EVENT | ナノ
の世界

Ubrall sonst die Raserei.
――それ以外は、狂気の沙汰。



「......何やってんのよ雅治」
「ん?夜這い」
「......冗談は昼間にして。寝言は自宅でお願い」

今、何時だと思ってるの?そう聞けば、部屋の壁を見て現在の時刻を告げる。
風呂上がりにちょっと腰に手を当てて炭酸飲料水を飲んで部屋に戻ってみれば、何食わぬ顔で人の机に頬杖なんか付いてちゃっかり居座っている雅治が居た。

「窓、鍵掛かっちょらんかった」
「あのね...鍵が掛かってなかったら勝手に入るわけ?」
「別にいいじゃろ。お隣さんじゃけん」
「見つかったら変質者、警察沙汰」
「そう騒ぐな。今見つかっても夜這いで説教沙汰じゃ」

屋根伝いに私と雅治の部屋は移動出来る距離にある。要は超ご近所さん。
当然、幼馴染みついでに同級生。昔はそんなこんなで雅治がこんな風に気付いたら居たこともあったけど...最近はずっと無かった。久々の来訪だ。って、まだ夜這いとか言うか。面白くも何ともない冗談をナチュラルに言い放って。何なの眠いのよ。

「で、何の用よ。もう寝るんだけど」
「そうみたいじゃのう」
「課題ならその辺置いてるから持ってって」

用があるとしたら課題の件くらいしか思い浮かばない。
週末に結構課題出されたもんね。で、明日は月曜だから提出しないといけない。雅治はいつも柳生くんのを見せてもらってるみたいだけど...今回は借りれなかったか。可哀想に。
欠伸しながらシッシッと雅治を手払いすれば、ふーっと溜め息吐かれた。何かむかつく。

「......何よ」
「別に課題借りに来たわけじゃないぜよ」
「だったら何用で来たわけ?」
「さっきから言うとるじゃろ?夜這い」
「あー分かった分かった。見つかって作戦失敗お疲れさん」

こっちは眠いって言ってんのに言葉の意味が分からないのか。要は帰れだ、帰れ。
欠伸が絶え間なく続いて目には涙が結構溜まっていて。その様子は雅治も見てるはず。連続で欠伸が出るもんだから涙が溢れ出してるじゃない。もう寝かせろ。頼むから。

「......週末」
「え?」
「告白されたらしいなゆい」
「......はあ?」
「その辺の話を聞きに来たんじゃ」

何処から仕入れて来たネタよ。早いな。

確かに告白はされました。
正直驚きはしたけど...相手の表情が凄かった。もうね告白する表情じゃなかった。物凄く笑ってた、今にも吹き出しそうなくらいのやつ。それで気付く。何かの罰ゲームなんだって。
で、とりあえず何なのかと聞いてみれば、案の定。罰ゲームだってきちんと話してくれたから私も乗っかってみた。笑いながら「有難う」「ごめんなさーい」みたいな。だから今の今まで忘れてた。

え?そんな下らないガセネタのために夜な夜な来たんですか、リスク犯して。
結構長いこと雅治とはご近所さんやってるけど、未だによく分からない。変なところでスイッチ入るんだよね雅治は。

「今話すような事じゃないよ」
「そうか?」
「んー...明日以降にして下さい。もう寝るから」

放置すれば嫌でも帰ってくれるだろう。
そう考えてベットの中、潜り込んでまた手払い。大体、不謹慎...非常識だよね。こんな時間に他人の家にいるあたり常識欠落しすぎ。しかも幼馴染みでご近所さんとは言えども女子の部屋。普通は遠慮するもの。そういう対象に値しなくても考えてくれればいいのに。

「ゆい」
「んー...」

そんなことを考えながらも眠りに就こうとしていたら...気配を感じた。何か、間近に雅治がいるらしい。

「......ゆい」

声が近い、気配感じる、何か重い......重い?重いって何。でも重い!

「な、何っ」
「シー。騒いだら気付かれるぜよ」
「!?い、いや、気付かれるとかそういう問題では...」

ちょっと待って何この体勢。跨れる趣味とかないんですけど。しかも雅治に。
そこそこ眠気も到来してる。油断したら欠伸も出そうな状況下。それが分かってて何故邪魔するんだ。しかも私に跨って上から見下ろして...頼むから大人しく帰ってくれ。そう口にしようとした時、

「俺に話す必要が無い、関係ない、と」
「......へ?」
「ま、ええよ。答えたくなるようにしちゃるけ」

何か、ヤバイ、気がする。
何を言いたいのか何のことなのかサッパリ分からないでいる私といつもの調子でいながら目が笑ってない雅治。目が...結構見開かれてますよドライアイになりますよ。いや、そうじゃないよ私!何かマズい気がする。変な地雷踏んで、それが時限式か何かで...今、解除しないと大変な事なりそうな...そんな不安。

「ちょっ、あの、何?聞きたいこと、何?」
「もう遅い。今更じゃ」

冷酷な笑みと共に降りてきたのは...同じくらい冷たい唇。
目線も唇も頬に添えられた手も冷たくて...何もかもが冷たく感じる中で唇同士が重なっていることに気付くまでに数秒掛かった。

「ちょ...っ」
「黙れ」

黙れも何も、塞がれて何も言えない。
こんな風に雅治に触れられた事は一度も無い。こんな事をされる理由も分からない。全く分からなくて...気付けば金魚のようにただただ酸素を欲する自分。ぴったりと触れてるもんだから呼吸が出来ないのがもどかしい。抗っても抗っても退く気配はなくて...

「まさは...っ」
「満足したら話しよか。勿論、俺が満足したらの話じゃけどな」

また冷たい唇が重なった。
唇を、歯列を割って温かなものがどんどん侵入して...徘徊する。


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