「今日はほんまええデート日和やんなーゆい」
「何気に呼び捨てで呼ぶな」
「折角やさかい手繋ご。なー?」
「意味分かりませんから」
Love Romance -ラブ・ロマンス-
折角て何さ。かなり私としては不本意だよ、忍足と並んで買い物なんざ。
何で3万もする伊達眼鏡とか掛けてるんだ?貧乏学生には到底出せるような金額じゃないよ。
微妙な丸眼鏡なくせに…ブランド物?それとも限定品なわけ?3万…3万もあれば…古着買うね。
全部使い切ってもイイっていうんだったら気に入ったヤツを全部買って帰るわよ。私ならね!
「ゆいの手、やらかいね」
「のわ!い、いつの間に…」
「ボーッとしとるんが悪いわ」
深い溜め息なんか吐いてる間に眼鏡のヤツめ…しれっと私の手なんか握って来たよ。
って、眼鏡は私が不本意にも壊しちゃったからこのあだ名は成り立たないわね。
眼鏡ナシの忍足…擦れ違う人が振り返るくらいの顔立ち。うん、それだけは認めておくけど…
「ちょっ…手離してよ」
「ん?嫌や」
「嫌って…アンタ駄々っ子?」
ブンブン振り回しても離しちゃくれない…なんて握力してるんだろう。全然平気そうに笑ってて。
あーもう何で眼鏡壊しちゃったかな自分。大体、忍足が訳分かんないことさえしなければこんなことには…
今更後悔とかしても遅いけど、それでも後悔してしまうあたり私も人間よね…なんて思ってみたり。
てか…こうして手なんて繋がれて嫌な気持ちがしないのは何でだろ。
忍足の手の方が大きくて温かくて、だからかな。それが別に嫌なカンジはしなくて…変なの。
「ええやん。仲良く買い物しよーや」
「別に仲良くは――…」
「弁償3万也」
「い、いや、仲良しだもんね。忍足と私は!」
……畜生、やっぱり3万なんて金額はデカ過ぎる!
変に弱みを掴まれちゃったような、脅されてるような、そんな気がしてならないんですが。
あー鼻歌なんか微妙に歌って嫌味な眼鏡野郎だね!今は眼鏡は掛けちゃないんだけどさ!
完全に眼鏡のペース。手を引かれて歩く人混みの中、物凄い不本意そうな自分の姿が映ってると思う。
それを確かめたくて見たショーウインドウに映し出された自分…あれ、何か、笑ってる気が、する。
「ん?何か欲しいもんでもあったん?」
「い、いや…何でもない」
「さよか」
あ、アレだ。眼鏡が妙に笑ってるから移っただけだわ。その笑った顔が連鎖反応して移っただけ…
にしても、いつまで歩かせるつもりだろ。特にアテもなく歩いてる気がするのは私だけ?
よくよく考えたら場所とか全然聞いてなかったな。頭の中は3万って数字が幅取っちゃって。
3万、3万…ってやっぱデカいよ。金持ちなんだろうな、忍足ん家って。3万の伊達眼鏡だよ、馬鹿みたい。
「はあ…」
「何やの。折角のデートで溜め息吐いて」
「いやデートちゃうし」
「デートやろ。手繋いで歩きよるし」
「小学生の遠足レベルだよ、コレは」
あ、小学生の買い物でも良かったかな?お母さんと一緒に買い物に行く小学生。
そんな光景は微笑ましいものはあるけどコレは微笑ましくも何ともない。何処まで付き合わされるんだか。
「ねえ忍足。目的地はまだ?」
「んーどないしよか」
「いやいや…さっさと目的地行きなよ」
「せやかて替えの眼鏡あるし」
……はい?
今、この眼鏡野郎…いや眼鏡ナシ野郎は何て言った?替えの眼鏡あるとか言わなかった?
でも眼鏡買いに付き合わされてるなんだよね私。付いて来なかったら弁償とか言ったわよね、この眼鏡は。
半ば脅しまがいの恐喝行為を受けて付き合ってるんだよね今。ねえ、そうだよね?
「ちょっと待って。今から頭の中整理するから」
「おーほな待ったろ」
でも替えの眼鏡とやらは持っている、ということは買う必要は一切合切ナシ。ということは…眼鏡は不要?
不要な物を買う人なんて早々いないわけであって…つまりは眼鏡は買わない。結論、無駄行為…
「忍足!」
「おー整理付いたか?」
「アンタ、眼鏡買うとか嘘吐いたわね!」
何か行くアテもなくブラブラしてるなーとは思ったけど、眼鏡買う気なんてサラサラなくて、単に時間潰してるだけじゃん!
私の貴重な放課後の時間返してよ!いやね、確かにすることとか全然ないし、家ではボーッとするけどさ。
それでも帰ったら帰ったで借りっぱなしのゲームとかしてみたり、録画だけしておいたドラマとか観たりとか…
何とも言えない可哀想な時間くらい過ごせるんだよ!一人でギャーギャー騒げるだけの過ごし方出来るんだよ!
「何や急に…てか心外やね」
「心外もクソもあるか!」
「せやかて俺、買い物付き合うてとは言うたけど眼鏡買うとは言うてへんで」
「屁理屈抜かすな!」
「あーきゃんきゃん喚かんといて、視線浴びるやろ」
……そうでした。此処は何気に人目のある場所で御座いました。
行き交う人々が軽く冷たい視線を私たちに与えてくれています。痴話喧嘩?みたいな表情を浮かべて。
うわー気付いたら恥ずかしいって感じるんだね。とりあえず離脱、この場を離脱して話をすべきだね。
「場所変えよ、忍足!」
「えーまだ陽暮れてへんし、制服でそないな――…」
「変な解釈すんな!」
「せやかて人気のないトコ連れ込む気やろ?」
「んなこと言ってない!どうでもいいから行くよ!」
正直、このクソ眼鏡は死んだ方が良いと判断しました。
どうにか手を引いて歩いてはいますが、何か言えばソッチの方向へと会話を進める始末。
コイツの頭の中って一体どうなってるんだろ。セクハラまがいの下ネタしか入ってないのか?それで成績優秀は詐欺だ。
人混みを避けて辿り着いた場所、煌びやかなお店が立ち並ぶ場所から離れたせいか物悲しいカンジ。
陽もだんだんと暮れ出して、それが余計に物悲しさを演出してるような気がする。ついでに微妙に冷え込んで来てるし。
「結構冷え込んで来よるなーゆいは平気か?」
「まあ平気…って、そんな話をしに来たわけじゃないよ!」
「ほな、どんな話してくれるん?」
「私が話すんじゃないわよ!アンタが何をしたくて嘘吐いたのかってさっきから聞いてるでしょ?」
別に嘘吐いた覚えは無い、とか小さく呟いてるけどソレ自体が嘘だろって話。
どう会話を振り返ってみても眼鏡を買いに行くのに付き合えって脅したでしょうが。3万っていう大金を掲示して!
恐喝だよ、恐喝行為!それなのに眼鏡を買いに行くどころか、よく訳分からない行動に出て…何がしたいんだか!
あーもう、本当に冷え込んで来たっていうのに何やってんだろ自分。何かもう…勘弁して下さい。
「もう…何がしたいのアンタ」
「ん?今更そないなこと聞きたいん?」
「今更とかそういう問題じゃ――…」
「好きやから俺と付き合うて」
……んん?何か不可解な単語が並んでたような気がするんですが。
ああ、冷え込んで来たから「すき焼き食べに行くのに付き合って」って…言うわけない、ですよね。
「ゆいが好きやから付き纏っとるんやで。それくらい分かれや」
そんな一言をどどーんと言われましても…えっと、もう一回頭の中を整理した方がいいのか…?
むしろ、忍足がそんなキャラだったとは知らなかったんですが。アレ?忍足、忍足、忍足…ってそんなキャラ?
い、いかん。色々と混乱して来た。えっと…忍足、私のことが好き、なんですか?
そんな肯定染みた言葉を頭の中で考えてたら余計に混乱して…で、ヤバいくらい心臓が跳ねてる。
「……なあ」
「は、はい?」
ひ、低い声で吐息混じりに声など掛けないで下さい!今、その声聞いたら…何かヤバい。
自分の意思はそっちのけで忍足に従ってしまいそうな、そんな、そんな気がして…ヤバい。
「俺のモンになるんと、俺を自分のモンにするん、どっちがええ?」
な、何だ?その不可解な選択肢は!てか、どっち選んでもアレじゃん!
……忍足と、付き合うっていう選択肢しかない。
どっちにする?と笑ってる忍足に、私はただただ焦った。どう答えて良いのか、全然分からなくて。
ただ、そんな私を見た忍足は急に腕を伸ばして私を引き寄せていた。ブレザーの下の白シャツが見える。
「ごちゃごちゃ考えんと、心が告げたまんま俺と付き合うたらええねんで」
御題配布元 リライト 組込課題・台詞「俺のものになるのと、俺を自分のものにするの、どっちがいい?」
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