テニスの王子様 [不定期] | ナノ

My Treasure #01



「亮!そろそろ起きないと遅刻――…」


朝一番に響くのはゆいが呼び起こす声。
平和で平穏で…何よりも幸せな一日。この声はその始まりを告げる鐘のようなもので。
わざと寝たフリなんかする日もあったり、わざと起きることを拒んでみたりする日もある。
その度に吐かれる溜め息が少し…ホンの少しだけ心地の良いものに感じる。


「もう!遅刻しても知らないよ?」


俺よりも先に起きて、朝食の準備をして起こしに来るゆい。
共働きで仕事と家事とを両立させる日々を送っているのに疲れを知らない。
毎日元気で、毎日明るくて…俺は毎日その元気を分けてもらっている。
少し頼りなくて不甲斐ない俺だけど、彼女は嫌な顔一つしない。
それがまた幸せで、自然と零れる。笑顔の絶えない小さな家庭のカタチ。


「折角作ったお弁当も私が食べてもいいんだよ?」
「……そりゃ困るな」
「でしょ?じゃあ、早く起きて起きて」

ゆいに急かされるがままに起床、洗面所へと追いやられる。
まずは顔を洗って、手を洗って、と子供のように指示をされるんだ。
毎日毎日、飽きもせず世話を焼いては俺の周りを立ち回る。
平凡だけど幸せな朝。幸せすぎる一日の始まり。馬鹿みたいに穏やかな、至福のひととき――…




ずっとずっと…

何年経ったとしても永遠に続く。

そう思って、そう願って、いた。





「朝から豪華だな」
「当たり前でしょ。亮は稼ぎ頭なんだから」
「稼ぎ頭…出来れば、大黒柱って言えよ」

決して、裕福な生活を送っているわけじゃない。
本当ならば「家事だけに専念しても良いよ」と…
男らしく、旦那らしく言えるだけの器量を見せたい。
だけど、現実的にそれはなかなか難しいことで、苦労を掛けてる。
色々な面で二人で頑張っての一つの家庭となっていて。

「無理、すんなよ」
「……亮は馬鹿だね」

小さなテーブルと二つの椅子、
向かい合わせたゆいは笑っていた。
自分で作った朝食を食べながら、とても穏やかに笑いながら言葉を洩らす。

「私たちは二人で一人、運命共同体なのよ?」
「あ、ああ…」
「無理はお互いにしない」
「ああ。そう約束したな」
「だけど…頑張るのも一緒に、ね」

ね?なんて言われた日には頷くしかねえ。
俺の性格を見抜いた確信犯、コイツ…年重ねても可愛すぎだ。



「イイ女を捕まえたな」と、跡部は少し悔しそうに言っていた。
「宍戸には勿体無い」と、忍足はぶつぶつ文句を言っていた。
「宍戸にしては上出来すぎ」と、ジローは笑って、岳人は言葉もなく悔しがっていた。
そんな中、長太郎だけは「宍戸さんをよろしく」と彼女に告げたな。
確かに…俺には勿体無いくらいの良妻であり、パートナーとなっていた。
彼女はいつも笑って、笑ってくれるだけで俺も幸せを感じる。



豪華な食事を頂いた後、きちんとアイロンを掛けられたシャツに袖を通す。
そして、きちんと準備されたシワのないスーツを身にまとい、洗面所へ…

「くれぐれも歯磨き粉を零さないようにね」
「バーカ、そこまで子供じゃねえよ」

キッチンから投げ掛けられる言葉に俺も返事を返す。
顔を見なくても彼女が笑いながら片付けながら言ったんだとわかる。
学生時代、顔を見ないと不安になると言っていた女も居たが…
こうなってみれば、それが少し当たり前。
何処に不安を感じるのか理解出来ない。
この何気ない日常のカタチもまた、俺は幸せだと思えた。

「じゃあ、そろそろ行って来る」
「うん。私も片付けたらパートの仕事に出ます!」

狭いマンションの狭い玄関、毎日そこまでの見送りを繰り返す。
出勤時間は俺の方が先で、彼女は毎回見送り番。
きちんと磨かれた革靴、だけど結構ボロボロになってやがる。

「気を付けて行って来いよ?」
「うん。亮も気を付けて」

毎日毎日…こんなコトを繰り返してたら馬鹿にされるだろうか?
玄関先で、一段上にいるゆいへ挨拶代わりのキスをする。
夫婦の日課…昔は小馬鹿にしてたというのに…
まさか自分がするようになるとは。結構、激ダサなもんで。
照れも無く、恥ずかしさもなく、それを行うことが普通になって…

「じゃ、行って来ます」
「行ってらっしゃい」

手を振って見送られ、俺は家を後にする。
七階から見えた空は青く、今日もうっとおしいくらいに天気が良い。
エントランスへ向かうためにエレベーターに乗ろうとした時――…



「亮!ついでにゴミ出し来て!」



スーツ姿に鞄とゴミ袋と持って。
まずはマンション前のゴミステーションを目指した。


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