しませるようなヤツとは別れな」
今、まさに私の脳裏にチラつく顔の人物についても彼女はピシャリと言い退けてた。私は...何度も何度も沢山の言い訳を作って首を振ったけど、彼女はそれをただの同情と自分の弱さだと言った。それでも私は何も行動出来なくて、結局、彼自身を理解する方向へと走ることに決めた。

「私にも男友達が出来れば...」なんて話をした時に彼女がコレを持ち掛けたんだ。
そう、私は相手は誰であれ利用するために此処へ来ただけ。ただ理解出来ないものを理解するために...来ただけ。


「僕は不二周助。君は?」
「あ、えっと、志月ゆい、です」

不二くんと名乗る彼のオススメだという喫茶店に辿り着いた。
お店の雰囲気も良くて、爽やかな彼にピッタリな場所で...促されるがまま後ろに付いて歩いていただけの私は何だか浮いているような気がする。
彼が紅茶を頼んで私も便乗して...少しギクシャクするなか、彼は微笑んだまま向かいに座っている状況下。人見知りするタイプだと自覚はあったけど、此処まで人見知りする自分が居るとは思わなくて戸惑ってるところです。

「志月さん...ゆいちゃんって呼んでもいいかな?」
「あ、はい」
「いきなりなのに馴れ馴れしいけどそういう性格なんだ。嫌だったら言ってね」
「だ、大丈夫です...多分」

どうやら私とは正反対の人らしかった。
戸惑う私とは裏腹に会話を弾むように持ち掛けて来る彼。こんなゲームに参加しなくても良さそうなカンジ。
先にゲームを終えた祐希なんて物凄いオタク系に遭遇して時間が無駄だったとか言ってたんだけど彼は...違うよね。顔立ちは綺麗だし、穏やかで微笑みなんか本当に綺麗で、女の子は放っておかないくらいのものがあるんだけど。

「.........僕の顔、何か付いてる?」
「あ、いや、その...」

マジマジと彼の顔を眺めすぎたらしく、くすって笑って聞かれちゃった。
この場合どう回避すればいいんだろうか。綺麗で見惚れた...とか女の子じゃあるまいし、喜ばないだろうけど...

「綺麗だから...彼女、とか、はい...」

ちぐはぐな言葉を投げる私、彼は笑った。

「うーん、どちらかと言えば女顔だよね。でも残念。それがネックか恋人はテニスだけ」
「テニス、ですか?」
「そう。もう引退したけど...今年、全国制覇したよ」
「全国制覇...!」

何か凄い人と遭遇したみたい。ごめん。祐希。
チャラ男系かオタク系かヤバイ系かって話だったけど全然違う、予想外な人が来たよ。本当に、何か、凄い人。テニスで全国制覇っていうのにはあまりピンッとは来ないけど...でも凄いことだよね。全国で一番ってことだし。でも、それにしては腕は細いみたいだし日焼けもしてないみたいだし、体育会系ってカンジではない、よね。

「凄い人、なんですね」
「んーどうかな。でも仲間たちには恵まれてたかもしれないね」

謙遜と爽やかさを兼ね備えた美人。この人は人生において損はないだろうし、失敗もないんだろうなあ。
なんて、またマジマジと顔を見つめていればまた微笑みを返されて、ハッと自分の行動を制御した。

「君は?」
「は、はい?」
「可愛らしいけど...怒る人はいないの?」
「怒る、人...」

社交辞令はさておき。懸命に頭の中で怒る人を思い浮かべてみる。
当然、浮かんでくる人物は一人しかいなくて...だけど、怒る、のかな。怒るなら怒っていい。それは気持ちがあるから。

……いや、何かが違う。
きっと怒ったりはしないかな。じゃないとおかしい。彼だって同じことをしているのだから。私は少なくとも気持ちがあるから、怒りたくて、だけど怒れなくて、色々怖い、から...なんて矛盾してる。

「.........いない、です」
「そう?おかしいなあ...間があったけど」
「あの、懸命に、捜した、んで」
「ぷっ...君、面白い子だね」

穏やかに笑う姿が本当に綺麗だ。
なんて男の人に思ったことは一度も無かったけど、この人は本当に綺麗。だからだろうか、物凄く胸が痛む。酷く罪悪感が湧いて、利用しようとしている自分が醜く見えてならない。

届いた紅茶をお互いに口にして、他人行儀ながらギクシャクした状態で会話をしていくけど...内容は頭に残っていなかった。
紅茶代は彼が払うと言ってくれたけどそうもいかず、別々に会計を済ませたら彼は苦笑していた。
「きっちりしないであれくらい甘えてくれて良かったのに…」と言った彼は紳士だと思った。初対面なのに、また打ち解けてもないのに。話している雰囲気とか立ち振る舞いとか、そういうのを見ていくうちに少しずつ把握出来るものがあって...

「不二くんは...素敵な家庭で過ごされてるんですね」

きっと上流階級育ちだと思った。私みたいな一般的な家じゃなくて、こう...豪華なカンジ。
最初に見た時からそんなオーラは出ていたけど、どうやらそのオーラは偽物でも作り物でもないみたいだと思う。こんな人がこんなゲームに参加しているのが本当に不思議で、でも、私からすれば変な人じゃなくて良かったとも思えて。

.........ああ、また私は矛盾してる。
聞こえないように、気付かれないように小さな溜め息を吐いた。

「んーどうだろうね。弟は家出しちゃったし」
「いえ、で?」
「あ、正確には全寮制の学校に入っちゃった。僕が嫌いで」
「そんな...」
「で、姉さんは自由奔放に生きてる」

弟とお姉さん、か。一人っ子の私にはないもので羨ましくはあるけど...
「悪戯しすぎて嫌われちゃったんだよね」「ただ美味しくなるだろうって思って一味を山ほど料理に入れただけなのに」とか、「姉さんは化粧に一時間以上掛かるもんだから大変だよ」「そこまで厚く塗らなくてもいいのに…ねえ」とか。ちょっとだけ、こんな兄さんとか弟はいらないって思ってみたり、した。

「ふ、不二くんって...結構イイ性格みたいだね」
「うん、よく言われるよ」

あっさり笑顔で肯定されて何か見た目とのギャップがあるというか何というか。かなり拍子抜けした。
見た目の華やかさと綺麗な笑顔と放たれる言葉と、微妙にアンバランスに思えてだけどバランスは良いような...不思議な人。話せば話すほどに不思議さが増すとか本当に珍しい人。少し...興味が湧く。

「そこは…否定しようよ」
「それは出来ない、かな」
「何で?」
「僕、嘘だけは吐かないようにしてるんだ」

にっこり笑って、だけど少しだけ切なく影を落とした彼...目が離せなかった。


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