#01
同じマンションの同じフロアに目を引く人がいる。
毎日見掛けるわけじゃないけどいたらすぐに分かる。群衆に紛れることも難しいくらい目を引く人。
初めて会ったのはエレベータの中。
ちょっと待ってという声に反応して慌てて開ボタンを押した。すると中に入って来たのは驚くくらい背の高い男性で...言葉を失った。ほら、普通だったら「何階ですか?」とか聞くところだけど本当に言葉は出ないし閉ボタンも押し忘れてたし、失礼なくらいマジマジと見てしまった。
エレベータに乗って首を曲げて立つ人なんて初めて見た。
「悪いけど6階...」
そんな私を気に留めることもなくその人はそう言い掛けて言葉を止めた。
「......って、あららキミ、6階の子なの?」
「あ、はい」
そう、6階のボタンはすでに押されていたから。
「そう。しばらく来ないうちに可愛い子が入ったのね」
「は、はあ...」
「何か困ったことがあったら相談に乗るよー」
「あ、りがとう、ございます、」
多分、イイ人、なんだろう。
だけど正直、この時は胡散臭い人かもしれないとも思った。初対面で相談に乗るよ、なんて異性に言われたらどんな人だって警戒する。
とは言っても激しく動揺する間もなくエレベータは目的地に到着した。
「あ、お先、どうぞ...」
「うん。有難う」
窮屈そうにしていた彼から先に出てもらって私もそのフロアで降りた。
妙な鼻歌交じりに先を歩く彼がまさか自分の隣の部屋の人だったなんて知らなかった。それはきっと彼も同じ。
「あらら、お隣さんだったのかい?」
「そ、そうみたいです」
「じゃあ本当に何かあったら駆け付けてあげるよー」
本当にそれってどんな時さ。
とは言えず適当に愛想笑いして部屋に戻った。完璧なくらい施錠して。
2013/07/20 14:12
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