EVENT | ナノ
#07

『......それってやっぱ、893的な人じゃない?』
「やっぱりそう思う!?」
『もしくは殺し屋』

ぶるり、と身震いした。
ベッドの上に正座して話している相手は、地元を拠点に私と反対方向へと移住した親友だ。

『なーんて、有り得ないでしょ』
「......」
『脅迫状じゃなくて内容証明かもしれないじゃない』
「......内容証明?」
『そう。で、その付けて来た人はストーカーじゃなくて間男…いや、彼が不倫してると仮定したら彼が間男の立場だから―...』

と、親友はまるで下世話なオバチャンみたいな話を組み立てていく。
お隣さんが結婚している女性に手を出して不倫関係になるも旦那バレして、旦那は彼をボコりたくて色々と探っている…と。
随分とチープな内容である。チープだけどある意味、その辺に転がってそうな話でもある。でも、だとしたら、

「......私関係なくない?」
『......確かに』

そう、単なる隣人である私には全く関係ない話である。

『じゃあ、もうその人は893的な人って事で!』
「じゃあって何よ!じゃあって!!」
『気を付けて生きるか、さっさと引っ越しするかしかないねー』

と、語尾に星でも付いてそうな声に私はただただ落胆した。

正直、引っ越しするだけの貯金はあっただろうか。
少しずつ少しずつ貯めてはいるけど...
親に協力してもらう事は可能かもしれないけど...その時は多分、地元に戻って来いと言われるに違いない。それは嫌だ。
やりたい事がなくてフラフラ生きてるけど、私はこの生活が好きなんだ。帰りたくない。

「......はぁ」

身の安全が第一なのに身動きが取れない。
もういっそ、お隣さんが何処かへ引っ越してくれれば安泰なのかもしれないけどそんな事は言えない。
八方塞がりとはこの事を言うのだろうか...頭が痛い。

あ、警察に相談してみる?
いや待て。万が一、お隣さんが893的な人だったなら報復されるかもしれない。

でも普通のサラリーマン的な人だったら?
それでも変に通報されて会社解雇とかなって逆恨みされるかもしれない。

......やっぱり八方塞がりだ。

そんな事を考えながら私は眠りに就いたのだった。

2019/11/09
(7/13)
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