適当にふらふらと出歩いて、彼女が進むままに進む。
慣れない会話に必死になる俺を彼女はひたすら笑っていた。時折、珍しい人だと呟きながらも気まぐれに歩いていた。
「弦ちゃんって、いつもそうなの?」
「何がだ」
「堅いっていうか、古風っていうか」
ああ、確か赤也にも同じようなことを言われたことがあったな。
俺は俗世間から少し遠く、まるで仙人みたいな悟りを説き兼ねない人だと。多少、浮世離れしているかもしれんが俺は俺。特に堅苦しくしたいわけでもなく、これが通常...素というもの。
「あ!別に悪い意味で言ったわけじゃないよ?」
「ああ」
慌てて取って付けたような弁解。だけど、その言葉に嘘はなさそうだ。
嫌味を吐かれた、というような感覚は受けない。それに、口から零れた言葉を後悔したのか、懸命に弁解する姿が垣間見れる。
「何て言うか、こんなカンジは久しぶりで楽しくって」
「.........楽しい、か?」
「かなり!弦ちゃんは聞き上手みたいだし」
振り撒かれた笑顔、そこからも楽しんでいる様子は伺えた。
俺と接した女子で"楽しい"などと言う子が今までに存在しただろうか。改まった態度、履き違えた言動、そして異なった自分を出す姿。彼女には、それが一切ない......気がする。
「あ、この辺に美味しいクレープ屋さんがあるんだって。行こ!」
「お、おい...!」
さり気なく掴まれた腕、そのままスルリと絡めるように彼女の腕が巻きつく。
まだ互いに良く知らぬ仲だというのに...気兼ねもない。
「弦ちゃんってさー手を繋ぐってカンジじゃないんだよね」
「な、何、」
「こっちの方が弦ちゃんとデートってカンジじゃない?」
「な...!」
今時女子というのは強引かつ行動力もあるのだろう。
真っ直ぐな彼女もまた例外ではなく強引かつ驚くような行動力を持つ。きっと俺には到底理解出来ないものも持っているのだろう。
半ば引き摺られるかのように甘い香りを漂わせる界隈へと俺たちは足を踏み入れた。
「うんうん、噂通りね!」
「.........満足したか?」
「そこそこ、かな」
店員に薦められるがまま、彼女は人気のクレープを頬張る。
基本的に和菓子の方が好きな俺としては「結構だ」と言いたいところだったが彼女の手前、オーソドックスだと言われるチョコバナナとやらにした。でだ、激しく後悔した。この異様なまでの甘さは尋常の沙汰ではない。つくづく女性というのは甘いものが好きなのだと認識する。
「あれ、弦ちゃんは苦手だった?クレープ」
「......この甘さは少々、な」
「食べたくなかったら頂戴。無理して食べてもキツいだけだろうし」
早くもクレープを完食した彼女は強請るかのように手を差し出している。
少なくともコレは俺の食べ掛けだというのに...彼女は気にした様子もない。むしろ、笑いながら「間接チュウでも平気」などと不埒な発言をしている。
仕方なくクレープを譲渡すると、彼女はまた嬉しそうにそれを頬張り始めた。
破天荒で活発で明るくて...裏も表もない姿は少しだけ和むものがある。
よく話して、よく笑って、よく食べて。それだけのことなのだがそれは見ていて清々しさをも覚える。
「一度来て、食べてみたかったんだよね」
「次は友と行けばいい。そうすれば店内で食べれるぞ」
本当は店内で食べて行こうと話していたが俺が耐え切れずにテイクアウトした。
充満した甘い香りが胃に溜まって、それどころではなくなったからだった。彼女は少しだけ残念な様子を見せたが、すぐ笑って「仕方ない」と了承してくれた。
「友達、ね」
「ああ。いるだろう?学校だとか色々」
これだけ元気なんだ。いないとは到底思えない。
が、さっきまで笑っていたのに...その表情が少し曇った。彼女に似合わぬ影が、落ちた。
食べ終わったクレープの包み紙を握り締め、彼女から発せられた言葉。
「いたら、苦労はしないよね」
公園のベンチ、近場のゴミ箱へ投げられた包み紙は枠に当たって落下した。それをしぶしぶ拾いに行く彼女の背中は、何処か寂しそうに揺れていた。
[ 戻る / 付箋 ]