#12
「......つっかれた!!」
計画とは、何らかの物事を行うために方法や手順を考え、企てる事である。
その計画は実際に完璧にこなせるとは限らず、実行途中で頓挫した時に発動される代替計画も必要である。私はその代替計画までも作り上げていたにも関わらず、この計画に必要不可欠な要素に関する内容をすっ飛ばしていた。
自身の体力ゲージである。
普段、接客業で立ち仕事はしていたものの動き回る事はあまりなかった。休日も出来れば動きたくないという干物系で、運動...特に持久力を要するスポーツはマゾヒストがやるものだと思っている。
要するに、私は体力が無かった。
ゴミ袋(大)2個分の洗濯物は割と重く、ランドリーに持ち込んだ時点で両腕に乳酸が溜まっている感覚がした。両腕に今も鈍い痛みが遺されている。残り時間60分強と表示は出ていたけど、持ち帰らずにそのまま捨てたくなったくらいには重かった。
クリーニング店に持ち込んだ物は、仕上がるまでに4〜5日時間を要すると言われてホッとしたが、思いの外特殊すぎて財布の中身を大きく減らした。
近場で食事を...と思っていたけど残された残金を見て、先にカーテンを購入しようと思ってバス移動。人が多すぎて酔うかと思った。しかも座れなくて立ちっぱなし。更に両腕に乳酸が溜まった(吊り輪の所為)。
到着した多めのショッピングモールもまた人が多くて出不精の干物を苦しめた。
人ごみを避けながら適当に購入した群青色カーテン。他に良いものがなく、これでいっかーと何も考えずカゴに放り込み、消耗品と共に購入したら完全に財布の中身は空に近くなっていた。
お陰でモールのフードコートで一番安いバーガーしか食べられなかった。
割と重いカーテンを抱えつつ、ランドリーを確認すると洗濯は終了していたので乾燥機にぶち込んだ。「毛布も乾燥できます」のステッカーが貼られた大き目の乾燥機で...いよいよ残金は駄菓子しか買えない金額までになった。死ねる。で、残り時間は90分、洗濯よりも時間が掛かる事を初めて知った。
時間を確認したので汚部屋へ戻り、カーテンを取り付けようとしたら凄まじい埃がレールから零れ落ちて咳き込む事数分。睫毛に埃が積もったので顔を洗った。それが非常にイラッとしたので自室から踏み台を持参して清掃。カーテンが取り付くまでに30分は有した。
起爆剤となるだろうペットボトルの中身を廃棄していたら異臭騒ぎ。殺意すら湧いた。ヘドロ化した液体をどうにか流し込んで持参したリサイクル袋に放り込んだ。空き缶も右に同じ。洗っても洗っても異臭がするので換気扇を回しながら作業をした。
その辺が済む頃には残り時間が僅かとなっていたので、少し綺麗になりつつあった汚部屋を出て洗濯物を再びゴミ袋(大)に回収。再びサンタ状態になって部屋に戻って来た。
その袋は一旦廊下に放置し、いつ掃除したの?と思われる床をゴリゴリ清掃。シートが埃に負けてズタボロになる様を数回...いや、数十回は見てようやく落ち着いた。
綺麗になった床にあの干しっぱなしの煎餅布団を取り込もうと持参したハタキで布団を叩けば再び埃。殺意のままに叩き続けたら煎餅布団の具がはみ出した。慌ててソーイングセットで補修し、取り込んだ。
廊下に放置した洗濯物は全て畳み、置き場を求めて散策したけど...見える場所に収納庫が無かった。意を決してクローゼットを開けたら、惨劇を引き起こしていたので静かに見なかった事にした。仕舞える場所のない洗濯物を床置きしたくなかったので、近くのコンビニでダンボールを数個貰って来て入れた。勿論、分別して入れた。男性用パンツをここまで目にする事はもうないだろうと思いながら。
テーブルのないこの部屋でレシートを広げた。
持参した消耗品は別にいい。レシートのあるものだけでも即返金して頂きたい、という気持ちで並べた。じゃないと明日から生きていけない。いや、ATMに駆け込めば生きてはいけるけど...出来ればしたくない。
「てか...」
何やってるんだろう私。
途中から家政婦の仕事で得られる賃金より汚部屋殲滅活動に重点がいってしまっていた。いや、それが仕事だから問題はないんだけど...そんなに掃除が好きとかは無かったはず。基本ダラだし。あと潔癖症でもなかったはず。自室もさほど綺麗ってわけではないし。
他人様の部屋だけど疲労困憊でゴロンと横になる。
腕だけじゃなく脚もぱんぱんになっているからホンの少しだけでいい、ゆっくりしたい。
見上げた天井にはウチと同じ照明がついてて、よく見たら微妙にチカチカしている。
あー...これは点灯管の交換しなきゃねーとか考えながらぼんやり見つめていれば、少しずつ意識が遠のいていった。
2019/11/16
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