テニスの王子様 [DREAM] | ナノ
「もしかしたら忍足自体に和み要素があるのかもねー」
そない言われたら毎日でも入り浸ったろか?っちゅうんが俺の意見で…けど言えんかった。
彼女とおって和むんは俺も同じ。せやけどそれは時々一緒に過ごす時間がそうさせとるだけかもしれへんし…て。

頭の中はごっちゃごちゃ。
ちゅうか、どんなに御託並べても否定的になってもほんまは分かっとる。俺は、怖いんや。
ほんわか出来たこの関係が俺の突発的な行動で崩れてしもて、簡単に出入りすることも話も出来んくなるのが怖いんや。



近所の足さん 04



とか何とか言うて結局、手土産持って今日もゆいん家に居座ったろかなー思うて玄関前、ほんのちょこっとだけ気合い入れとる。
微妙な天気の日曜日。ほんまやったらテニスあるばすなんやけど微妙なもんやから休みになって予定はパア。
せやから…っちゅうわけでもないけどゆい居てそうやし、ほんで来た。きっちり手土産持ってな。
まあ、それなりにインターホン押すには気合いはいる。マイナス思考かてあって「今日は邪魔だから帰って」言われたらヘコむし。
とはいえ、今までそういう経験はないんやけどこれからもないとは限らんわけで…手土産のドラ焼きの箱が気合いでペコッて音がした。

……そろそろ出陣、しよか。

そない重くないインターホン、余計な圧力を掛けつつも押せば、普段やったら響くはずの音がせえへんことに気付く。
ほら、インターホンて意外とデッカイ音するやん。外に漏れるくらいの音がこのマンションもすんねんけど…今日は聞こえへん。
不思議に思うてもっかい押して、更にもいっかい押して、次は連打して…てするけど音がせえへん。
ちゅうか、これだけ押して聞こえてるんやったら出て来るはず、やんなあ?


「ゆいー?」


あんま大声で呼べるようなとこやあれへんけど一応声掛けはしてみる。
物音は…せんでもないけど返事はない。出て来る気配も、ない。
どこぞの取り立て屋みたくドンドン叩くっちゅうテもあるっちゃあるけど…そう思いながらもドアノブに手を掛けた。

――カチャ。
やっぱ、開いとった。何遍注意してもあかんなあ…結構言うとんのに。
女の子の一人暮らしやー言うとんのにゆいときたら警戒心が足りひん。こんなんでよう両親も一人暮らし了承したなあ、て感心する。
ほんまに…どうしょうもない子や。それでも、そないな子でも「好きやなー」て思う自分もどうかしとる。

静かに物音立てず玄関からリビングの方へ移動してけば結構な音量の音楽が聴こえて来た。
この様子やとゲームしとってえらくハマっとるんやろうな。けたたましい音と共にコントローラーを操作しよる音も聴こえる。
ゆいの部屋、結構来とるんやけどこういう場面には遭遇したことはあれへん。けど俺は知っとる。テレビ台の下、ゲーム機が眠っとること。
暇な時間にしとるんやろーな、くらいに考えてはおったけど人の気配にも気付かんくらい集中するタイプやったとは…

さて、どないしようか。
いきなしデッカイ音立てて驚かしたるんも悪うない。しれっと横におって驚かしたるんも悪うない。
けどなあ、いまいちインパクトが足りひん気もする…結構そういうんは日常化しとるし、こないだも入浴中に侵入したし――…


「んっ!?」


ちょお警戒心持たすため、いっちょビビらすかな。そう思うた時にはもう行動に出とった。
両手で彼女の目と口と、背後から取り押さえて俺と分からんよう視力を奪う。精一杯低い声で俺と分かんようして…

「声、出すな」
「……っ」
「暴れてみろ、首の骨折るぞ」

ビクッと体が震えたんが俺にも伝わった。どうやら俺とは気づいてへんらしい。
ほんのちょっとだけ首に回した腕に力を込めてみる。勿論、ほんまに折ったりなんかせえへん。
せやけどほんまに折られてまうと思い込んどる彼女は小刻みに揺れて恐怖で怯えてるようやった。

「不用心にも程があるなあ」

玄関に鍵は掛けてへん、中に誰かが入って来ても気付かん。ほんまに不用心や。
俺やなかったら間違いなく犯されとんで。世の中、そんなんが仰山居てるさかいな。ようテレビでも言うとるやろ?

「ちゃんと鍵掛けえて何遍言うたら分かるん?」
「……おし、たり?」

「正解」

パッと手を離して背後から顔を覗き込めば、そこにはポカンと間抜けな顔をした彼女が映る。
背後で流れるけたたましい音楽とは裏腹な彼女の表情、そして俺もまた同じでヘラヘラ笑って見せれば…彼女の眉がキュッと縮んだ。

「お、ちょお驚かしすぎたか?」
「……ううーっ」
「こないなことあるかもしれへんやろ?せやから鍵――…」

話の途中、腰を折るようにドスッと胸にぶち当たったんは…ゆい自身。
腰に回された腕がぎゅうぎゅうに体を締め付けて、頭はこれでもかというくらいに俺の胸に押し付けて。
夢でうなされた子供が母親にすがるような図。まあ、俺としては役得っちゅうか何ちゅうか、にしても何か変や。
普段のゆいやったら奇怪な声上げて「驚かすな馬鹿!」「ビックリしたじゃんコノヤロー!」くらい言うてくるもんやと思うとったんやけど。

「ゆいー?」
「……おし、たり、の、ばか!ひっ、く」
「え、ちょ、ゆい?」

な、泣かせてもうた!?
ちょっとしたジョークのつもりやってん。ほんのちょっとでええから警戒心持って欲しかっただけやのに…まさか泣いてまうとは。

「す、すまん!堪忍なゆい」
「うっ、おし、たり、の、ばかっ」
「ほんま堪忍や。泣かすつもりとかなかってんで?な?」

繰り返し繰り返し「すまん」と謝っては胸に張り付いたゆいの頭を撫でた。
コレほんまに夢でうなされた子供が母親にすがるような図やん。ほんまに怖がらせて泣かせてしもたと自己嫌悪に陥る。
やって予想しとらんかったんやもん。怖がって泣くとか普段のゆいから全く予想だにもしてへんかってん。

「もう驚かしたりせんから…泣かんどって」
「……ひっ、く」

胸元が少しずつ湿って冷たなるのが分かった。ゆいの涙や。
ゆっくり彼女の肩押して顔を見つめれば、目にはいっぱい涙溜めてそれをボロボロと流してた。
罪悪感。酷く胸が痛なって…洋服の袖で零れる涙を必死で拭った。何度も何度も意味のない謝罪を繰り返しながら。
しばらくして、泣き止むことの出来ないままの彼女がしゃっくりをしながらゆっくりと口を開いた。


「わ、たし、ビックリ、して、ほんと、こわ、かった、ん、だから、」


――強く、強く抱き締めるには十分な言葉だった。


「もう二度と怖い思いとかさせへん」
「……おし、たり?」
「俺が絶対守ったる。せやからもう泣かんで」

ちっこい体でも柔らかい女の子のもの。その大好きな女の子の香りを不意に感じた。
赤くなった目、赤くなった頬、少しだけへの字になっとる唇、無意識に指で辿ってそのまんま…覆い被さる自分が居た。
柔らかい唇に何度も自分の唇を重ねて、より密着するようにゆいを抱き締めて……ふと、我に返った。

「おし、たり…っ」
「……っ、す、すまん!」

慌てて彼女を解放して数歩下がった自分。顔が、唇が、妙に熱持って熱い。
自分が何をしでかしたんか分かって口元を押さえて驚いてもうた。当然、目の前のゆいも驚いて涙が止まっとる。
彼女の定期的なしゃっくりよりも自分の心臓の音の方がデカくて、何か言おう思うても言葉になれへん。
あ、かん。急速に攻めるんは止めよう、彼女はマイペースな子やからもうちょい時間を掛けて…て何処かで思うとったはずなんに。


「……あ、涙、止まった」


何も言うことも出来んと固まったままの俺を目の前にポツリ呟いたのはゆい。
頬を辿った涙の筋を自分でゴシゴシ拭って、猫みたく目元も指で擦る。
怖がっとるわけでも怒っとるわけでもなく泣いてもない状況やけど、ただ呆然としとる彼女に俺は…何て言い訳したらええんやろ。


「忍足…?」


泣いとるゆいにめっちゃ欲情してもうてキスしましたーじゃ話にならん、よな。


「……ごめん、なさい」
「え?」


何でそない申し訳なさそうな顔して謝りよるん?謝るんは俺の方やん。


「鍵、ちゃんと掛けるように、する」


……不用心なんを責められとると思ってんのかいな。
心配しよるんは確かなんやけど別に怒ってあないなことして…泣かせてしもて慰めるために、キス、とかせんで普通。
分かってへんねやろーな。ただの近所付き合いで此処までしてんやない、て。知っとる子やから心配しとるだけやないっちゅうことも。


「……せやね。鍵はちゃんとして」
「うん…」
「心配してまうさかい、な?」
「うん」


ただただ子供のように頷く彼女の頭を優しく撫でとったら、また小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。
また、抱き締めたい衝動に駆られたけど今度は理性でどうにか堪えて。しょんぼり肩を落としたままの彼女を撫でた。
しばらくして、俯いていたゆいが不意に顔を上げた。


「……忍足」
「ん?」
「忍足に…ウチの合鍵預けとく」

「……はあ!?」

あ、あい、合鍵て何考えとんねん!そんなん俺かてそう他人に渡さへん代物やど!

「何か、あったら、やだ、し」
「そ、そら、そうかもしれへん、けどなあ」
「だから、忍足に…」

酷く潤んだ目、いつもに無い可愛らしすぎる彼女の仕草。これに対して俺がどう抗えるっちゅう話。
彼女は知らん。俺のこと何も分かっとらん。鍵渡してええ人間やないかもしれへんとか疑うことも知らん。

ただ、俺もこうなった時の対処法も知らんくて、ただただ硬直するばかりやった。



2011.01.03.


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