「……それって私のことですか?」
バカにプラスされた嘘吐きに覚えがないわけではないけど、少なくとも私はそういう名前ではない。
ギッと有らんばかりの眼力でキング跡部を睨めば…倍ぐらいの眼力で睨まれてしまいました。うん、眼力で勝つとか無理。
近所の忍足さん 07
俺様を睨み付けようとはイイ根性してる、と言わんばかりに苛立った様子のキング跡部に呼び付けられて何故か生徒会室で作業をしてる私が居ます。いや、正確にはクラス委員もしてるキング跡部と同じくクラス委員の祐希ちゃんが目の前にダーンと現れまして…「コイツ(祐希ちゃん)と二人で作業してると息が詰まる」と「コイツ(キング跡部)と二人で作業してたら後で襲撃に遭う」と言うもんで一緒に作業をしてるんですけど、何か、空気重いし辛い。
「お、終わったらご褒美欲しいなー」
重すぎる空気にウフフのフーなんて笑ったら二人揃ってギッと私を睨んだ。
「あーら友達からのお願いに対してご褒美とか言っちゃうわけ?」
「(ヒイッ)す、すみません」
「バカで嘘吐きに払うもんは何もねえ」
「……(ですよね)」
なんでこんな時だけ息ぴったりなんだろうこの二人。
ガックリしながら次のクラス会議で使う資料とやらをパチパチ止める仕事を始めた私。キツい二人はその会議に向けて色々と話し合いを進めている…ような進んでいないような。微妙な言い争いになりつつある。その内容ってのが学園祭の出し物について。
いやね、案は出てるんだよ。案は。女子の皆さんがカフェ的なことをして荒稼ぎしよう(主にキング跡部を利用)とか、男子の皆さんが肝試し的なものを作ろう(目的は…ねえ)とか。本当に色々と案が出てるんだけど結局のところ決まってなくて、煮詰めてるとこらしいんだよね。
「予算が決まってて大掛かりなことが出来ねえんだよ!」
「だーかーら、アンタんとこのパティシエ借りたら全然出来るでしょ!?」
「出来るか!だったらこっちの肝試しの方が楽だろ!?」
「楽ー?バッカじゃないの。あんな狭い教室で試せる肝があるか!!」
……でも煮詰まってないよね。
「だったらこっちのバザー案は?なんで却下なのよ」
「俺様のブロマイドなんぞ売らせてたまるか!!」
「売れるから仕方ないじゃない!」
うん、完全に無理っぽい。
売れ上げ目的の祐希ちゃんと楽に終わらせたいキング跡部との間には溝が出来てる。ついでに祐希ちゃん以外の女子はキング跡部目的だし、キング跡部以外の男子は他の女子が目的だから、ねえ、色々難しいよコレ。
「ねえ!ゆいは?ゆいの意見は!?」
「のお!?」
「バカでも何かあんだろ?言え」
意見、意見、でございますか?んなもんありませんよ。とは言えない。恐いし。
「わ、私は…ねえ」
総合すると、飲食系・稼げて楽出来てキング跡部で女子とお近づきになれればいい。
「……ハズレばっかの食みくじ?」
「……何よソレ」
「いやね、目的が出会いと想定した時に合コン案が出て、キング跡部で稼ぐならハズレばっかの食みくじとか浮かんだ」
「……いや、意味分かんないんだけど」
「ハズレばっかの食みくじの特賞がキング跡部と合コン出来ますーとか言ったらバカ売れ間違いなし」
「いやいや、だからね、全く主旨が分かんないんだけど」
うん、私もまだまとまってないよ。急だったから。
要は…出し物は一応、カフェ的なもの(通常営業で有料)にします。
で、良かったら合コン設置しますよーと言っちゃいます(跡部以外のクラス男子のため)。
で、希望者には(ハズレばっかの)食みくじ(ワサビ入り饅頭or死ぬほどすっぱい梅干し入りおにぎり)を有料で行います。
で、アタリ(美味しいの)が出たらキング跡部と合コン(5分程度)出来ます(女子限定)。
ハズレたら跡部以外の子(クラス男子)とお願いします(男子ウハウハ)。
でも、合コン設置希望の男子が来たら…どうすっべかね。難題です。
「……と、いう意見をかるーく出します。以上」
「ハッ、下世話なもんだな」
「あら、私は面白いと思うけど?」
祐希ちゃん、今の内容をサラサラとホワイトボードに文字を書いていく。
・出し物 (合コンセッティング付き)カフェ
・注文してくれた人で希望者があればクラス男子(10分程度)貸し出します。
・跡部はキングなので希望者は食みくじをお願いします。
・食みくじの内容はワサビ入り饅頭or死ぬほどすっぱい梅干し入りおにぎり(呪い可)。
・食みくじは全ハズレ。ヤラセで数回、座席に(3分程度)出す。
・ハズレた場合は、クラス男子でお願いします(男子ごめん)。
・クラス女子(5分程度)を指名したい方はカフェの高額メニューを2セット頼んで下さい。
・高額メニューはケーキセット的なものを予定。1セットは指名女子用。
・但し、指名した子がYESと言わなければごめんなさい。
「こんなんでどうよ」
「お、おお!何かそれらしくなってる!キング配慮も完璧!」
「バカかお前!!」
「書いてみるとこの案いいわね。コレでもう一度議題しましょ」
よーし、とノートパソコンに向かってカタカタ資料を作り始めた。キングのちょっと待ったコールを無視して。
祐希ちゃんって強いわ…相手がキングでも問答無用ってカンジなんだ。私なんか有らんばかりの眼力でキングを睨んだら、倍ぐらいの眼力で返されて怯えたっていうのに。流石のキングも彼女には勝てないみたいだ。
「あーこれで決まると助かるんだけどなあ」
「決まるよ祐希ちゃん!コレ完璧だし!」
「だったらゆいのお陰。お礼にケーキ奢っちゃうよ跡部が」
「俺!?」
「三人で食べに行くか、金だけ跡部に貰うかしましょ」
「ふっざけんな!!」
……で、結局祐希ちゃんはキングから軍資金を貰いました。
「さっさと帰れ疫病神!」
「言われなくても帰りますよーだ。あ、私、ゆいの分の鞄も取って来るから校門前で待ってて」
「了解でーす」
祐希ちゃんって本当にやり手だなあ。そしてゲンキン。
ちょい前に目の前にダーンと現れた時はピリピリしてたわ殺気撒き散らしてたわで凄かったんだけど、今はスッキリしたらしく周囲にお花飛ばしちゃってるカンジ。落差がハンパないよビックリだよ。
「キングでも勝てない相手っているのね」
「ああん?どう考えてもアレに勝てるとか無理だろ。人の話聞いちゃねえ」
「……ですよね」
祐希ちゃんはゴキゲンに教室へと走っちゃったから私は約束通り、校門で彼女が来るのを待とうと歩く。すると、キングはキングでこれから部活があるから同じ方向へと歩く。横並びにテコテコ…って危険なんですけど。
「おいバカ」
……彼には名前を呼ぶ習慣がないらしい。
「バカバカ言うな」
「なんでお前、あの時に嘘吐いた」
こっちを見るわけでもなくサラリと疑問を投げ付けるキング跡部。
あの時の嘘…と言えば、まあ何のことだか分からないわけでもなく、だけどどう返答していいか分からなくて口をつぐんだ。と、いうよりも何でそれを今更聞くかな。別にどうでも良さそうなんですけども。
「忍足にそうしろって言われたのか?」
随分、突っ掛かって来るけど…もしや素行調査?テニス部って厳しいのかな。
部活に専念出来ないから男女交際禁止!とか言っちゃう部だったら最悪だよ。時には彼女の応援とかで強くなれるかもしれないのにさ。てか、忍足曰く、相方のガックンはそうらしくってウザすぎるって話してたっけ。
「違うよ。私が勝手にそうしただけ」
「アイツの彼女だからか?」
「それこそ違う。でも知られたくないこともあるかもしれないと思っただけ」
「お前と仲いいのを、か?」
ちょっとニュアンスが違うような気もするけど…
ただ「説明するの面倒でしょ」と言えばキングは何も言わなくなった。
「関係ないのに何でとかどうしてとかキングだって聞かれたくないでしょ?今、何で私と横並びに歩いてるのか、とか」
キング跡部はそういうのの対象だからきっと分かると思う。
今日話してた女の子は誰?彼女?何してたの?なんて聞く勇気のある子がいるかいないかは別にしても聞かれてウザイと思わないわけがない。それは忍足も同じみたいだからそうしただけ。縁あって仲良くなれたし助けてもらってるけど、一歩間違えれば私もまたウザイと思われるのは寂しいし困る。まだまだ一人暮らしは不安だしね。
「……成程な」
「流石キング跡部。理解能力高くて助かる」
「お前、思ったよりバカじゃねえな。あ、いや、バカには変わりねえけど」
「どっちだ!」
結局バカだと言われた感満載だよ!意味不明だよ!
むかつきのゲージがグーンと上昇してギッとキングを睨み付けたら何故かフッと鼻で笑われた。更にむかつく。
「貴重なバカだ。そのままでいろよ」
「バカのままでいろとか失礼だよ!」
本当に何言ってんのか分からないキングを再度睨みつけて私は下足箱まで走った。
その背後から笑い声が聞こえたけど無視だ無視。素敵に無神経極めてるってのに人気ある理由がほんと分かんないよ。男は顔と財力じゃない!背じゃない!才能と運動能力じゃない!勉強出来るだけ…って。考えれば考えるほどに惨敗だ(悪いのは性格だけだった)。
落ち込んで校門前で項垂れてたら元気いっぱいの祐希ちゃんがお花散らしながらって来た。
「お待たせー!はい、鞄!」
「有難う…」
「ん?どうした?」
「人の世の不条理さを噛み締めていただけさ」
と答えたら、彼女は「ふーん、まあいいや行こう!」と私の惨敗っぷりを無視して手を引いた。
2012.11.07.
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