片方だけ (2/2)
「ゆい、具合は大丈夫?」
「あ、幸村...うん、大丈夫」
「最近、調子悪そうだね。気のせいかな?」
心配そうにしている様子は幸村からは見受けられない。ただ、何かワケ知りな表情に見えた。
いつも笑っているけど、この人は優しい表情とは裏腹に鋭い洞察力を秘めている。
その目に、何がどう映っているのかはわからないけど...でも、何かが見えているような気がする。
誰よりも鋭い目で、私の何が見えているのだろうか。
「幸村って...面白いね」
「え?そうかな」
「うん...ま、今は元気だから私の心配いらんよ」
私はゆきでも幸村でもないのと同じで、彼らもまた私ではない。
私の中にどんどん身を寄せている黒いものが、どんどん私を侵食していく様子までは見えていない。
いや...出来れば見えないで欲しい。気付かないで欲しい。
あまりにも可哀想でしょう?自分自身の黒いものに飲み込まれて行く私は。
だから、どうにか蓋をして、どうにか抑えながらに違う自分を前面に押し出していくしか方法はない。
「そうかい?」
「うん。幸村は心配性なんだね。ちょっと意外」
「これが性分ってヤツかな。だから、何かあったら話していいんだよ?」
"優しいんだね"と言えば、"これでも部長だからね"と彼は笑った。
今、こうして会話をしているのに、お互いの笑顔には裏があるとしか言いようがなかった。
笑顔の奥、無理をしている自分の奥、何が封印されているのかを見たくはない。
気付いているのに、気付きたくなくて隅に追いやるしか出来ない。
「ゆい」
私の席から離れた幸村が、不意に振り返って私の名を呼ぶ。
それに返事をせぬまま、彼の方向を向くと何処か切ない表情を浮かべて口を開いた。
「俺はゆいの味方だよ」
「.........ありがと、う?」
何を知ってか知らずか、掛けられた言葉の意味を詮索する。
だけど、その意味を考えても何も浮かぶことはなく、ただ胸に留めておく程度にしかならない。
自分の席へと戻っていく幸村の背中を、ただ目を細めて眺め、見送った。
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