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公園の一角、温かいジュースを片手にゆっくりと話し出す。
基本的に聞き上手ではなく大した助言も出来ない俺に伏せ目がちに彼女は言葉を紡ぎ始めた。

「人の性格って個々にあるでしょ?」
「ああ」
「私、昔からこんなで元気だけが取り柄だった」

物に話すのと大差はないのだが...と思っていた中、彼女が「弦ちゃんの取り柄は何?」と聞かれたから「部活くらいだ」と答えた。おそらくもっとこう...内面的な取り柄を聞きたかったんだろうと思う。だが俺にはテニスくらいしかない。その意を含めて答えたら彼女は笑って「それもアリだね」と否定しなかった。

「元気だけでも問題ないと思ってた。けど、」
「けど?」
「何がいけなかったんだろうね。周りに人がいなくなった」

彼女は、自分が理解出来ないままに...事が進んでしまった、らしい。

いつものように挨拶をしても返事は疎らからゼロに変わっていく。会話を持ち掛けても何かに怯えるかのようにスッと交わされていく。次第に口数が減り、周りを見ることさえもが苦痛になっていく感覚。痛みが、神経を蝕んでいく感覚...

俺には理解し難い状況下の中、彼女は耐えて、耐えて、

「耐えれなくなってね。今は登校拒否」

逃げ出した、と。行けど暮らせど変化のない環境に置かれた彼女は病んだ、という。
全てを拒否し、全てを否定し、環境を放棄した。

「だから...今日は楽しい気分になれた」

今日初めて見た彼女と俺の知らない普段の彼女。
大きく差のある姿、ギャップを何かの衝撃として突き付けられた気がした。

「姉が気晴らしに、ってね。この話を持ち掛けたの」
「.........気晴らし、出来たのか?」

彼女は小さく首を振ってまた深く影を落とした。
俯いて、今までより小さくなって...肩を落としてしまった。

「楽しいけど...出来れば友達とこう出来たらって思ってる自分がいる」
「.........」
「弦ちゃんは私を知らない人。私の友達だった子じゃない」

涙ぐむ彼女に俺はしてやれることが見つからない。
彼女が求めている相手は俺じゃない。彼女が必要としているのは...俺の手なんかじゃない。俺はただただ彼女の話を聞き、彼女の気の済むまで頷くくらいしか出来ない。

「けど、ずっと引き篭もるわけにもいかなくて...転校が決まった」
「転校...するのか?」
「そう。新たな環境へ移るために、ね」

彼女は女子校にいて同性、自分を嫌う女子しかいないから...ついた傷を修復することは困難だ、と誰もがこぞって判断したらしかった。そこで姉の居る学校ならば...と大人たちは考えたらしい。姉は彼女と違う場所...都内付属校へ通っているという。心配で心配で...自分の近くでやり直しをと話し、彼女はつい先日頷いたそうだ。

「.........今のまま、か?」

誰も、元通りに修復しないまま...

「今更、言葉は通じないから」
「.........そうか」

相槌くらいしか打てない自分が歯痒くて情けない。
だが何も知らない俺が、気持ちを共感出来ない俺が、これ以上何が言えるだろうか。傷ついた彼女を慰めようともそれが仇となっては意味がない。優しいだけの言葉は、無意味な言葉は、その傷口には効果がない。

しばしの沈黙。打ち破ったのは彼女。

「もうこの話は終わり!暗くなるし...今、折角楽しいしヤメヤメ!」
「.........すまない」
「何謝ってるんだか!私こそ聞いてくれて有難うね」

何も出来ない俺に彼女はまた微笑んで礼を言う。
何一つ、礼など言われることをしていない俺に、彼女は微笑んで...


「ゆい」


初めて、彼女の名を呼んだ。
純粋に真っ直ぐと今、思ったことを口にするために。


「俺は学校外の、お前の友達だ」



―――PM 5:45


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