EVENT | ナノ
#06

.........春先はお花が綺麗だ。お花が咲き乱れた人とか、いないよね。

いやいやいやいや、落ち着け落ち着け。
もしかしたら気の所為かもしれない。ジカジョーってやつかもしれない。
バイト帰り、夜も暮れた何でもない道で私の背後から一定のペースで付いて来る人だって居るかもしれない。

さっきからずーっと感じてるものがある。
同じ速度、同じように同じ道を歩く人を検知している。しかも背後。振り返るのが怖い。
どうしよう。この近くにコンビニはない。あとちょいで家に着いちゃうくらいの位置。

変質者とか強姦魔とか、顔は選ばないのかな。
いや、そうじゃないかもしれない。私の勘違いかもしれない。でも、何か気持ち悪い。

どうしよう。どうしよう。これは...フラグか?
いや待て落ち着け自分。これ以上考えずにちょっとだけ道を逸れてみよう。もしもの時に家は知られたくない。こっち方面は住宅多いもんね。だから少ない方に行けば足音はしなくなるはず。そんな気持ちで道を逸れて...それでも付いて来る!!!

やばい。本当に気持ち悪い。
やばい。もう勘違いでも何でもいい。怖いよ。

歩いて、歩いて、歩いて...少し走ってみたら向こうも走る。これは完全なフラグ!!!

「.........っ!!!」

突破口があった!!!!!!

「おわっ!......って、君」
「た、助けて下さい!何か!後ろ!」
「へ?後ろ?」
「足音!ずっと......っ」

分かってて、それでも頼らざるを得ない状況だった。
道を逸れた先に見覚えのある大きな背中に思わずタックルしてしまった。勿論、その相手もまた警戒レベルの高い人物なんだけど、それでも...どうしようもない。

「.........落ち着いて。大丈夫大丈夫」

よしよし、と頭を撫でられて少しだけ落ち着く。

「ごめんね。多分...それ、おれのストーカーくんだよ」
「.........へ?」

この人のストーカー..."くん"!?
え?何この人、そっち系の人!?痴情のもつれとやら?私、逆恨みされてんの!?

「おれに恨みがあるんだろうけどねェ、弱いから君を人質にしたいんだろうと思う」
「ひっ、人質!!?」

きょっ、脅迫状の人!!?
私はただの隣人なだけなのにそれだけで人質になるっていうの!?ちょっと!!!

「大丈夫。迷惑掛けないよう処理するから」
「しょっ、処理!!?」
「うん。ごめんね。怖かったね」

うんうん頷きながら私の頭を撫でる彼。
怖いか怖くないかで言ったら怖いですけど、今はアナタも十分怖い人ですけど!!?処理って何、埋めるの沈めるのバラバラなの!!?

「家まで送るから、ね?そんなに怯えないで」

今私が怯えてるのはアナタの存在です!!!
とは言えず、肩に手を回されて促されるように歩き出す帰路。もうあの足音はしない。

「.........何者なの、」

今度は別の恐怖に怯えながら呟いた一言は、背の高い彼には全く聞こえてなくって返事は返って来なかった。

2016/05/17 15:08
(6/13)
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