テニスの王子様 [不定期] | ナノ

片方だけ (1/2)



人が平等なのは流れる時間だけで、後は全てが不平等だと思う。
もしも、私が一つの場所から出た一つのものであったならば、こんな苦悩はきっと知らない。
気付かぬうちに向けられたモノが、徐々に徐々に肥大して蝕んでいく。
誰も知らぬ場所でゆっくりゆるゆると、私は静かに蝕まれていく。





家でも学校でも、私は常に同じところに生息していた。
何処へ行ってもゆきの存在は消えることがなく、逆に目の前に幾度となくチラつく。
仕方ない、仕方ないことではあるけども...時折、それがひどく嫌で逃げ出したくなる。
もしかしたら、このまま一生、彼女は私の傍に付き纏って離れないのではないか...と思って。
私はそんな現状に耐えることは出来ない。"私"は耐えることなど出来ない。
"彼女"は耐えれるのだろうか。私ではない、もう一人の彼女は...


「ゆい」
「ゆき、どうしたの?」
「今日の差し入れ、どうだったかなーみたいな」

照れ笑いしながらも訊いてくる、いつもの感想。だから、私もいつものように答える。
今日は誰がこんなことを言ってた、誰が次はこんなのが良いと言ってた、など。
彼らも直接、彼女に言えば良い事だろうに。彼女もまた、直接感想を聞けば良いのに。
巡り巡って全て、私の口から告げる言葉。まるで伝書鳩になったみたいに。
仕方ないことなのかもしれない。だけど、耐え切れない、やり切れない思いに駆られる。
私は、彼女との橋渡しのために存在しているかと思うと......痛い。

「ゆいー?」
「何でもない、よ」
「そう?あ、私も課題しないと」

別々にあてがわれた部屋。私は、彼女の部屋へと足を踏み込むことはしない。
違いを思い知らされると知ってるから、踏み込む勇気が私にはない。
誰よりも意識している、実の妹であるゆきに対して...強く強く、時として酷く。
昔はゆきが私を意識して、何でも真似して、何でも同じものを欲しがっていた。
"姉妹だから"と、母親はそう言っては同じものを揃えていたけど、彼女は私より器用だった。
同じでも、彼女の方が物の本質を良く把握していて...私のは酷く荒んだものに見えた。
それが嫌で嫌で、本当に嫌で仕方なかったのに、今では全てが別々になった。

「......」

隣から流れている音楽は、私が聴いているようなモノじゃなくなった。
共通の"何か"が無くなって、いつからか私と彼女のモノは違うものとなった。
私にはそれが嬉しいことであり、また彼女を憎む要因となっていった。
別々のモノを持つ、私とは違う輝きを持つ彼女に、醜いばかりの嫉妬を抱いている。
そう。私は誰よりも醜い本性を持つ、誰よりも可哀想な道化師......

――あまりにも自虐的過ぎて、滑稽な道化師。





「おはよう」

本質違いの声は同時に出ども、重なることなどなくユニゾンして響く。
私たちの声に反応して一括で挨拶されることに文句はないけど、その視線は全てゆきに注がれる。
いつからだろう。そのことに気付き、厭らしくも妬むようになってしまったのは...
その度に何度も何度も首を振り脳を揺らし、誰よりも醜悪な自分を隠してきたことか。

「おはよう、ゆい。ゆきちゃん」
「あ、おはよう。幸村くん」
「昨日はわざわざ有難うね。皆喜んでた」

穏やかな様子で話す幸村に、嬉しそうに返事をするゆきの姿。
会話は私の隣でされているはずなのに、私には理解出来ない言葉のように聞こえる。
ぼんやりといつもの光景だと思っているせいなのか、客観的に二人を見ているせいなのか。
朝の私は決して機嫌の良いものではないにしても...寝惚けているようなこともない。
それなのに、何故か遠くで声が聞こえているような感覚。

「ゆい?」

そう。彼女を前にした私は、死んでいるも同然。
己の醜さを表に出さぬよう抜け殻と化しているだけの存在。
聞こえる、聞こえないにしても、私はこんな瞬間は何処か遠くへ自分を置いている。
自分を守るための防衛策。聞こえても聞こえないように、何も聞かないように...

「ゆいは毎朝寝惚けているんだね」
「そうでもないと思うけど?」

不思議そうな顔をして私を見つめるゆき。我が妹ながら可愛い顔をしてるとまたも客観的に思う。
どうして、同じ顔で生まれなかったのか。どうして、他人になれなかったのか...
同じではないと知りながら切りきれない縁が見え隠れして、それがまた嫌になる。
きっと私だけだね、そう思っているのは。だって、ゆきはこんなにも姉思いだもの。

「具合でも悪いの?」
「ううん。ちょっと目眩がした、かな」
「あ、俺もあるよ。お互い低血圧だったりしてね」
「ちょっと、幸村と一緒にしないでよ」

笑って誤魔化して、笑って誤魔化しての繰り返し。日々、繰り返し。
比較されるのは嫌だから、全然違うことをしようと頑張っても逆にチラつく存在。
嫌いじゃない。だって姉妹だから。私にとって唯一の妹で、だけど私にとって最大の汚点...
ゆきが輝けば輝くほどに私はくすんでいく。まるで、私は月のよう。
太陽が輝く間も月は必死で光を放っているのに、誰も気付くことはない。気にも掛けない。
自虐的だと笑ってくれていい。笑ってもいいから、比較しないで。違いを見つけないで。

「そろそろ予鈴鳴っちゃうよ」

時計の針はあと数分でホームルーム開始だと示していた。


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