「メリークリスマス！」
「.........う､うん｡メリクリ」
「何やテイション低いなあ」
「いや､むしろ驚きすぎて言葉が出ないんだよ」

可哀想すぎるぼっちなクリスマスに意味もなくローストチキンではなく手羽先なんか食べていた時に訪れた来客｡それだけでも十分ビックリなのにやって来たのは随分と浮かれたカンジの忍足(他に家を知ってる人はいないんだけど)で､しかも両手に色んなものをモッサリ抱えて…まるでサンタだ｡

「てか酒くさっ」
「あー...今まで跡部ん家でパーティーやっとってなあ」
「ああ､噂のアトベッキンガム宮殿で？」
「まあそこはスルーやけど､色んなもんあってんから盗んで来たったわ」
「来たったって...」
「どうせゆいはぼっちクリスマスやろ？寂しいんやないかなーて思うて」
「うっ､」

.........グッサリ､刺さったよ忍足さん｡
ええ､ええぼっちでしたよ｡ぼっち上等！万歳三唱！でしたよ｡ウチは神道？いや仏教？だからクリスマスとか関係ないし！とか負け惜しみは言わないけど､ぼっち確定みたいな言い方はどうかと思うよ｡ほんと｡これでぼっちじゃなかったらどうしてくれんのよ(いや､ぼっちだけど)｡

「とりあえずアレや｡上げて？」

とか､何か可愛らしく小首傾げて言われても...

「忍足って...楽しいお酒なんだね」
「何が？」
「いや､まあ...うん､どうぞ入って」
「おおきに｡ただいまー」

随分と上機嫌で中に入ってく忍足｡こんな忍足とか初めて見た｡お酒の力って凄い｡
軽快な足取りでそれなりに勝手知ったる私の部屋へと入り､床置きテーブルの前に彼は座り込んだ｡そして､両手いっぱいの荷物から微妙に気持ち悪い笑い方をしながら何かを取り出してく｡多分､キング跡部の家から持って来たものだろうけど...

「ねえねえ忍足さんや」
「んー？」
「これって...」

ダダーン！とウチのしょーもないテーブルに並ぶには凄すぎる品物が､ある｡

「ん？丸ごとローストチキン未開封や｡あと､こっちはブッシュ･ド･ノエル未開封」
「手付かずの新品盗んで来てる！！？」
「せや｡立食やってんし､出来立てをチャチャッとシェフに頼んで持って来てん」
「常識欠落人種撲滅！！！」
「え？べ様もシェフも執事さんもええて言うてくれたで？」
「ついでに富裕層も撲滅！！！」

ろ､ローストキチン様が神々しいよ！？何コレ､何かママンが作ったものとは何か違うよ！？ケーキだって...何コレ！簡単に作れるブッシュ･ド･ノエル♪とも全然違うクオリティーだよ！芸術品の一種だよ！？これ､盗んで来ていい代物じゃないし！高額請求されるレベルだし！！

「あとそれから､べ様から産地直送のボージョレ・ヌーボーや」
「ぬお！！？」
「今年はあんまええ出来やないんやて」
「知らないよそんなの！！」

は､初めて見たよボジョレー様...いや待て､激安量販店で見たことはあるけど...こんなんじゃなかったし！！
ふ､フランス語なんだよね､この字｡何書いてあるか分からないけど筆記体が眩しすぎる！何コレ､本当に産地直送！！？

「まあ落ち着いてや｡落ち着いてワイングラス出してんか？」
「んなものあるか！！！」
「ほなコップ」
「コップで天下のボジョレー様が飲めるか！！！」

と､叫び倒せば忍足が勝手にコップ持って来て勝手に開けて勝手に注ぎ始めた｡ついでに勝手に不似合いなお皿と包丁､箸にフォークも持って来て取り分け始めて...ちょっ､待って､写メ撮らせて！！と頭が混乱してる｡いかん､本当に混乱してるよ私！！

「どうどう､ほんま落ち着こうや」

出来ましたら､この状況下で落ち着く方法を教えて下さい｡さあ教えて下さい｡

「.........忍足さん､私､一般で庶民なのだよ」
「そんなんおれかて庶民やて」

んなノーテンキな庶民が何処に居るんだよ！！

「黙れブルジョア！ええい､プロレタリア根性で全部食ってやる！！」
「よーしエエ根性や｡いっぱい食うて飲んで大きくなりー」

取り分けられたチキンとケーキ､毒々しい赤のワイン｡多分､もう二度と食べることも飲むこともない代物を一応合掌して頂く｡
チキン､美味すぎ｡ケーキ､美味すぎ｡ワインは...あんま美味しくないけど価値を考えたら飲まずにはいられない｡

「おもろいクリスマスやなあ」

と､忍足が笑う｡私は根性で飲み食いする｡こんなクリスマス...初めてかもしれない｡


初めて､初めてばかりのクリスマス｡
ワインの所為かどのタイミングで聖夜が終わったのか､翌朝目覚めた時に分からなかった｡







一緒にケーキも食べましょう｡


「.........すまん」
「いや､そこまで真剣に謝られても...」
「ほんま堪忍！おれ､ほんまに酔うとったらしい」
「まあ...酔ってらっしゃいましたけど...」
「ほんますまん！年頃の大ボケかつ阿呆な娘さんとこに一泊とか...ほんますまん！」
「何か余計な補足ついてるよ！？まずそこ訂正して！！」



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