#3.51
それはとある晴れた日のことだった。
急にアイツから長いこと借りてたCDのことを思い出した。
特に催促されたわけじゃなかったけど、思い出したらこのまま借りとくのも忍びなくて...昼休みに返しに行った時の出来事。
「悪い。すっげえ遅くなったけど...」
と、頭を下げながら突き付けたCD。特に気にした様子もなく彼女は受け取ったと思われた。
いや、最初は別に本当に気にしてなかったんだと思う。だけど、手渡した瞬間の微妙な表情は鈍いと言われる俺でも分かった。
「.........ねえ宍戸」
「ん?」
手に取ったCDを徐に裏返して見せた。
「.........割れてるんですけど」
「へ?」
俺は正直、気付いてなかったそんなこと。けど、確かにケースには真一文字の傷。
「あ、悪い悪い。けど音楽は――...」
聴けた、という言葉は口から発せられることはなかった。
スカートが扇のように見えたと思えば、強烈な一撃が首筋に入ってた。で、そのまま人一人分はズレてた。
あの瞬間の死ぬほど冷たい目は、この世のものとは思えなかった。
「.........ってカンジだ」
「おっかねえ!マジウケる!!」
「馬鹿!マジで強烈だったんだぞ!」
蹴り飛ばした後はすっきりしたらしく、お相子だと言ったがどう考えても相子なはずはねえ。
けど、それを言えば次は何されるか分かったもんじゃなくて...頷くしか出来なかった。
「けど凄いねあの子。そんな風には見えないけど」
「.........格闘技好きなんです。昔から」
「意外だなァ」
と、大笑いする岳人の横で勤務中にも関わらず話に参加するエースさん。
結構興味深く聞いてるところを見ると、この話で彼女の印象を変えても悪い風には思ってないらしい。
「けど制服でハイキックは頂けねェとこだな」
「.........今度そう言ってやって下さい」
「え?それ言っちゃうと君また回し蹴りされるかもよ?」
「それは勘弁です!!」
本気で!とエースさんの腕を思いっきり握り締めたら爆笑された。
こんな姿を見た、なんて口が裂けても(どのみち内容も内容だから)アイツには言えねえと思った。
2013/12/23 17:13
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