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#05



……宍戸くんはウチの理事に関して詳しいかい?
この学園の理事席は公平な判断が下るよう1つじゃなく6つの席に分けられているんだ。
そう、複数の人間が所有していて公平に運営出来るよう出来ているんだ。だが、その中の大半がとある個人が所有している。
学園長である私が1席、もう1席は姉妹校である青春学園の学園長が所有しているんだ。
……ああ、在学生には知らせてないがあの学園は姉妹校なんだよ。ライバル校としてのイメージの方が大きいがね。
まあ、その辺は置いてといてだ。残った理事席の4つはさっきも言った通り、個人の所有で――…


「宍戸先生」
「……鍵は掛けておいたはずだが」
「そんなの無意味だって、学園長から聞きませんでした?」


――跡部くんだよ。今の会長が跡部景吾くんに、先日譲ったんだ。これが何を意味するか…分かるかい?



意味するところなど、分かりたくもなかった。
私立において理事が何を意味するか、なんて痛いほどに分かっている。絶対的な権力、揺るぎない座、簡単に人一人潰せることを意味する。
何が「公平な判断」だ。これじゃ公平もクソもねえ。単なる独裁だ。個人の所有するオモチャ…コレクションに過ぎないじゃねえか。


跡部くんが権力を振りかざすようなことは無いだろうけども、それでも…君のためにも従うべきだと思うがどうだろうか。


「それに…学園長も無意味な存在だってこれで分かったでしょう?」
「……学園長は無意味な存在なんかじゃない」
「言い方が悪かったですね。学園長は無力な存在です。権限は…俺にある」

その話ならもう聞いた。それに此処の鍵を簡単に借りれるほどの権力、権限があることも分かったさ。
わざわざ振り返るでもなく背中で聞く跡部の声は、抗うだけ抗わせておいて事実を知らされて呆然とする俺を嘲笑っているように聞こえる。
仕組まれたなんて思ってない。罠に掛けられたとも思っていない。奴の持つ当然の権力に俺が太刀打ちなど出来ないと分かっただけ。
怒りも苛立ちも湧かない。ただ悔しいだけだ。アイツの言った「強者は弱者を支配出来る」の本当の意味は――…コレだ。

「でも権力を振りかざすつもりはありません」
「……だったら何がしたい」
「先生には…もう分かってるはずでしょう?」

くすくす笑って背後から抱き締められる感覚。そのまま顔を覗き込まれた瞬間、突発的に殴ってやろうかとも思った。
だがそれをしなかったのは自分が未だ教師の枠に納まっていること、何処からともなくやって来ている敗北に屈したくなかったこと。
本当に…人というのは奥底まで怒りが浸透してしまえば無になる。色んな気持ちがごちゃ混ぜになっていたとしても今の俺は無でしかない。

「さっきまでの先生は何処にいるんですか?」
「……さあな。さっきまでってとこに置いて来たんじゃないか?」
「そう…それはそれで構いませんけどね」

……酷く甘い香りがする。
俺のものでない香り。それが跡部のものだと分かっても振り払う気力が今は無い。


――後は…君が決めてくれ。君の判断で動いてくれていいからね。


「跡部」

冷静さがあるようで欠けているような気がした。
こんな無になる状態も滅多になければこんなに静かに物事を判断したこともない。

「顧問の件は断らせてもらう」
「……学園長から聞いたんじゃないんですか?」
「聞いた。俺の判断に任せると言われた。だから断らせてもらう」

巻き付いていた手を払い、跡部と対峙した。

「お前に屈することはない」


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