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Necessary

約束や頼まれ事をされた時、それを無下にしないよう言われ続けた。
いつか自分に助けが必要な時に誰かが手を差し伸べてくれるだろうから、と。
これは厳格な祖父の言葉で、俺は今までそれを背くようなことはしなかった。

しなかった、とはいえども...今回ばかりは頷くべきではなかった。


某所、有名な銅像前。
今日が休日ということもあり、人は溢れていた。
有名な待ち合わせ場所でジッとしていることにいささか戸惑いはあった。こんな場所で待ち合わせなどしたことはなかったからだ。それに片手にはよく分からない雑誌を抱えている状態。暇だ、とはいえ退屈凌ぎにそれを読む気にもなれずにいる。


事の始まりは...手塚からの一本の電話。
奴が電話を掛けて来ること自体珍しいことだったが、また何かあったのでは?と思う俺とは裏腹に開口一番、奴は変わりない口調で言った。

『悪いが頼まれてはくれないか?』

日頃にもない手塚からの頼み。内容を聞く前に頷いた俺が悪かった。
まさか...こんなコトをあの手塚国光から頼まれるとは思ってもいなかったからだ。

部内でも話題となっている不可解なゲーム。それは静かに浸透していたことは知っていた。だが、俺には無縁の代物であり、関係のないことだと決め付けていた節さえある。それなのに、それなのに、だ。

「あの...」

途方に暮れるが如く行っていた精神統一。それを破る声。
目の前には短すぎるスカートにブーツを着用した女子が立っていた。

「待ち合わせ、だよね?」
「う、うむ」
「失礼だけど、学生さんですか?」

その言い草自体が本当に失礼だ、と思いつつも肯定する。
目の前の女子は「ふーん」と言いながら俺を見ているわけだが、仁王目線で言うならばこれが俗にいう"逆ナン"というヤツだろうか。蝶よ、華よ、と親に可愛がられた娘がこうもなってしまったならば世も末。両親に代わって説教をしてやりたいのだが今回はググッと堪えた。

「もしかして...こんなの持ってる?」
「.........あ、」

彼女が俺の前に出して来たのは、指定された雑誌。
俺の手に握られているものと同一の物であり、それを持っている彼女は......そうか。本当に来たと認識する前に彼女が「遅れてごめん」と言った。

「私、志月ゆい。気にせずゆいって呼んでよ」

.........
今時の子だと思われる風貌にそれなりの態度と言葉遣い。校内にもよく生息する女子学生でも俺の周りには決して近寄らない部類の女子だ。同じ人間ながら苦手と称される者の出現に正直戸惑っていた。

「そっちは?」
「真田弦一郎」
「弦一郎......弦ちゃんってトコかな?」
「げ、弦ちゃん...」

俺を良く知るものならばこの発言は命取りだと思うことだろう。だが、彼女は俺を知らない。俺も彼女を知らない。知らぬ、ということは究極に恐ろしいことだと改めて認識する。

「あれ?こんな愛称で呼ばれてない?」
「と、特には...」

俺に臆することのない態度、極めて不可解な発言。
それは彼女が全くの赤の他人で、今までに関わりなどなかったことを示す。

「だったら、私が名付け親だね」

毛色の違う存在に、俺はただただ圧倒されていた。



―――PM 1:20


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