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こいつが居たままだったのにそのまま寝よう、
なんて思って布団に入った自分を恨む。悔やむ。呪う。本気で。
抗うための手は布団の中にあって、それを表に出させないように雅治が両肘で押さえ込んでる。自由の利かない手足、これは全て自分が布団に入ったことによる失態。悔やまずにはいられない。

「......っ、こんなんじゃ、足りんぜよ」

動かせるのはせいぜい首だけ。必死に左右に振る。抗うことが出来るなら唯一、その方法だけしか無い。私から出来る攻撃も...その時に振り回せる中途半端に伸びた髪だけ。多分、意味は無い。

「ちょっ...待っ...んっ」
「待たん。待って馬鹿見とる俺にまだ待てと言うか」
「な...っ」

待って何それ。馬鹿を見ている雅治...?
雅治に待つという言葉自体が存在していないこと私は少なくとも知ってる。マイペースでありながら我儘。そのテのストッパーは常に下がらない状態になっててレバーは錆びついてて...

「ま、雅治...?」

待つことが出来たもの。今も待っているもの。
......この状況下。この状態でのこの話。私は...言うほど鈍くない。だけど勘違いだったら、恥ずかしいし情けない。まさか、とか...信じない。

「お前さんは鈍くないじゃろ。察しろ」
「......察しろって、」
「それが俺への答えか?」

......答え。答えなんて誰も言ってない。
けど質問だってアバウトなのに答えとか出来るはずがない。いや違う、答えが出来るとか、そうじゃない。答え、雅治への答え、それ...

「......察しても何も言われてないんだから答えなんか出来ないよ!」

それ...って、雅治が、でも、

「察しろって!わざわざ虫除けにずっと傍に居続けて...
横から馬鹿みたいに掠め取られそうになって焦りよる俺の気持ちを!」

......その言い方、ずるいと思う。

「罰ゲームで適当な告白されて適当に断ったって話もさせないで...勝手に焦んないで」

肝心な言葉も無いのに、雅治が、私を好きみたいな言い方。

しばしの沈黙の後、「へ?」と呟いた雅治に「だから明日でもいいって言ったんじゃない」と呟いた。ぽかんって口を開いたまま...何処に置いて来たんだよ詐欺師の称号は。ペテン師の異名はゴミ箱にでも入れて来たのかよって顔で...力が抜けたようでただ覆い被さって来た雅治。耳元で小さく溜め息なんぞ吐いて...それが気持ち悪いくらい耳に入った。

「ちょっと...耳元で溜め息吐かないで」
「......幸村じゃ」
「え?」
「アイツ、俺ばハメよった...」

ん?幸村くん...もしかしてこの罰ゲームの考案者って幸村くん自身だったのかな。
そもそも告白して来た人自体が彼だったんだけど、敢えて何も聞かなかった。だってホラ、別に何のゲームでの罰なのかも興味なければ、誰とやったゲームなのかもどうでもいい話。罰ゲームで告白、フラれた、それが全てだろうし。

だけど、この雅治の落胆っぷりからすれば色々噛んでるんだろうな幸村くん。色々察して考えて。そういえば前に幸村くんの話を聞いた時、面白い事とか大好きって聞いたような。

「......はいはい、誤解解けたならもう帰りなよ」
「嫌じゃ」
「はあ?私眠いんだってば」
「まだ返事聞いちょらん」

返事って...この時間帯にまだ帰るのを渋るか。明日学校あるし雅治だって朝練がある。早寝して良いことはあっても遅寝して良いことは絶対ない。間違いなくない。そう言おうとして口を開きかけたら、また、唇が重なって...軽く音を立てて離れていった。

「久しぶりに枕並べて寝るのも良いじゃろ?」
「はあ?」
「次は過去には戻せんのじゃけー」

良いか悪いかで言うなら良くない。
そんな訳の分からん理不尽な理由をこじつけられて布団の中に潜り込んで来る雅治に抵抗はしてみたものの、狭いベットの中、抵抗も虚しくぎゅうぎゅうに抱き締められた。小さな声で「幼馴染みとしては最後じゃけ」とか呟かれたら...何だか断りにくくなった。

私はまだ何も言ってなければ、雅治だって肝心なことは何一つ確実な言葉にもしていない。
次も最後もない。変わるとか変わらないとかそんなものもない。もう、何をどう言っていいのかも考えてることも、私には分からない。

「目が覚めたら言うぜよ」
「......勝手にしたら」
「答えはその時に」

額に、瞼に、頬に...軽く口付ける雅治と我先にと目を閉じて眠ろうとする私。
それでも触れて来る雅治の所業には呆れてるし色々と諦めた。

もうどうしようもない幼馴染みだけど...私も同じような気持ちを抱いて過ごして来たんだから観念しよう。答えるよ明日ちゃんと聞かれたなら、そう考えながら私も彼と同じように...一度だけ額に口付けて再び目を閉じた。


Auf die Hande kust die Achtung, (手なら尊敬)
Freundschaft auf die offne Stirn, (額なら友情)
Auf die Wange Wohlgefallen, (頬なら厚意)
Sel'ge Liebe auf den Mund; (唇なら愛情)
Aufs geschlosne Aug' die Sehnsucht, (瞼なら憧れ)
In die hohle Hand Verlangen, (掌なら懇願)
Arm und Nacken die Begierde, (腕と首なら欲望)
Ubrall sonst die Raserei. (それ以外は…)


――それ以外は、狂気の沙汰。

(4/9)
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