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#01

一通の便りが実家に届いたらしくそれが荷物と共に送られて来た。
往復はがき、目を引く文字は出席と欠席の文字ですぐには何だか分からずに前後の文章を読んだ。それは懐かしい、同窓会の案内だった。気付けばもう卒業して10年が経ったらしい。幹事の赤澤がわざわざ小さく添え書きまでして葉書を送ってくれていた。

――たまには都会まで出て来いよ。


馬鹿と冗談は確認してから言って頂きたいものと内心思う。

高校はそのまま外部を受けることなく過ぎて大学は地元へ戻った。まあ、両親の意向で仕方なく。だけどその後はちゃんと東京まで戻って今は一人暮らしをしててこっちで就職だってしている。何と言いますか...農業が本当に向かなくて。その間、赤澤とは連絡を何度か交わしたけど聞かなかったから敢えて言わなかっただけのことで僕はその都会に居ますよ。


「はてさて...どうしたものでしょう」

運が良いのか悪いのか、丁度その日は久しぶりに連休を取っていた日と重なってる。
ずっと事務所に篭りっぱなし、書類を書いてばかり、他人の泣き言に付き合ってばかり、と疲れてはいるんですが。溜め息吐いて考えるも...何故かペンを走らせた先は出席の方で、それにまた溜め息が出た。



学生時代の思い出と言えば、テニスと礼拝堂で歌わされたという記憶が鮮明に残されてた。
他にも色々あっただろうに、それでも色濃くあったのはその2つで随分と勿体無い青春時代を送ったと思う。
特定の誰かが隣に居たわけでもなく、本当にテニスに明け暮れて過ごした学生時代。まあモテなかったのか、と言われればそうでは無かったとは思いますが、それでも特定の誰かは置かなかった。

最後の卒業式、僕は一つの心残りを置いて実家へ戻った。
特定の誰かは置かずしてもそれなりに人並みに、気になる子が居たのだけれども...何も言えなかった。言えるはずも無い。何を言ってもどんな返事があっても僕は田舎へ引っ込むことになっていたから。そう、最後の卒業式での心残りはそれ。相手の「バイバイ」の言葉に合わせて「また、会いましょう」と言った自分。その「また」が10年経った今頃になってやって来たとしか言いようがない。

彼女は...どうしているだろうか。それなりに不完全燃焼だったゆえに、気にならなかったというのは嘘になる。

その子は比較的に元気で明るい子だった。
先輩には可愛がられ、後輩には慕われ、同級生からも信頼されているような...とにかく人当たりは良かった。その反面では影を落とすようなこともあったり、とミステリアスな部分も持ち合わせていたものだから興味深くて。目立つ存在ではあったと思う。ゆえに目にも止まった。それが僕みたいな人物であってもとても惹かれた。

中3の時に初めてクラスが同じになって、それから高校卒業までずっと同じクラス。
凄い縁でした。こんなことがあるんだ、ってさすがに3年目の時には話して、そして最後まで一緒だった。



ポケットの中で振動するものに気付いて僕はそれを取り出した。

「.........はい」
『おー観月。久しぶりだな』
「相変わらずですね。まずは自分の名前くらい名乗りなさい」
『はは。名乗らなくてもちゃんと分かってるだろ?気にすんな』

返信用の葉書を投函するために家を出た途端に連絡が入った。
表示には「赤澤」と出ていて、何てタイミングだろうと少しだけ苦笑した。いいのか悪いのか、赤澤は常にこういうタイミングで連絡して来る男だった。勿論、彼自身は無意識でしょうけど僕としては野生の勘だと思ってる。

『同窓会の案内、無事に届いてんだよな』
「ええ。今、投函しに行くとこです」
『出席するだろ?』
「さあ?それは葉書が届いてからのお楽しみということで」
『何だそりゃ』

電話越しに聞く赤澤の声は変わらなかった。昔と変わりないことを思わせるくらいに。
豪快に笑いながら出席、欠席のリストについて熱く語ってる今の姿を想像すれば学生時代の姿のままだ。少しくらいは変わっていれば面白みもあるでしょうに、きっと彼は姿さえもそう変わりはないだろう。

『で、どうなんだ?そっちの暮らしは』
「何不自由なく、ですよ。愚問ですね」
『恋人は?』
「そっくりそのままアナタに返しますよ」
『はは、そうかそうか』

と、笑う赤澤だけど実際のところどうなのか、という話まではせず話題は流れた。
さすがに10年も経っていることからカノジョの一人や二人、彼なら居そうな気もします。悪いヤツじゃないから。少なくとも僕みたいに仕事優先で動いたりしないだろうし他人の気持ちも汲める男、まあ唯一の欠点は不器用なところだけど。
流れた話題に関しては会った時に問い詰めてやればいいこと、まさかその場で「結婚します」なんて爆弾は落とさないだろう。

話しながら歩くことで随分時間が掛かってしまいましたが、目的地のポストへと辿り着いた。
「出席」に丸を付けた返信用葉書。もう一度確認してから投函する。

「今、投函しましたよ。近日中に届くはずです」
『そうかそうか。そりゃ楽しみだな』
「ええ。期待してお待ちなさい」

そうして、葉書投函と共に懐かしい人との電話も切った。



10年前...ふと思い返しても実に不器用な自分しか思い出せない。
爪先立ちした大人な自分を表に置いて、誰よりも上へ上へと見せようとしていた自分。でも、今になってみれば人より臆病で怖がりで、恐れるものが多すぎて何も出来なかっただけだと思う。大人になりたかった自分は、誰よりも未熟な子供で可愛らしいものだったのかもしれない。

浸る思い出もそこそこあるけど外でぼんやりしていては不審者だと思われそうだ。

明日も仕事、連休まではずっと仕事...仕事のために、とは言いたくないが悪影響があっても困る。とりあえずさっさと部屋に戻って疲れの取れない休息を得ようと歩き出した。

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