テニスの王子様 [不定期] | ナノ

My Treasure #02



結婚して数年、子供にはまだ恵まれていなかった。
今すぐに欲しいとはお互いに思ってはいなかったが
後々は…なんて夜になればそんな話もする。
子供を生むならば一姫二太郎、
なんて古臭いことを言いながらも来るべき日を待つ。
まだ見ぬ自分たちの子供が、
コウノトリに乗せられてやって来ることを…



「ただいま」

辺りが暗がりとなる時間帯、
一般的な帰宅ラッシュと共に俺も家路につく。
その頃にはゆいはすでに帰宅していて、
当然の如く、夕飯の準備を終わらせてて。
玄関先まで漂う食事の香りは、急激に俺の食欲を活性化させる。

「おかえりなさい」
「おう。今日もイイ香りだな」
「ホント?初レシピものに挑戦してみたんだよ」

彼女は楽しそうに、そして反応を楽しみにした様子で俺をリビングへと促す。
移動途中でチラッとキッチンを見れば、いつものように例の本が開かれていた。
嫁入り道具だと言って持って来た調理本の数々。
もう何冊くらいあるだろうか。数えられねえな。

四季に合わせた料理。
夏バテ防止の料理。
疲れを吹っ飛ばす料理…

彼女は俺と自分の体調を見ながら懸命に考えて作る。
その本が俺たちの生活の全て…
それが今日もキッチンで開かれていた。

「今日はどんな効果のある料理だ?」
「んーとね…」

パートから帰って来て、掃除だとか洗濯だとかして大変だろうに…
それでも料理にも手を抜かないゆいの気力は何処から湧いているのか。
無理をしていないのか、頑張りすぎていないのか。
少し頼りなくとも俺にだって手伝えることはある、
そう言ったら彼女は笑ってた。
「私が疲れちゃった時は亮に頑張ってもらうんだから」と肩叩いて。

「元気が出る料理、かな」
「何だ?具合でも悪いか?」
「そうじゃなくて、その…」

口を濁してモジモジして…ああ、激ダサ。俺も鈍かったな。
そうだな。いつまでも二人っきりでは寂しいかもな。
互いの両親もよく愚痴を零すことだし。
「孫の顔が見たい」という若き夫婦へ送る決まり文句。
叶えてやりたいと思う。
互いの両親が若いうちに、元気なうちに会わせてやりたい。

「そうだな。頑張るか?」
「うん。頑張ろう」
「覚悟、しとけよ?」




一般的でいい、

普通でいいから温かな家庭。

俺とゆいと、まだ見ぬ子供と共に過ごす…





「亮はさー」
「ん?」

暗い部屋に響く声、布団に包まったゆいは顔だけひょこっと出す。
まるでゲーセンのモグラのよう。
だけど、その姿をモグラだなんて言えるはずがない。
怒らせると朝飯無くなるし、下手したら口も聞いてくれねえし。
でも、それがまた愛おしい。
何よりも、誰よりも愛おしく思える存在だから…

「男の子と女の子、どっちがいい?」
「俺くらい健康であればどっちでもいいな」
「じゃあさ、子供の名前とかは?」

広がる未来と、まだ見ぬ子供への大きな期待。
本当に家庭を持ったんだと実感する。俺も、彼女もきっと。
でも、正直なところを言うなら…
まだ見ぬ子供に対する想いだけはわからねえ。
ちゃんと愛せるのか、可愛がれるのか、きちんと育てて行けるのか…

「姓名判断の本見ながら決めるか?」
「えー?」
「嫌なのかよ。画数とかって大事なんだろ?」
「画数よりも愛よ、愛。希望のある名前にしたいな」

名前に込められた親の希望、親の愛。
自己満足で名付けるのではなく、そうなって欲しいと願って名付ける。
彼女はそれを強く望んで、延々とそれについて語っていく。
ああ…彼女となら自分の子供を愛せる、可愛がれる、育てて行けるだろう。
今はまだカタチもなく見ることも出来ない自分の子供だけど…きっと。

「……早く、来るといいな」
「ん?」
「俺たちの子供」

笑顔で頷いて肯定するゆいを、俺は誰よりも愛している。
その気持ちを残したまま、同じように子供も愛せたなら…
きっと、最高の家庭となる。誇れるくらい、誇りに思えるくらいの家庭に。

「やっぱり女の子はダメだね」
「あ?何でだ?」

くすくす笑って彼女は顔を隠してしまった。
何度同じことを繰り返し聞いたところで答えは返って来ない。

彼女に似た男の子、彼女に似た女の子。
俺に似た男の子、俺に似た女の子。
どちらにも似た男の子、女の子…どうしたって可愛いだろ。

「おい、答えろよ!ゆい」
「答えなーい」

こんな風になると、誰が子供なのかもわからなくなっちまうな。
結婚しても、何ら昔と変わらぬままに無邪気さを残して成長して…
そんな彼女が好きで好きで、愛している。



「……愛してる」



変わらずに居て、変わらずに居たい。
互いに感じるぬくもりの中で、これから先もずっとずっとずっと…
ゆいも、そう思っていてくれたらいいんだけど。
その答えもまた、彼女はきっと答えてはくれないのだろう。


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