テニスの王子様 [DREAM] | ナノ
忍足の様子が変だけどコレって首を突っ込んでいいのか分からない。

にこにこした表情の裏に何か重いものを感じるようになった。悩みでもあるのかと思うくらい重いもの。
でも、ほら、青春真っ盛りで悩め若人!の時だ。そういうこともあっておかしくはない。だから…何も聞けなかった。それによく考えたら私と忍足はご近所さんで茶飲み仲間ではあるけど「友達」でも「恋人」でもないんだ。首を突っ込むには微妙なんだ。

そう考えたら、少しだけ寂しくなった。




近所の足さん 09




料理の邪魔になるとか言われて同じ間取りの全く違う部屋でポツンとソファーに座っている私。
住む人間が違うとこうも違うか!というくらいシックというかモダンと言うか…とにかく大人な忍足の部屋は相も変わらず居心地悪い。ついでに言えばウチのより遥かに大型かつ高性能っぽいテレビにもウッとなる。このテレビでゲームにのめり込んだ暁にはきっと現実世界には戻れないだろうな、みたいな。
あまりキョロキョロするのも何だけど相変わらずの綺麗なお部屋に圧倒されまくりだ。

「暇やったらテレビつけてええよ」
「あ、お気遣いなくー」

……テレビの本体電源の位置は何処デスカ?とか聞けない。
さっきまで他人様の部屋をキョロキョロしないの!と思っていた私だったけど落ち着かないからキョロキョロを再開する。
えー…テレビ台の棚には異様な数のDVDが陳列、タイトルからしてどうやらラブロマっぽい(中身は観ないと分からないけども)。近くの棚にはこれまた大量の本、ラブロマっぽいタイトルで変な本は(多分)ないらしい。で、壁に掛けられたコルクボードには男テニの皆さんの写真がズラリ。忍足がわざわざ買って貼るようなことはないと思うけど…作ったのは後輩くんたちかガックンかな?超レア写真が惜しみもなく公開されている。

「いかん。だんだん諭吉に見えて来た」
「……欲しかったらあげてもええけど売るのは勘弁やなあ」

うお!壁にもたれてこっちを見る忍足の目が笑ってない!!

「いやいやいや!ちょっとレアすぎる写真たちにちょーっとだけ、ねえ!」
「ねえって言われてもなあ」
「てか、よくよく考えると今の忍足もレアだよねエプロン似合いすぎ」
「おだてても何も出てけえへんよ」
「……すみません」

謝りますから出来ればご飯は作って下さい。全ての食材をこの部屋に持ち込んでいるんで家には何もありません。

「けどさ、男テニは本当に仲良しだよね」
「まあ…悪うはないな」
「この写真って合宿とかで撮ってるんでしょ。すっごく楽しそう」

コートで練習してる時とは全く違う雰囲気がこの写真たちからは見受けられる。いつもキングの怒声と黄色い声が何とも言えないもんだからピリピリしてるけど、この写真にはそういうのは見受けられない。何か切り取られた青春ってヤツだ。

「楽しい言うても練習量は通常の三倍や」
「さっ!?」
「夜は死んだように寝るだけ。ある意味地獄や」
「ご、ご愁傷様です」

キングは自分にも仲間にも容赦ない人なんだ…
コルクボードに手を合わせて再度、ご愁傷様ですと心で告げて忍足の方を向くと姿はもうなかった。その代わりにふんわりと美味しそうなグラタンの香りがして気分が一転。急にお腹まできゅるきゅる鳴り始めていた。

「忍足ーお腹空いたー」
「あとちょい待ちー」

何か家族みたいなやり取りだ。
毎日毎日、お腹がすいたご飯ーってテーブルガタガタさせて催促していたことを思い出す。女子力低いからね、ちょっとは手伝ったけど自分で炊事なんてほぼない。いつの間にか母が料理を作ってて、私はそれをウマウマ食べるだけ。何か、それを思い出すとちょっとシックになる。元気にしてること間違いなしなんだけど…元気かな二人とも。

「忍足ー」

立ち上がって開いたままの扉へ歩くとその先には忍足の背中が見える。

「あと1分や」
「手伝う」
「……どないしてん」

何でもないと小分けされたサラダを運んでいいか確認する。

「手伝いたいなら後片付けでも頼もか?」
「……それは嫌」
「ワガママさんやね」

クスクス笑ってポンポンッと頭を撫でた忍足に少しだけホッとする。ほんとイイ人だ忍足は。

「それ持ってったら座っとって。もう出来るさかい」
「了解」

言われた通り、サラダを運んでまたソファーに腰掛ける。
すると間もなく忍足がミトン型の鍋掴みを着けてグラタンを運んで来た。何か可愛い姿だ。てか、そういうのも持ってるんだーと感心しながらも自分の女子力の低さに少しヘコんだ。





ウマッ、何をどうした時にこんなウマウマなグラタンが作れるんだろう。
ついでに野菜サラダのドレッシングもまたウマウマなんですけど容器が市販じゃないってことは…自家製?凄いな忍足。

「ウマウマですよ忍足さん!!」
「そら良かった。で、学園祭の出し物決まったん?」
「……ウマウマ当たり前みたいにスルーしたね。学園祭は…うん、何か、ねえ」
「歯切れ悪いなあ」

歯切れも悪くなりますって。てか、本当にウマウマ。
モグモグしながら今日行われた恐ろしい会議の内容を忍足に説明。忍足は祐希ちゃんを知ってるのかな、微妙に納得したような顔をして苦笑する。

「そうやったんや。それで、」
「何?」
「あ、いや、何でもあれへん」

当日の跡部でも想像して憐れんでるんだろうか。

「忍足のクラスは?もう決まった?」
「プラネタリウム。教室中に暗幕張り巡らして機材ポーンで終わり」
「いいなあ。ウチはアレが可決されると修羅場になるよ絶対」
「その修羅場作りしたんは自分やん」
「うっ、確かに…でも他に浮かばなかったんだよ」

クラスではそれなりに意見は出たけど、いざコレ!と言えば祐希ちゃんが微妙な顔するし(その顔のまま他の意見はありませんかーとか言っちゃう)、アレ!と言えばキングがイラッとするし(丸わかりなので提案者の語尾が小さくなっていった)。で、結局クラスでまとめられなかったもんで「今件、俺が決める」とか何とかキングが言い出して…それであの会義。イミフな理由で私も参加。そして私提案、祐希ちゃんノリノリ、みたいな。

「私は決して悪くない!!」
「ハイハイ悪ない悪ない。まあオモロイ発想やけど、後は俺様やね」
「そこは祐希ちゃんが何とかしてくれると私信じてる!」
「笹川には跡部も勝てへんようやし通るやろうな」

うん、通ると私も思うよ。だから怖い。
サラダに思いっきりフォークを突き立てながら思いっきり溜め息吐いたらまた忍足が苦笑する。

「興味あったらおいでよ」
「興味あれへんこともないけど…なあ」
「……ですよね。けど一応お誘いしておきます」
「ほな…考えとくわ」

お互いに社交辞令。多分、忍足は来ないと思う。
けど、私はちょっとだけプラネタリウムに興味あるから行こうと思った。時間があれば、だけど。

「私も忙しくなかったら忍足のクラス、しれっと寄るからね」
「おおきに」





その後、他愛のない会話をしながら食事を終え、それなりに片付けを手伝って、何故か私の部屋の玄関先まで忍足に送ってもらった。
きちんと戸締りするように、放置した制服はきちんと干して寝るように、明日の朝もきちんと戸締りするように、窓もきちんと閉めるように、などオカン的注意点を並べてから忍足は帰って行った。

いつも通りの忍足にホッとしつつ、そこまで不用心ではないけど…なんて思いながら「おやすみ」と手を振って私も部屋に戻った。





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