EVENT | ナノ
お盆の話。
2017
「では、話しましょうか」

わざとカーテン引いて電気を落とした部室の中。隙間から差し込む光が妙な空気を誘う。
響く蝉の声を聴くだけで暑苦しいのに相反してガンガンに冷えた室内は余計に妙な空気を醸し出していた。

「俺の実家は本家と呼ばれる家で、夏は必ず親戚が集まります」
「え?鳳ん家て田舎なん?」
「まあ田舎...ではないですが、風習は重んじる家ですね」

割と普通に話を始めた長太郎。
うーん...何か古いお家って事なのかな。由緒正しき!みたいな。親戚付き合いが深いのって割と田舎のイメージは確かにあるけど失礼な眼鏡だ。あ、ちなみにウチはそういうのは無い。逆に田舎のおばーちゃん家に呼ばれる感じだ。

「それで、毎年恒例行事みたいな感じでイトコたちともこの時ばかりは童心に戻って遊んだりとかするんです」
「......童心って、お前いくつだよ」
「しかもイトコたちって...そんなにいんのか?」
「そうですね...下ばかり10人はいます」
「多っ!」
「ええ、大人よりも子供の人数が多いですよ」
「少子化の世の中で素晴らしいやん」
「え?そういう問題?」

とりあえず質問はさておき、話を続けようとする長太郎の邪魔はやめようよ。

「で、ですね。これだけ集まると布団の数だとかお風呂の順番だとか毎回大変なんです」
「......そうだろうな」
「昔は一緒にお風呂も入れましたが出来なくなりましたし、布団も一人1セットじゃないとダメになりましたし」
「うんうん」
「それだけでも恐ろしい出来事なんですけど...」

......え?それって恐ろしい出来事なの?
いや待て。長太郎クラスのイトコたちが10人もぞろぞろしてたら確かに色んな意味で恐ろしくはあるけど...そういうオチ?だとしたら激しく日吉が不服でブチギレしちゃうけど...?

「お風呂の順番、じゃんけんで決めたんです」
「妥当やな」
「普通はそうだな」
「客は遠慮しがちになるし本家が率先して入るわけにもいかないしな」

え?その論、今いる?

「それで1番、2番...って順番に入って行って、ふと見た時に何か人数が足りなくて俺、確認に行ったんです」
「......うん」
「足りないのは二人、一人はトイレに行ってただけでした」
「......もう一人は?」
「お風呂の灯りが点いていたのでお風呂だと思って一応声掛けたんです。入ってる?って、そしたら、"うん"って返事が返って来ました」

......うわあ、嫌な予感がプンプンする。

「それで、順当に行ってるなーって思いながら皆のいる場所に行くと...全員いるんです。子供が」
「......せやったら大人の誰かが入っとったんじゃ?」
「ええ、そう思って確認して行ったんです。でも、皆、家に居ました」
「.........」
「じゃあ、お風呂に入ってるのは?ってなりまして、俺、お風呂に戻ったんです」

勇者...長太郎は勇者だよ、うん。
私なら絶対に絶叫して誰か行かせるよマジで。だって、見知らぬ人が居ても怖いし誰も居なくても怖いし。

「電気は点いていました。声を掛けましたが返事はありません」
「......」
「脱衣場には鍵が掛かってて...もう一度声を掛けて脱衣場の鍵を開けました」
「......え?そない簡単に開くもんなん?」
「要領はありますが開きますよ」

......え?それはそれで色んな意味で怖い。

「で、声を掛けてからお風呂のドアを開けると...そこには誰も居ませんでした」

!!!やっぱり!!!

「直前にお風呂に入っていたイトコに聞いたんです。電気は消したか?鍵をわざと掛けたのか?でも、子供じゃあるまいし、そんな事はしない、と」

つまり、電気は消されていたし鍵もわざわざ掛けて出ていない、と。
そう、これは密室トリックか!!!

「じゃあ誰が悪戯したんだ?って犯人捜しになりましたけど...結局単独行動を取っていた人物はいませんでした。家に居る全員にアリバイがあったのです」


.........


「いっやああああああ!!!」
「ぬおおおおおおお!!!」
「っ!うっせえぞ!毎回毎回叫びやがって!!」
「これはガチ幽霊の仕業じゃん!マジなヤツじゃん!!」
「マジなやつとか言うな!馬鹿!」
「だから馬鹿はお前らだ!!」

拝啓、夏さま。今年も散々暑くして下さり有難う御座いました。
ですが、ちょっとした休憩、ちょっとした話で始まった怪談。今年も素敵な置き土産を下さり、有難う御座いました。相当寒くなったので私と岳ちゃんは仲良く外目掛けて走り出しました。

(3/3)
[ 戻る付箋 ]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -