テニスの王子様 [DREAM] | ナノ
……また鍵掛け忘れとるやん。ほんま、危機感ない子やね。今月何回目やろか。
て、わざわざゆいの部屋のドアノブに手掛けよる自分も変なヤツやと思われてもしゃーないんやけど。
それでもやっぱ心配は心配やん?俺のゆいに何かあった日には俺が自己嫌悪で死んでまうかもしれへんし。
そないなことになれへんように俺が見張っとるにも関わらず、何も知らんとめっちゃ鈍い子なんや。俺のゆいは…

「ゆいー」
「ぬお!」

……色気ゼロや。もうちょい可愛らしい声出せや。
てか、何で風呂蓋なんか使うとるんや。自分入っとる時に風呂蓋とか要らんやろ。しかも首だけ出してからに…何やのソレ。

「おーバスタイムやってんか?」

でもま、急に誰かが入って来たと想定した時、それは防犯にはなるな。正直、その姿めっちゃビビるさかい。
俺かて一瞬、心臓止まるかと思ったわ。ポーカフェイスやから気付かれへんかったかもしれへんけどな。
で、肝心のゆいは…口をパクパクさせとるなー思うたら、急にデカい声で悲鳴なんざ上げよった。
「きゃー」とかやのうて「みぎゃー」やて。ほんま色気ない。ちゅうか…そないな悲鳴でも可愛いて思う俺かて重症やわ。



近所の足さん 02



一通り叫ばれてしもたさかいバスルームを出て数分後、ほくほくした様子のゆいが出て来た。
何や可愛らしい服着とって…ちょい理性飛ばしそうになったんはさておき。

「あ、アンタねえ…」
「別に何も見てへんやんか」
「そういう問題か!」

そういう問題やろ。ちょい期待して覗いたんに…アレはないやろ。風呂蓋からポッコリ出た生首は。
あれはほんまに有り得へんて。確かに熱気が逃げへんで温かいかもしれへんけど、アレはもう見たないな…
いや、それはまあ置いといて。それより重大なことあるやろ。気付いてへんやろから教えたろ。

「ちゅうか、お前また玄関鍵掛け忘れとったで」
「え?マジで?」

ほれ、やっぱ気付いてへんかったな。ほんま危機感無さすぎやし。

「セキュリティ甘いわ。ちゃんと鍵掛けな危ないやん」
「うわー気を付けないと…ってだから入って来たんか!」
「せやけど?」

ちゅうか、入って来たんが俺で良かった、くらい思うて欲しいとこやけどな。
全然知らへん人が入って来とったらどないすんねん。そないな細腕やったらねじ伏せられとるで?
ま、そんなんなる前に俺が守ったるんやけどな。相手は確実に死しかあれへんけど。
てか…それよりもっと大事なこと教えたらんとあかんかってん忘れとったわ。

「ついでに。あの風呂の入り方は止めた方がええで」
「へ?」

何なんソレ。なんでそこでそないな疑問染みた返事とかするんや?
どう考えてもあの入り方は普通やあれへんで。それくらい分かっとると思っとったんやけど…な。

「風呂蓋で全面隠して顔だけ出しとるやなんて有り得へんわ。色気無さすぎやろて」
「は、入り方は自由だろ!」
「ほんま色気無さすぎ。洗濯物も部屋干しするんはええけど無造作すぎやし」
「あが!へ、部屋を見渡すな!」

あーこういうんを「干物女」っちゅうんやろか。年頃の娘やっちゅうんに凄い部屋やと思う。
俺の部屋の方がアレ、物少ないんもあるけど綺麗なんとちゃうか?俺、洗濯物を部屋干しとかせえへんし。
あ、せやけどベランダに洗濯物とか迂闊に干しとったらアカンか。絶対、盗まれても気付かへんやろし。
下手したら取り込みとかもちゃんとせえへんで雨に濡れて洗い直し…とかなってそうやな。それもまたアカンわ。
……って、俺はゆいのオカンか!ちゅう突っ込みはせんどこ。
ある意味、オカンみたいなモンになりつつあるし。心配なんは心配やし。

「ていうか、アンタは何しに来た!」

せや、本題忘れとった。色々下心も含めつつの餌付け品を持って来たんやったわ。
どうもゆいは最近、ちょい痩せ始めよる気がすんねん。多分…いや、間違いなく食生活がようないんやろ。
ちゃんと飯食うとるんか、とか俺なりに心配しての差し入れ。わざわざ自分で作るとか…ゆいにしかせえへん。
そこへ辺とか、もうちょい勘ぐってもええとこなんやけど、結構鈍い子なんやなゆいは。

「ん?ああ…夕飯のお裾分け持って来た」
「え?マジで?」

「現金なヤツやな」て嫌味言うたっても、もう頭ん中は夕飯のことしかなくなったらしい。
目をキラキラ輝かせて…あかんな、そないな姿見ても可愛いとか思いよる自分は何なんやろか…末期か?
最初は何も思うてへんかってんでホンマ。ただ、ある日突然引っ越し蕎麦持って来よってな。
普通、女の一人暮らしやのにソレをアピールとかせんやろ?せやのに感覚ズレとるんやろかて思うたわ。
せやけど…一生懸命っちゅうか、頑張ろうっちゅう行動とか、そんなんに惹かれてった自分がおって。
気付いたら末期やわ。気になって気になって仕方あれへんねん。
変死体とかになってないやろか、変なヤツとか押し掛けて来てへんやろか、とか考えてまう。
悶々と考えるくらいやったら出来るだけ傍におったらええやん、て考えになってからは頻繁に足運ぶようになってん。
まあ…ただ自分が会いたいだけなんかもしれへんけど、な。

「いやーご近所付き合いって大事だよね!」
「……の割にゆいは何もしてくれへんけどな」

始めのうちは他人行儀やった。むしろ、ゆいが変に敬語とか使いよっただけなんやけど。
それが徐々に砕けてく、徐々に変わっていくんが嬉しかったんを今でも覚えとる。
お陰で俺は「ゆい」て呼べるようになってん。ま…ゆいは相変わらず苗字呼びなんやけど。

「かなり美味しそうだね!」
「そんなん当たり前やて。俺が作ったんやからな」
「うんうん。いつも有難うね」

……アカン。今の笑顔とかあかんやろ。こない可愛く笑う子やったっちゅうんは気付いとったけど…
今、この状況下で再認識とかさせんとって。俺、この部屋から自分の部屋帰りたくなくなってまうやん。
部屋帰っても誰もおれへん寂しさとか俺にだってある。ほんで考えるんは…全部ゆいのこと。
俺が寂しくなるんやさかい、ゆいは寂しすぎて泣いてへんやろか…とか考えとるんを、ゆいは知らへん。

「折角やし、俺もここで飯食うてもええ?」

ちゅうか、俺がこうやって差し入れした時は必ず一緒に食う。そんために作って来よるんやさかい一緒に食う。
少なくとも俺ん中での決定事項で拒否権とかはないねんけど、一応、此処はゆいの部屋やから聞いとく。
ダメやて言われたことはあれへんから「ええ」って言うのも分かって聞くあたりセコいんやろか俺。

「んー…片付けしてくれるならいいよ」
「……そないなこと言うんか」

せやね、うん。何となくやけどそう言う気がしたわ。めちゃくちゃ面倒臭がりやもんなゆいは。
ちょおそういう視線で見とったら案の定、「うん。片付け面倒だし」とか言うたさかい、ちょい溜め息出た。
この子ほんま、一人暮らしに向いてへん子やわ。よう両親も許したったなーて感心するわ。俺やったらアウトやわアウト。
やって危ないと思わんか?ただでさえセキュリティ甘い上に面倒臭がりやさかい、その辺から有毒物質湧くかもしれへん。
次会うた時は死体とか…ほんま勘弁やで。ちゅうか、そうさせへんよに俺が来よるんやけどな。

「ほな、自分の分持って来るわ」

健気やなーて自分で自分を褒めたなるわ。こないなことようせんで。ほんまに。
何でやろな、こないに頑張りよる俺見たら気付いたりとかせんもんなんやろか…俺がそういう目でゆいを見よるっちゅうこと。

「おう、行ってらっしゃい」





――ドクンッてした。
物凄い笑顔で軽く手振られて「行ってらっしゃい」とか何やねん、まるで俺ら夫婦みたいやん。
自然な流れやった。めちゃめちゃ自然な流れで今みたいなのがあってみ、普通に度肝抜かれるっちゅうねん。
何やろ…もう別々の部屋とかやのうて一緒でええやん。それくらいの勢いになってまう。
い、いや、それはあかんねんけど、せやけど…そないな風になれたらどんだけええやろか。幸せ、やろな。





ちょお面喰ろうたけど、とりあえず自分の分を持って戻ったら何やゆいが俺の分のコップとか用意してくれとって。
何やろ、普通一人暮らしやったら自分の分だけでええやん?せやのにもう一人分食器がある。
コレもう俺専用でええやんな、くらいの考えが出て来んねんけどあかんやろか。ちゅうか、俺の部屋にももう一セットあるけどな。
それが…ゆい専用言うたらビックリするやろか。いつかはそうなるとええなーくらいで用意しとる俺は阿呆やんな。


「忍足ーちゃっちゃと片付けよろしくー」
「……ハイハイ」

マイペースに俺の用意した夕飯を一緒に食べて、よう掴めん会話して、何気に「大好き」言われて。
めちゃくちゃ焦りよったら「家族みたいな」的ニュアンスで言うたらしくて、そこはちょいヘコんでんけどまあええわ。
今は何も言うてへんし、一方的やさかいしゃーないっちゅうか…少なくともただのクラスメイトやないだけええ。
何やろなー俺、基本的に攻めるタイプやて思うてたんやけど、相手によってはのんびりするんやろか。
まだ焦らんでもええみたいな気持ちになりよる。今はこのまんまでもええ雰囲気やし、何か心地ええんや。

「……ゆい。お前、俺のためにわざわざ残しとったん?」
「へ?」
「焦げたフライパン、放置されとる」

……まあ、こないなのも慣れたんやけどな。ほんま、この子向いてへんな一人暮らし。
こないに不器用でええんやろか。いや、俺的にはええねんけどな。教えたらええわけやし…なあ。
せやけど…出来れば焦げたフライパンは水に浸してて欲しかった、な。焦がしたら焦がしたまんまとか有り得へんよな…
これでハッキリしたわ。ゆいはほんまに家事とかしたことあれへん子なんや、て自覚した。インプットしとこ。

「ええか、次何か焦がしたら水に浸けとき」
「はーい。あ、でもさー」
「何や」

もうしゃーないから金だわしでゴシゴシして汚れ取りよる最中、
ひょっこり俺んとこまでやって来たゆいはむちゃくちゃ可愛え笑顔向けて言いよった。

「どうにもならない時は忍足に頼れるから安心だね」
「……っ」

首をこくんって傾けて笑顔全開、微妙に上目遣いとかでそないなこと言われた日には…肯定しか出来ひんやろ。つーか否定出来ん。
自分でせえや、とか言うた方がええんやろうけど言われへん。俺にばっか頼んなや、とか思うことも出来ん。
むしろ、もっと頼ってくれててもええ、とか…そないな考えまで浮かぶとか俺末期やわ。
ほんま…勘弁してえな。自覚あれへんと惚れとる相手動かすとか悪魔かいな。とんだ小悪魔ちゃんやないか…!

「……焦がさん努力をしい、な?」
「了解っす!」
「せやけど…どうも出来ひん時は俺呼びに来てええから、な」
「うん!有難う忍足!」

ほんまに嬉しそうに笑うゆいがどうしようもなく好きや。
向けられた笑顔を見てそないに思うとかあかんやろか。むしろ、それ告げたらあかんやろか。俺のもんにしたらあかんやろか。
何や俺だけが知っとるゆいの素顔。俺だけが知っとるゆいの私生活。それがほんまに俺の宝になりそうやて思うてもええやろか。

にこにこ笑うて俺の横、彼女は鼻歌交じりに綺麗になってくフライパンを眺めとって、俺は抑えとる気持ちをこのたわしに込める。
どんどん焦げは取れてって、まあ多少は傷んでしもたかもしれへんけど…数分もすれば綺麗になった。
ほんでそこでまた「有難う」と「大好き」の言葉をもろて…
「俺も…ゆいが好きやで」って言葉は、喉まで来とったけど敢えて飲み込んで「さよか」って返事だけしといた。



2008.05.14.


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