テニスの王子様 [DREAM] | ナノ
帰宅後の風呂はいいなー畜生、なんて思いながら軽く上機嫌の私。
一日の疲れを癒すにはやっぱりお風呂に限る!なんて半ばどこぞのオヤジみたいなカンジだけど、
この瞬間だけはのんびり出来る時間。あ、今度は雑誌か何か持ち込もうかな。そしたら更に幸せを――…

「ゆいー」
「ぬお!」
「おーバスタイムやってんか?」

特に気にしたような素振りもなく、むしろ勝手に何故入って来たんだお前!
不法侵入もいいとこじゃん!つーか、平気な顔してドア付近に立ったままってどういうことだよ!
バスルームに響く、私の声…水の効果なのか、窓がない所為なのか、何なのか…物凄く煩かった。



近所の足さん 01



「あ、アンタねえ…」
「別に何も見てへんやんか」
「そういう問題か!」

年頃の娘なんです!華も恥らう乙女なんです!勝手に入って来られて挙句の果てに風呂覗かれて…叫ばずにいられるか!
見る見られるとかの問題じゃなくて、ここまで来ればアンタ犯罪者だよ、犯罪者!警察に突き出されたいんか!

「ちゅうか、お前また玄関鍵掛け忘れとったで」
「え?マジで?」
「セキュリティ甘いわ。ちゃんと鍵掛けな危ないやん」
「うわー気を付けないと…ってだから入って来たんか!」
「せやけど?」

あっさりキッパリ、しれっと「それが何か?」くらいの勢いで言われちゃいましたよ…本当に気を付けないとダメだね。
どうもウッカリしてるトコがあるらしくて、時々こうやって忍足が不法侵入して来る。でも風呂場に乗り込まれたのは初めてだな…
うん。色々と危機感沸いたわ。ある意味感謝だけはしとこう。あくまで心の中でだけどさ。

「ついでに。あの風呂の入り方は止めた方がええで」
「へ?」
「風呂蓋で全面隠して顔だけ出しとるやなんて有り得へんわ。色気無さすぎやろて」
「は、入り方は自由だろ!」
「ほんま色気無さすぎ。洗濯物も部屋干しするんはええけど無造作すぎやし」
「あが!へ、部屋を見渡すな!」

な、何なんだお前は!私のオカンか?私の第二のオカンなんか!
しれっと室内チェックとかしてんじゃないよ!仮にも年頃の娘の部屋で…その辺は指摘されたくない部分!
いや、確かに適当に部屋干しした衣服類だとか色々あるさ。ついでに乾いてて畳んでない代物だってあるさ。
だけどそれを指摘とかしないで欲しい。色々あるんだよ、一人暮らしで自炊で…こう色々大変なんだよ!

「ていうか、アンタは何しに来た!」
「ん?ああ…夕飯のお裾分け持って来た」
「え?マジで?」
「……現金なヤツやな」

いやいやいや、現金なヤツだって言われても構わないよ、ほんと。
だって無駄に忍足って料理上手なのね。全然知らなかったことだけど、此処に越して来て初めて知ったわ。
私がこのマンションに越して来たのは今年の春。父が転勤とかになっちゃって母は一緒に行こう、だなんて言ったけど、
やっぱ3年で転校とかしたくないじゃん?全然馴染めないままに卒業…って可能性も大なわけで。
ついでに言えば、その先々にある同窓会だってその転校先の学校とかになる。そんなの嫌で嫌で堪らなくて。
それで駄々捏ねて始めた一人暮らし。苦手な自炊生活。寮もあるんだけど…ま、憧れの一人暮らしを取った自分は現金だ。
そのマンションに先に住んでいたのがクラスメイトの忍足。凄いね、もう一人暮らし3年目だってさ。知らなかったわ。

「いやーご近所付き合いって大事だよね!」
「……の割にゆいは何もしてくれへんけどな」

ええ、何もしませんとも!ていうか、忍足の方が明らかに先輩なわけだからすることないし。
自分の世話で精一杯なわけですからね。忍足にしてやれることは一つたりともないです。コレ本音ね。
でも、敢えてそれは口にはせず頂き物の中身を拝見。うわー立派なお好み焼きですよ。

「かなり美味しそうだね!」
「そんなん当たり前やて。俺が作ったんやからな」
「うんうん。いつも有難うね」

とりあえず忍足に感謝。出来上がったお好み焼きに感謝。これで食いっぱぐれたりはしない。
丁度いい具合に買い物行くの忘れてたから冷蔵庫の中身とかゼロなんだよね。本気で助かったわ。
大体、買い物するのも大変なんだよ。自分一人に対して、どのくらいの材料を買っていいのか、とかさ。
安くて思わず束買いなんかした日には腐らせたりとか最初はしてて…本当にアレは酷かったわ。
何気に冷蔵庫で腐っていく食材を目の当たりにして切なかった。色々難しいよ、買い物って。

「折角やし、俺もここで飯食うてもええ?」
「んー…片付けしてくれるならいいよ」
「……そないなこと言うんか」
「うん。片付け面倒だし」

そう言って忍足に選択肢を与えれば、渋々ながらも片付けを了承したから一緒に食事をすることになった。
何だかんだで一人で食事するのは寂しいもんだからね。たまには誰かと話しながらも良いと思う。
ま、私の場合は友達とマックで夕飯済ませちゃうことも多いし、忍足は忍足で色々と連れ込んで食べてるとは思うけど。

「ほな、自分の分持って来るわ」
「おう、行ってらっしゃい」

手を振って忍足のお見送り。何か変なことをしたかな?ちょっと忍足が変な顔をしてた気がした。
でもま、忍足が変なのは今に始まったことでもないし、うん。忍足の分のお皿だとか用意しておこう。
自分の分のお好み焼きだけしか持って来なかった時のために。それくらいはしてあげれることだよね、と解釈。
でも…何だろうな、結構変なカンジがする。別に学校では特別仲が良いわけでもないのに…
ま、帰宅した途端、本当にキョウダイみたいなカンジで接してくる忍足に嫌な気持ちはしないけどさ。





「……うん、美味しい!」
「当たり前やろ。俺が作っと――…」
「あー分かった分かった」

小さなテーブル、向かい合わせで食事を採ってる光景って意外と変かもしれないな…なんて。
いやね、普通に「麦茶注いで」「自分でせえや」「とか言いながら注いでくれる忍足は優しいね」みたいな会話してるんだよ。
軽く忍足親衛隊が羨む光景じゃないかな。ちょっと優越感かもしれない。でも、この雰囲気はキョウダイだね。兄と妹。
何だろう…忍足って意外と面倒見いいんだね。妹とかいたら可愛がってそうで…あ、それは怖い光景かも。

「うんうん。忍足はイイ兄さんになるよ!」
「……妄想から会話せんといて。普通に付いて行けへんわ」
「いやね、忍足は面倒見いいからイイ兄さんに――…」
「面倒見ええっちゅうんは関係あれへんやろ」

うーん、どうも忍足とは少し感覚というか、感性だとか考え方の根本が違うっぽい。
色々と話をする機会が此処に来てからあるんだけど…なかなか意見とか合わないんだよね。これが立派に。
それが何?って聞かれても困るとこではあるけど、何となくそんなこととか考えることが多いんだよ。これって発見だよね。
十人十色って言葉を学ぶきっかけとかになるんだよ。ま、特には気に掛けたりとかはしてないけど。

「なーんか、忍足にはお世話になってばっかだね」
「せやな…てか今更ちゃう?」
「……そこは「そんなことないよ」くらい言ってよ」
「何でやねん」

ほらほら、月並みで社交辞令なんて吐かないんだよ。私だったら嫌味も含めつつ社交辞令くらいは吐くよ。
こんな違いとかが勉強出来る環境って凄いと思うんだ。転勤になった父親と一人暮らしを許可してくれた両親に感謝だね。
可愛い愛娘は充実した日々を送ってるよ。自立、自律…はしてるかは不明だけど、本当に充実してると思う。

「凄く感謝してるんだよ、忍足には」
「……さよか」
「うん。何だかんだで食いっぱぐれてないし、楽しく過ごせてるしね」

最初、本当は楽しみな分だけ不安もあった。「一人で大丈夫かな?」とか「寂しくて泣いたらどうしよう」とか。
変な人が突然来たりとか強盗とか殺人とか…本当に数え切れないほどの不安とか持って一人、此処へ残ることを決めて。
半々で怯えながら過ごすところだったところにたまたま忍足が居て、気まぐれに構ってくれて。それがどれほど安心したことか。
いやね、気まぐれででも気に掛けてくれて本当に嬉しかったりするんだよ。

「楽しく…過ごせとるんか」
「勿論!え?何か変かな?」
「いや、別に」

……何だ?今の間とか間とか間は。
楽しく過ごせてるに決まってるじゃん普通に。楽しくなかったら即逃げてるとこだよ。
「最初から寮にしないから!」と母に怒られても仕方ないくらい泣いて寮に移っちゃってるとこだよ。
うん。これってやっぱり近所に忍足が住んでたお陰だよね。きっと、間違いなく。

「本当に忍足には感謝しなくちゃ」
「そう思うんやったら今度何か俺に差し入れしいや」
「それは無理」

そんなの笑顔で却下に決まってますわよね。自分のことで精一杯なんだからさ。
そう忍足に告げたなら少しだけ苦笑して納得してくれた。私の頭を子供にするみたいに優しく撫でながら。
不思議なくらい、こんな日常が当たり前で…ああ、私に兄が居たらこんなカンジかな?ってシュミレーション出来るみたいな。

「うん。私、忍足大好き」
「……は?」
「忍足が近所で良かった」

純粋に素直にスルリと出た言葉に忍足はちょっとだけ変な表情をしたけど、そこはサクッと無視して私はお好み焼きを頬張る。
微妙に忍足の箸が止まっちゃってるから、少しずつ彼の分まで拝借しながらモグモグと。
ふわふわしたお好み焼きは徐々に私のお腹を満たしてくれて、物凄く幸せな気持ちにしてくれていた。



2008.02.15.


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