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「でさ、まだ返事貰ってないんだけど」

ブッと思わず吹き出しそうになった。折角、彼女が持って来たスポーツドリンクだというのに。

奥ゆかしさだとか恥じらいなどは一切ない。全てにおいて直球にストレートに言葉を発してくる彼女にいささか戸惑う。確かに俺は未だあの日の言葉に返答していないのは事実で、それをどう言葉にして良いのかまだ分かっていないのが現状。

いや...俺がどうしたいのか、どうすべきなのかは分かってる。決めていることは確かなのだが、いざ、こうしてみると、どう告げて良いのかとか全く分からず真っ白になる。情けないことに。

「迷惑、とかじゃないよね?」
「あ、ああ」
「うっとおしくもない?」
「ああ...」
「邪魔でもない、かな?」
「ああ...その、」

好意を持たれることがこんなにも嬉しいとは思っていなかった。
普段は避けられることが多い俺としては今の状況は何とも言えないむず痒さを覚える。だから戸惑う。だけど、ゆいもまた...他の女子と同じように俺を避けたならば寂しく思う。間違いなく、だ。

「ん?」
「むしろ、だな」

これを、この感情を一言で表すならばきっと「好き」だということに繋がるんだと思う。
彼女が「傍に居たい」とストレートに告げるのと同じ気持ちが俺の中にもあって...だからそういうことなんだろうと思う。

「その、」

.........こんな時にどう言ったらいいんだ?全く分からん。
もう少し誰かのアドバイスだとかを聞いておけば良かったのか?だが、そこそこのリスクもあって...そうか、柳生に聞いておけば良かったのか?アイツなら真面目に俺の話を聞いて良いアドバイスを――…

「まどろっこしいっス!」

物陰から飛び出して来たのは、赤也。

「あ、赤也。覗きとかしないでよ変態ー」
「そっちが勝手に来たんだろ?つーか、まどろっこしい!」

どうやら今のやり取りを盗み見していたらしい。

「馬鹿だねーそこが弦ちゃんのイイとこなんだよ?」
「スパッと自分の気持ちも言えないのの何処がいいんだよ!」

.........赤也の言う通りだ。

「ゆい」
「あーほら、弦ちゃんが怒って――…」
「好きだ」

今回ばかりは赤也に教えられたような気がした。
自分の気持ちもハッキリ言えぬようでは俺もまだまだ未熟者だ。精進が足りない。何を戸惑うことがあろうか、素直に思ったがままに告げれば良かっただけのこと。他には何もないんだ。

「お、お邪魔しました…」
「うむ。悪いな赤也」

気を利かせたのか、退散していく赤也の背中をしばし見送る。時には役立つものだな、アイツも。
そして見た彼女の顔。何を驚くことがあっただろうか、今の返事をずっと待っていたのだろうに。

本当にすまなかった。随分と遅くなった気がする。ずっと心の中では決まっていたことなのだが...口に出すまでに時間を要した。男として情けないものだが、それでも彼女が俺を望んでくれているのであれば――…

「これからも傍にいて欲しい。変わることのない笑顔で」

旋風を巻き起こすが如く、彼女は上陸した。
全てを越えて、新たな風を背に笑顔で俺の前へと舞い降りた。
それはきっと偶然なんかではない。きっと俺を変えるためにも舞い降りたのだろうと思う。だから、変わらない笑顔のままで傍にいて欲しい。それが今の俺の望みへと変わっていった。



―――After that.

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